【お先見】今シーズンのイチ押し！ダークで骨太な犯罪ミステリー『エイリアニスト』

2018年4月12日 2023年3月9日 ※本ページにはアフィリエイト広告が含まれます

このドラマの舞台となるのは1896年ニューヨーク。男娼が大鉄橋のてっぺんで惨殺される事件が起きる。精神科医ラズロ・クライズラー（ダニエル・ブリュール）は、噂を聞きつけ、友人で大手新聞社イラストレーターのジョン（ルーク・エヴァンス）を現場に送り込み遺体の様子を細かに描写させる。（注釈：写真が発明されてまだ間もなかった当時は、簡単に持ち歩けるカメラがまだ存在しなかったので現場では優秀なイラストレーターが重宝された）

19世紀の精神医学は一般人にとってはまだまだ未知のもので、「人間はハート（心臓）でものごとを考える」などという考え方がまだまだ横行していた時代だ。クライズラーの専門だった行動心理学、特に犯罪心理学の分野に及んでは先駆け過ぎて、世間ではまがい物扱いされていた。八つ裂きにされた犠牲者のイラストを見たクライズラーは、その猟奇さから普通の殺人事件とは異なると判断するのだった。そんな矢先にまたもや、売春宿から誘い出された少年が無残な姿で発見される。それもまた高所、ビルのてっぺんである。売春少年と高所での惨殺...。この2点は一体どういうつながりがあるのか？

主要キャストのクライズラーを演じているダニエル・ブリュールは映画『ラッシュ／プライドと友情』(2013)、『キャプテン・アメリカ／シビル・ウォー』や、Netflixオリジナル『クローバーフィールド／パラドックス』などに出演しており大忙しのドイツ出身俳優だ。相棒ジョン役のルーク・エヴァンスは、映画ファンにはお馴染みだろう。『ワイルドスピード』シリーズでジェイソン・ステイサム演じるデッカードの兄弟オーエン・ショーを、最近では実写版で大ヒットしたディズニー映画『美女と野獣』でガストンを演じたりと、映画俳優歴が長い人気俳優だ。

さて劇中では、恐ろしい事件の一方で当時の腐敗したニューヨーク市警を改善しようと奮闘していた政治家がいた。大統領になるずっと前のセオドア・ルーズベルトだ。移民が入り乱れ貧富の差が著しく警察が金持ちに牛耳られるなか、ルーズベルトはニューヨーク市警察署内を一掃しようと身を粉にしていた。これは実際にあったことで、偉人の若き日の活躍が垣間見られるのも本作の興味深い部分だ。ちなみに、ルーズベルト役のブライアン・ジェラティは『シカゴ・ファイヤー』を始めとするシカゴ・シリーズで常連キャラクターのショーン・ローマンを演じている役者なのでお気付きのファンもいるだろう。

若い頃からルーズベルトは正義感に燃え、金持ちの言いなりで賄賂も平気で受け取る腐った警官たちよりもクライズラーに信頼を置くことになる。警察署をクリーンアップするべく警察署長に就任するルーズベルトは、暗礁に乗り上げていた売春少年連続殺人事件の捜査をクライズラーとそのチームに内々で委託する。

ここで登場するのがルーズベルトの助手でダコタ・ファニング演じるサラである。当時では珍しいキャリアウーマンで、やがてクライズラーたちの右腕的存在になる頼もしいキャラクターだ。女性であるがゆえの差別にも毅然と立ち向かい、冷静沈着に成果を出していく彼女に、観ている側は勇気をもらい大きな声援を送りたくなる。

サラを演じるダコタは、子役で人気者だったが、ティーンになってから良い役に恵まれなかった。今回このドラマで久々にやり甲斐のある役に起用され本領発揮しており、ファンとしては嬉しい限りだ。余談だが、毎エピソードでサラが身につけている当時のキャリアウーマン・ドレスが素敵だ。クラシックなコスチュームのデザインをチェックするのもこのドラマの楽しみ方の一つ。

金持ち層が犯した罪なら、なかったことにするのも日常茶飯事だった当時。正義や真実の尊さは無用の長物に感じられたに違いない。このドラマの主人公たちは自分たちにも把握しきれていない個々の内なる理由に突き動かされて、執拗なまでに真理を追い求める。映画『羊たちの沈黙』や『セブン』などの犯罪サスペンスが好きな方には特におすすめしたい。ありきたりの犯罪ミステリーとは格が違う、新シーズンにスタートした番組の中でも特に太鼓判を押せる骨太ドラマだ。