業界視点でアカデミー賞を斬る! 受賞予想とハリウッドの課題と変化

(※注意:このコラムの文中のキャラクターの名称や、監督名・俳優名・女優名などは、原語または米語の発音に近いカタカナ表記で書かせて頂いています)

さて今年は、少し例年とは違った形で受賞予想について語っていきましょう。

どの作品が1位か2位か、あるいは誰が受賞して誰が逃すか...?
それを分析する以上に、今年のアカデミー賞は我々に深く何かを考えさせる機会になるはずです。
ノミネートされた作品群、そして惜しくもノミネートからは漏れたものの、それに準ずる多くの作品は、どれも甲乙などつけられるものではありません。どれも本当に素晴らしい出来映えだからです。

オスカーの授賞式は、今回で90回を迎えます。

この長い歴史の中で、アカデミー賞の組織を含むハリウッドの業界は、変わろうとしています。
「変化、進化」を遂げようとしているのです。

それが何なのか? このコラムで迫ってみたいと思います。

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2015年、2016年と、「Oscars So White(オスカーのノミネート者は白人だらけ)」とアカデミー賞がSNSやメディアで揶揄されたのはご記憶に新しいでしょう。

2年連続して、演技部門のノミネート者20名が全員白人だったことを受け、6000人を超えるアカデミー会員のうち、白人が90%以上を占めていることから、その強い影響が投票結果に表れているのではないか!という不満や疑念が一気に噴き出したのでした。

近年の調べでも、会員のうち黒人(アフリカ系アメリカン)は約2%、アジア系は1%にも満たない、ということは、過去のコラムでもお伝えしました。
これは、アメリカ合衆国の人口における人種の割合と比較しても、下回っている数字です。しかも会員の平均年齢は60代。75%が男性と、団体の体制が古くなってしまっていることは、否めない問題でした。

しかしアカデミーは「今」、素早い対応策と行動力でなんとか変化を生み出そうとしています。

2017年に新規会員として招かれた業界人は774人。そのうち女性が39%、有色人種(いわゆる"白人以外")が30%です。前会長であったシェリル・ブーン・アイザックは、女性と非白人の会員数を2020年までに倍増させると宣言しました。
ここから業界を取り巻く意識は徐々に変わっていくはずです。いや、変わらなければいけない。もちろん、全体の比率がいきなりすぐに変わるわけではありませんが...。

本年度の作品賞の候補を見てみましょう。

『シェイプ・オブ・ウォーター』(13ノミネート)
『ダンケルク』(8ノミネート)
『スリー・ビルボード』(7ノミネート)
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(6ノミネート)
『ファントム・スレッド』(6ノミネート)
『レディ・バード』(5ノミネート)
『君の名前で僕を呼んで』(4ノミネート)
『ゲット・アウト』(4ノミネート)
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2ノミネート)

主人公に注目してください。9候補作品のうち、8作品の主役が白人。主要キャストに目を広げても、非白人が食い込んでいるのは、『ゲット・アウト』と『シェイプ・オブ・ウォーター』だけです。

南カリフォルニア大学のMedia, Diversity & Social Change Initiativeが行っている、非常に興味深い調査(2007年から2016年までの900本のハリウッド映画を対象とした)があります。2016年のヒット映画100本に登場するキャラクターのうち70.8%を白人が占め、黒人は13.6%、アジア系は5.7%、ヒスパニック系が3.1%、その他が7%だったそうです。

今年のゴールデン・グローヴ賞で、司会のセス・マイヤーズとホン・チャウ(『ダウンサイズ』で助演女優賞ノミネートを果たしたヴェトナム系アメリカ人女優)が交わしたジョークの中で、「最近のニュースで伝えられたところによると、ハリウッドでアジア系俳優が演じるセリフのある役は5%だけ!」というくだりがありましたが、この"5%"という数字そのものは決してジョークではなく、現実の比率を声にして痛烈に皮肉っているのだということがわかります。

白人以外を取り上げる脚本がどれほどに少なく、また白人以外がハリウッドで働く率がどれくらい低いかがわかる数字です。

2007年は、僕が活動拠点を米国に移した年です。そこから10年が経ちました。
この10年の間に、何かが劇的に変わったか?と問われれば、正直なところさほど変わってきたとは思えません。

しかし!!
去年から今年にかけては、

「大きく、業界を取り巻く諸問題を変えていこう!! 改善しよう!!」

という気風の高まりや勢いを肌で感じます。
ようやくここから、今から、変わっていく決意を皆が抱き始めているのだな、という風です。

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2017年の秋から現在にかけて、ハリウッドは業界内の見えないところで長年続いていたセクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメント行為(犯罪レベルの悪行も含む)の告発によって明るみに出たスキャンダルに震撼しています。
ニュースなどで"セクハラ"と一言に括ると、日本にはあまり深刻さが伝わらないかもしれませんが、個人の自由や、意見を発する意識の高い米国であっても、多くの弱者が問題を公にはできず、泣き寝入りしてきた数十年間だったのだと考えれば、どれだけ根深い問題でどれだけ隠蔽する見えない力が強烈に存在していたのかがわかります。

アカデミー賞は、映画人が仲間の映画人を讃える業界内の賞であり、他の批評家協会などの主催の賞などと比較しても、世相や業界内の勢いや気風がノミネートや受賞結果に大きく影響する祭典です。

「Me Too(私も、セクハラなどの辛い思いを体験しました)」「Time"s Up(もうこういう時代に終止符を打ちましょう)」といったスローガンに象徴されるムーヴメントは、第90回アカデミー賞の式典を通じて、より大きな声として発信されるに違いありません。

上記、作品賞候補の9作品のうち、

最有力と言われている『スリー・ビルボード』と『シェイプ・オブ・ウォーター』の2本はまったく異なる作風の映画ですが、

「声なき声を上げ、信念を曲げず、体制の圧力に負けずに行動する女性」

を主人公として描いているという点が、共通しています。この要素が今年だからこそ、より強く業界人や観客たちのハートを掴んでいることは間違いありません。

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『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』は、ナチスの脅威と、自国の政治圧力に屈しなかった首相、
『ダンケルク』では、絶体絶命の窮地でも生きようとした兵士たちと、彼らを助けようという善意を貫いた船乗りたち、
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、政府に対して報道の自由を貫く新聞社の女性経営者と編集部の面々、
『レディ・バード』は、親の反対に傷つきながらも、憧れや自分の輝きを追う女子高生、
『君の名前で僕を呼んで』は、世間の目や常識に囚われず、真の愛を求める青年たち、
『ファントム・スレッド』は、強固な個性で周囲にものを言わさない男性デザイナーとの独特な愛の形をついには勝ち取る女性ドレスモデル、
そして『ゲット・アウト』では、(ホラー映画という形をとりつつ)社会的優位に立つ白人が作った見えない暗示やルールによる恐怖に縛られることを覆す黒人、

をそれぞれ活写しています。

ある視点で見れば、全9作品が、

「目の前を塞いでいる壁を突き破り、自由を求めよう(諦めずに変えよう)とする物語」

なのです。

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これらの作品が2017年に公開されたことは偶然と言えるかもしれませんが、これらの題材が注目され、最終的なノミネートまで残ったことは偶然ではありません。
どんなテーマが今、人々の心を捉えているかがこのラインアップに表れています。
そしてアカデミーが今、何を訴えようとしているかという「意図」が確実にそこにある気がします。

『ゲット・アウト』が全米で公開されたのは昨年の2月です。2月から3月あたりに公開された映画が年末年始の賞シーズンまでノミネートの座を争うということは滅多にありません。しかも、通常はホラー映画のジャンルはアカデミーから無視されやすいのです(同月公開で作品賞候補までたどり着いたホラーは『羊たちの沈黙』くらい)。
この作品はホラー的、コメディ的な要素を含みながらも、そのどちらでもない物語設定であること、そして驚異的な興行成績を叩き出して観客の支持を得たことから、映画界が無視できない風雲児的な作品になったのです。

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そういう例外的な異色の作品が滑り込むほどに、今年は映画の見映えや規模的な偉業よりも「メッセージ」が問われたラインアップだと言えるでしょう。

さて、作品賞の受賞結果を予想するのは、今年は非常に難しいです。接戦です。

ただ、『シェイプ・オブ・ウォーター』が『スリー・ビルボード』を一歩リードしていると見ます。
まず『シェイプ~』は全米製作者組合賞(PGA賞)を獲得していること。PGA賞を制した映画は、過去にオスカーを獲得した率が高いのです。俳優組合賞(SAG賞)は『スリー~』が制していますが、『シェイプ~』がSAG賞の最優秀キャスト・アンサンブルのノミネートからさえも漏れたのは、主人公の一人が(特殊なスーツと視覚効果を駆使した)人間以外の生きものであるからで、物語の軸が主役二人に絞られているからだと思われます。
どちらの作品も、"面白さ"で引けはとっていません。『スリー~』のフランシス・マクドーマンドとサム・ロックウェルが非常に難しいキャラクターの心情を深く、時に小気味良く演じきった力は圧巻です。しかし、言葉の話せない障害を負った主人公に扮した『シェイプ~』のサリー・ホーキンスは、映画を観た瞬間に多くのノミネートや受賞を確信させるほどの演技を見せていますし、助演で支えるリチャード・ジェンキンスやマイケル・シャノンらも熱演で応じていますから、見劣りする部分など微塵もありません。

ここまでの賞レースをほとんど総ナメにしてきた主演女優賞と助演男優賞の部門を『スリー~』のフランシスとサムが獲得することはほぼ揺らがないと思いますが、そこへの敬意はしっかりと払った上で、アカデミーが最後に下す総合的な判断では、より独創的なリスクをとり、弱者や異形の者への愛だけでなく映画への愛やオマージュも巧みに盛り、しかもアカデミーの歴史に新風を吹き込んでくれるかもしれない『シェイプ~』に最高賞を授与する...そんな流れに向かうのではないでしょうか。

作品賞は、全会員が9本の作品に1位から9位までの順位をつけて投票し、決定するそうです。
もし、アカデミー会員が1位に投票したのが『スリー~』と『シェイプ~』の2作品に割れた場合、2位として票を得た数が多い方が優位に立ちます。
リアリティから少しだけ逸脱し、正当化しにくい暴力描写シーンに賛否が生まれ得るギリギリのラインである『スリー・ビルボード』よりも、社会的な弱者の目線や、種を超えた愛やコミュニケーションを丹念に描いた『シェイプ・オブ・ウォーター』が2位や3位の票を多く得やすいと想像すると、この異色のラヴ・ストーリーが栄冠を手にする確率は僅かながらも高いと僕は見ています。

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では、監督賞は誰が手にするでしょうか? これは『ダンケルク』のクリストファー・ノーランと、『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロの一騎打ちです。ビジュアル的に、どちらも誰にも真似のできないエンターテインメントを生み出していますが、監督組合賞(DGA賞)やゴールデン・グローヴ賞の監督賞も獲得したデル・トロに軍配が上がるのはほぼ間違いでしょう。ノーランは、"実際に起きたこと"を忠実なリアルさと大迫力で映像に刻みました。一方、デル・トロは、"この世にあり得ないもの"を強いメッセージと共に描き出すことに成功しています。
声の出せない女性と半魚人が、心を通わせ、愛を交わす物語をアカデミー賞の作品賞候補レベルの高みにまで届かせるという、まるで不可能とも思えることを具現化した感性は受賞に値します。しかも20億円前後という、ハリウッドの標準では決して大きくない予算で創り上げたとはとても思えないほど完成度の美しさで全編が満たされていますから、「モンスター映画なの!?」などと偏見を持たずに多くの人に見ていただきたいものです。

日本でも大ヒットの支持を得た『ダンケルク』の8部門ノミネートは、昨年夏の公開だったことを考えれば快挙です。
もし賞狙いの11月や12月に公開されていたとしたら、おそらくかなり強力な台風の目になっていたでしょう。映像だけでなく「音」の構成や迫力でも群を抜く本作は、音楽、音響編集、録音など複数部門で受賞することが十分考えられます。

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今年は、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』のゲイリー・オールドマンが主演男優賞で、そして『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のアリソン・ジャニーが助演女優賞で、それぞれ初のオスカーを手にすることはほぼ鉄板です。二人とも、普段の姿からはかけ離れたイメージと印象の演技で熱演しています。
特に注目していただきたいのは、オールドマンをチャーチルの太った顔と体型に特殊メイクで変貌させたアーティスト、辻一弘さんの信じられない技術です。彼は長年、ハリウッドのメイクアップ・アーチスト界では知らない人のいない、最高峰の力量を持つ一人でした。今では映画界を引退し、現代芸術に身を投じていらっしゃいますが、過去に『もしも昨日が選べたら』と『マッド・ファット・ワイフ』ですでに2年連続でアカデミー賞にはノミネートされていたのです。両作ともコメディ映画だったことから、その凄味と類稀な実力がなかなか母国までは伝わりにくかったと思いますが、まさに日本が誇るべき逸材です。
名優ゲイリー・オールドマンに「この星で、(この仕事を)やれるのはカズヒロしかいない!」と言わしめ、この役のメイクの為に6ヵ月間のテスト開発を経て仕上げたチャーチル像は必見!!!です。
オールドマン&辻さんのW受賞の光景を、僕らは3月5日の朝に目にすることになるでしょう。

さて話を、アカデミーの課題に戻しましょう。

今年のアカデミー賞で、ある部門でノミネーションに見事に入りながら、主要部門では漏れたものの中で、個人的に心に強く刻まれた作品をいくつか挙げたいと思います。

"多様性"や"少数派や弱者の立場の向上"、"男女間の待遇の格差"など、様々な問題に大きく目を開こうという世相を後押ししたいアカデミーであるならば、もっと寄り添ってもよいはずの映画たちです。

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『マッドバウンド 哀しき友情』
第二次世界大戦の時期。ミシシッピ州の農園で暮らす、農園オーナーの白人家族と、労働者の黒人家族。反目する両家から戦争に駆り出された二人の若者たちは、やがて偏見と人種差別を越えて友情を育むが、壮絶な現実が待っている。

この作品は、SAG賞では最優秀キャスト・アンサンブルの部門にノミネートされた傑作です。オスカーでも『君の名前で僕を呼んで』や『ゲット・アウト』と並ぶ4部門にノミネートされていますが、惜しくも作品賞候補からは漏れました。しかし本年度、数多く観た作品群の中で、最も心をえぐられ、苦しいほどの痛みに共鳴したこの作品を、僕はトップ4かトップ5には挙げたいと思います。物語の意義やテーマを考えても、作品賞へのノミネートには、アカデミーは入れておくべきでした。

女性監督のディー・リースは監督賞ノミネートに値する演出で、突出した映画スターを起用してはいませんが、黒人一家の父親役のロブ・モーガンや白人家族の父親で差別主義者を演じたジョナサン・バンクス、その義理の娘を演じたキャリー・マリガンらの出色の演技を導き出しています。年度が違えば、作品賞に輝いていたかも...?と思わせる力作です。

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『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』
パキスタン系アメリカ人のコメディアンであるクメイル・ナンジアニが実話をベースに映画化したコメディであり、ラブストーリーです。白人の恋人エミリーがある日突然に昏睡状態に陥ってしまい、彼女の両親とぶつかり合いながらも共に過ごし、少しずつ理解を深めていくプロセスをユーモラスに感情豊かに描いている、これも秀逸な作品です。
ナンジアニらがオリジナル脚本賞にノミネートされましたが、もしアカデミーがコメディを軽視しない姿勢であれば、この映画も"今ならば!!"作品賞候補に含めてもよかったのに...と思える出来映えでした。
コメディといっても狙ったあざとい笑いなどなく、米国での異人種の交際や結婚に伴う難しさや苦悩を赤裸々に描いた正直な内容が観客に広く響いた、実にいい作品です。
米国で暮らす僕自身には、彼の置かれている立場(南アジア出身の家族とアメリカ社会のギャップの中で生きる)が一層よく理解でき、あるシーンではホリー・ハンター演じるエミリーの母が激怒して訴える言葉と姿に、僕は目を潤ませました。いくつものシーンで最も目が潤んだ作品は、この作品かもしれません。それほどにうまく描かれています。

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『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
監督のショーン・ベイカーが、ほとんどドキュメンタリーに近い手法で、6歳のブルックリン・プリンスを主人公にして撮り上げた感動作。フロリダのディズニーランドのすぐ近くのモーテルの部屋で、貧困に直面しながら娘を育てている若い母や、周囲の住人の生活を淡々と追うものの、母娘の演技とは思えない生々しさ・みずみずしさにいつしか感情移入し、彼女たちを取り巻く社会や環境の過酷さを味わう物語。ありがちな「ハリウッドの脚本術」のような定石を一切踏まず、最後の最後にこの6歳の女の子から「真の感情」を引き出したシーンだけでも、観続けてよかった...と思わされるのです。
2億円という超低予算で作られた映画であり、映像そのものは決して洗練されているわけではないのですが、その分、母娘の"日常"をそのまま見守るような臨場感を生んだ本作は、ウィレム・デフォーの助演男優賞ノミネートだけでは惜しい、そう感じさせられる、心ある一本です。

前述したように、アカデミー賞は業界内の賞です。
批評家の方々であれば、数々の映画を観ること自体が仕事ですから、あらゆる作品に目を通した上で審査に臨まれる訳ですが、アカデミー賞の問題は、忙しい合間を縫って会員たちが映画を劇場かオンラインで観ていなければ、良し悪しを審査することはできない、という点です。特に現役で働いている業界人が、毎年300本を超える作品賞の審査対象作品のほとんどに目を通すというのは物理的に無理なわけで、

非常に単純に言えば、

「観てもらえない映画に、票が集まることはない」

のですから、観てもらうためには業界内でのPRや宣伝合戦が必要になり、そのPRやキャンペーンに潤沢な予算を割ける会社の作品群の方が圧倒的に有利に働いてしまう...という実状があるわけです。

予算の少ない作品は、言い換えれば「弱者」でもありますが、「巨大な壁に立ち向かう創造性」であるかもしれません。そういうところに目を向けていけるかが、今後、よりバランスの良い作品選出につながっていくのでしょう。あるいは今後ますます増えていくであろうストリーミング配信のスタジオが手掛けるような映画も、差別や区別なく、年配の会員たちも観て審査するような改革も必要でしょう。またSFやコメディ、あるいはヒーロー映画でも、見下さずに平等に注目する土壌を培っていくことも大切かもしれません。

今年、作品賞にノミネートされた『君の名前で僕を呼んで』や『ゲット・アウト』や『レディ・バード』は、驚くような低予算で撮られた映画です。しかしどれもずっと愛されていくような秀作です。
最後に述べた『マッドバウンド 哀しき友情』や『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』はストリーミング配信スタジオが映画界に送り出したものです。そして脚色賞には、アカデミー賞の歴史で初めて、コミック(いわゆるアメコミ)原作の『LOGAN/ローガン』がノミネート作品に名を連ねました。これも画期的な動きの表れです。

視野を広げ、流れを少しずつ改善していくことが、アカデミー賞のみならず米国映画界全体を、そして世界の映画界の未来をも活性化させていくのではないかと思います。

それでは日本時間の3月5日(月曜日)午前8時30分に、WOWOWのアカデミー賞レッドカーペット&授賞式の中継でお会いしましょう!!

ノミニーやプレゼンターたちの素顔や興奮の声を数多くお届けできるように、今年も全力を尽くします。ご期待ください。

(文/尾崎英二郎)

Photo:
第89回アカデミー賞授賞式
(C) NYZ17/FAMOUS
『スリー・ビルボード』
(C)2017 Twentieth Century Fox
『シェイプ・オブ・ウォーター』
(C)2017 Twentieth Century Fox
『ダンケルク』
©2017 Warner Bros. All Rights Reserved.
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.
『レディ・バード』
© Universal Pictures
『ゲット・アウト』
© 2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved
クリストファー・ノーラン監督
©2017 Warner Bros. All Rights Reserved.
ギレルモ・デル・トロ監督
(C)2017 Twentieth Century Fox
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
(C) Capital Pictures/amanaimages
辻一弘
(C) WENN/amanaimages
『マッドバウンド 哀しき友情』
(C) Netflix. All Rights Reserved.
『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』
(c)2017 WHILE YOU WERE COMATOSE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
(C)2017 Florida Project 2016, LLC.