【ネタばれ】『スター・トレック:ディスカバリー』を現地アメリカはどう評価したか?(後編)

先月半ば、シーズン1の幕が閉じた『スター・トレック:ディスカバリー』(以下『DSC』)。スター・トレックのTVシリーズとしては2005年以来、実に12年ぶりとなる本作について、あなたはどのような感想をお持ちになっただろうか。

筆者は大いに楽しんだのだが、世間の評価は真っ二つに分かれているようだ。本コラムでは、アメリカのエンタメ業界ニュースやファンの批評・感想に共通して見られる声を取り上げて、何が評価され、何が批判されているのかを総括してみたい。

ただし、シーズン1のネタばれはどうしても避けられないので、まだ見ていない人は、ここで読むのを止めていただいた方がいいだろう。

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●早々と予想されたサプライズその1:アッシュ・タイラーの正体

第5話「我に苦痛を与えよ」でクリンゴン船の捕虜として初登場し、USSディスカバリーの保安部長に着任したアッシュ・タイラー。その正体は、連邦への潜入を目的に、人間そっくりに改造されたクリンゴン人のヴォクだった――第11話「内なる狼」で明かされるこのサプライズは、しかし第5話の配信直後、早くも有力な説としてTrekMovie.comなどで紹介されていた。

いち早く予想されてしまった理由は、"ヴォクの失踪とアッシュの初登場のタイミングがピッタリなこと""オリジナルシリーズでも人間に化けたクリンゴン人スパイが登場したこと""ルレルが諜報活動に秀でた家系の出身であること""アッシュ役のシャザド・ラティフが最初はクリンゴン人の役で発表されていたこと""ヴォク役の俳優としてクレジットされた「ジャヴィッド・イクバル(※)」なる人物は実在しないと考えられること"など、数多く挙げられる。第11話でアッシュが正体を明らかにした時、もちろん素直に驚いた視聴者はいただろうが、むしろ、正体隠しをどこまで引っ張るのか、どのように真実が明かされるかの方に関心が向いていたファンも多かったのではないだろうか。

ファンの予想を引きずるそうした状況は2ヵ月あまりも続き、その間に「ジャヴィッドは私」と(冗談で)主張するTwitterアカウント(@RealJavidIqbal)が現れた。ヴォクの特殊メークを施したままの顔を、集合写真やレッドカーペットの写真に貼り付けて投稿し、"本物の俳優"を強調するツイートが笑いを誘った。

そして第11話でヴォク=アッシュであり、ジャヴィッドなる俳優は実在しないことが確定したのを踏まえて、同アカウントは多くのファンに惜しまれながら活動を停止。なんと、『DSC』の脚本家チームによる公式アカウント(@StarTrekRoom)も、「"本物の俳優"としての貢献に感謝します」とねぎらいの言葉を贈った。

※ちなみに、ジャヴィッドの名前は亡くなった父親からとったと、トーク番組『アフター・トレック』でシャザド本人は話している。

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●早々と予想されたサプライズその2:ロルカ船長の正体

クリンゴンとの戦争に勝つためなら手段を辞さず、危険な香りを終始漂わせるロルカ船長は、実は鏡像世界(ミラー・ユニバース)と呼ばれる並行宇宙の人間だった。しかし前項と同様、ロルカの正体も、初登場後まもなく予想が飛び交っていた。

発端となったのは、本作がスタートする1週間前にリークされた情報だ。『新スター・トレック』でライカーを演じ、本作では監督として参加しているジョナサン・フレイクスは、鏡像世界が物語に絡んでくることをイベント中に漏らしてしまった。それを踏まえて、作中に見られるロルカ船長の数々の怪しい挙動を根拠に、正体にまつわる有力な説が浮かび上がったのだった。

アッシュの場合と同じく、ロルカについては正体そのものよりも、動機や目的への興味がファンの間では大きかったと思われる。それだけに、シーズン1の前半では、宇宙艦隊のモットーに疑問符を突きつける存在として関心を集めていたロルカが、正体がバレた後半では、純粋な悪役に成り下がってしまったのを残念がる声が目立った。

以上の2例のように、先の展開が早々と予想されてしまったのは、『DSC』が全話一挙配信ではなく週一配信の形式をとっており、視聴者に考える時間が十分あったことが原因かもしれない。製作陣はシーズン2に取り掛かるにあたり、ファンに先読みされる可能性が高いことを念頭に置いていることだろう。

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●批判を浴びた"ドクター・カルバーの死"

50年以上にわたるスタトレの歴史の中で、ドラマシリーズにおいて正式に初のゲイカップルとして描かれたポール・スタメッツとドクター・カルバー。他のドラマではごく当たり前になっているLGBTの描写が、スタトレでもようやく実現し、二人が一緒に歯を磨く現実味のある場面などが賞賛された。それだけに、第10話「我の意志にあらず」で、アッシュの手でドクターが殺されてしまう展開には批判が殺到した。

その背景には、一般にドラマでLGBTの登場人物が命を落とす確率が、(ストレートの登場人物に比べて)最近極めて高いことが指摘されていたという事情がある。LGBTキャラの死亡が相次ぐ事態は、メディアにおける適切な描写を損なうものとして問題視されているのだ。

ただ、ドクターを死なせる判断が批判を浴びることは、製作陣も最初から予想していたようだ。メディアにおけるLGBTの描写を監視する団体GLAADに製作者たちは事前に相談し、同団体は米Varietyに向けて、『DSC』におけるゲイの描写を評価する声明を出している。第10話の後に配信されたトーク番組『アフター・トレック』では、ドクターが再登場することが発表され(結局それは幽霊みたいな登場ではあったが)、自身もゲイであるショーランナーのアーロン・ハーバーツがドクターを死なせた意図を説明するなど、LGBTコミュニティに気を使っていることが伺えた。

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●成人向けの描写への苦言も

ケーブル局が放送する大ヒット作の『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ウォーキング・デッド』、そしてNetflixやHulu、Amazonといった動画配信サービスのオリジナル作品にならい、『DSC』でも、規制の厳しい地上波放送ではできない表現をやろう、という意気込みはあったようだ。

その結果として、第3話「支配する者」では、ねじれた死体が累々と横たわるUSSグレン船内の凄惨な光景が、また、シーズン1で度々挿入されたアッシュの回想では、拷問や性行為を示唆するカットが映し出された。第5話「我に苦痛を与えよ」では、スタトレ作品としては初めて、良識派が眉をしかめるFワードが用いられたことも話題になった。

しかし、現在スタトレ・ファンを自認する大人の視聴者の多くは、子ども時代に『新スター・トレック』などを見て育っている。そのノリで、最初は家族みんなで『DSC』を見ようと張り切っていたのに、結局、子どもと一緒に見るのは諦めたというお父さんもいる。『ゲーム・オブ・スローンズ』などに比べればおとなしい表現でも、スタトレにふさわしいかどうかを疑問視する声は出ている。

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以上、本作への評価を筆者なりにまとめてみた。結果的に批判の方が多くなってしまったが、全体としては高評価であり、批判の声は、今後もっと良くなってほしいという期待の現れだと筆者は見ている。従来のスタトレ・シリーズのシーズン1と比べて、勝るとも劣らない出来だと評する批評家やファンも多い。これらの反響を受けて、4月に撮影の始まるシーズン2はどんな仕上がりになるのか、楽しみに待ちたい。

(文/中島理彦)

Photo:『スター・トレック:ディスカバリー』(C) Netflix. All Rights Reserved./© 2017 CBS Interactive. All Rights Reserved.