"ミステリの女王"アガサ・クリスティによる1958年の小説「無実はさいなむ」を英BBCが映像化したドラマ『Ordeal by Innocence(原題)』が、イギリスのミステリ愛好家たちに好評だ。3話構成のフーダニット(犯人を当てる形式の推理モノ)で、4月1日から毎週一話ずつ放送されている。一度は放送中止の危機に見舞われたものの、一部のキャストを入れ替えての再撮影を敢行し、イースター・シーズンに無事お披露目となった。
◆1年前の殺人事件は解決しておらず、真犯人はここにいる?
1954年のクリスマスからストーリーは始まる。資産家のレイチェルが自身の邸宅で何者かに殺害され、彼女と一緒に暮らしていた多くの養子たちの一人であり、金銭面で困窮していたジャックに容疑がかけられる。ジャックは無実を主張するも、獄中で死亡する。
1年後、レイチェルを亡くした夫のリオは再婚を決意し、親戚を招いた結婚式を開く。そこへ、ジャックのアリバイを証明できると主張するキャルガリ博士が登場したことで、一同の祝賀ムードは一変する。警察の捜査は誤りで、レイチェル殺しの真犯人は自分たちの中に潜んでいるのだろうか?
レイチェル役に『THE HOUR 裏切りのニュース』のアンナ・チャンセラー、夫のリオ役に『ラブ・アクチュアリー』のビル・ナイを迎え、家族の一人として『ダウントン・アビー』のマシュー・グードも登場する。イギリスの名優ぞろいの作品となっており、深みのある演技は必見だ。
◆スキャンダルによる危機に素早く対応
本作は、2015年に「そして誰もいなくなった」、 2016年には「検察側の証人」と、同じくクリスティの原作を元としたドラマで脚本を執筆したサラ・フェルプスが引き続き脚本を担当し、2017年のクリスマスにオンエアされる予定だった。しかし、養子の一人であるミッキーを演じていたエド・ウェストウィック(『ゴシップガール』)に性的暴行疑惑が浮上したことから、12月の放映は見送られることに。当人は容疑を否認するも、プロデューサーが彼を外して再撮影する判断を下した。この判断について、Telegraph紙は、性的被害を告発する「#MeToo」運動の高まりを受けた賢明な対応だったと評価している。
エドの代役を務めたのはクリスチャン・クック(『アート・オブ・モア 美と欲望の果て』)で、キャストは2018年1月に再集結し、12日間にわたって撮影のやり直しに挑んだ。Guardian紙は、7月という舞台設定ながらよく見ると白い吐息が確認できるシーンがあると指摘している。
◆緻密な推理とダークな人間模様に酔いしれる
困難を乗り越えて放送にこぎ着けた甲斐があり、視聴者の反応は好意的だ。ミステリだけあって「"死ぬほど"素晴らしかった」との声や、イースターのTV番組の中で断トツだという評価がTwitter上で出ている。また、翌週の放送が待ちきれない、と3夜連続でないのをもどかしく感じるファンもいるようだ。ビル・ナイは、誰が真犯人なのかを推理して楽しんでほしいとコメントしている。
そんな中、序盤はやや退屈で難解にも感じられたとしているのがTelegraph紙。時間が前後に飛ぶことや、外見のよく似た登場人物が多いことが理由のようだが、ストーリーは折り紙つきで、第1話の終わりまでにはしっかりと心を掴まれたと評価している。本作では、モルヒネ中毒やアルコール依存症などの問題を抱えた一族が放つ暗い雰囲気が、お互いが疑心暗鬼に陥るミステリ特有の緊迫感を助長している。ソリッドな推理のロジックに加え、ダークな心理ドラマも見ものだ。(海外ドラマNAVI)
Photo:『Ordeal by Innocence』
(C) BBC