『ウエストワールド』キャスト、シーズン2を語る~エヴァン・レイチェル・ウッド(ドロレス・アバナシー役)編~

いよいよ5月24日(木)にBS 10スターチャンネルにてスタートする『ウエストワールド』シーズン2。難解で予測不能なストーリーで大勢のファンを獲得しているが、謎に包まれている本作や、そこから受けた影響について語ったキャストのインタビューを今日から3回に分けてご紹介しよう。1回目の今回は、牧場主の娘から大きな変化を遂げつつあるドロレス・アバナシーを演じるエヴァン・レイチェル・ウッド

(本記事は、シーズン1のネタばれを含みますのでご注意ください)

――シーズン2の冒頭のドロレスはどのような状況になっているのでしょう?

前シーズンの結末も直後からそのまま続きを描いているわけではないけれど、その余波を見ることになるわ。ドロレスがついに決断を下す姿を見ることになるでしょうね。彼女にとってはフォードを殺したことが最初のリアルな選択だったと思うの。そしてワイアットというキャラクターがドロレスの中にいることが明らかになったわ。だからシーズン1が終了した時は、誰のことなのかシーズン2が待ちきれなかったけど、それがワイアットだったの。新シーズンではドロレスの様々な面を見ることになるわ。もう単純な女性ではない、自分の中のすべての面や人格にアクセスすることができるの。

彼女の中にいるドロレスは美しいものしか見えない。その一方でワイアットは醜いものしか見えないのよ。二人は常に対立している状態で、彼女は状況によってどちらの人格を表に出すタイミングを入念に選んで決めているの。テディといる時は純粋にドロレスだけ、そして人々を率いる時や、何かをしなければならない時にはワイアットになっている。でもそれ以外にも別の顔があって、自分自身までも作り上げている。そして、その自分自身が何者かを定義することができないのよ。

――演じている時は、どのように区別して違いを出しているのですか?

面白いことに誰にも指摘されないのだけれど、実は新シーズンでは訛りが消えているの。スーパーボウルで放映された予告でもね。もう南部訛りではなくなっているんだけど、誰も気づかないのよ。ドロレスの時には南部訛りがあったけれど、ワイアットやそれ以外の人格の時には訛りがない。だから皆さんもそのうちに彼女が今、誰なのかが分かるようになるはずよ。

――シーズン1もかなり複雑でしたが、どうやらシーズン2はさらに複雑になっていそうですね......。

今シーズンはそこがとても大変だったわ。すべてのキャラクターが進化しているのよ。もちろん彼らは彼らのままなのだけれど、少しずつ、少しずつ、少しずつ今まで以上のキャラクターへと進化していっているの。

――シーズン1の時には、自分がロボットなのか、それともずっと騙されていたのか疑問に思ってしまうことがある、と語っていましたね。シーズン2はいかがですか?

今はまた全然違う新たなことに疑問を感じているわ。このドラマは観ている人を悩ませるわね。シーズン2の撮影を終えてから、自分という存在の危機を文字通りに感じたことがあったわ。車を運転しながら周囲を見回していて......私たちって何なの?これって何?何もかも嘘かもしれない?一体私たち何をしているの?って本気で思ったの。すべてはプログラミングされたことで、実際に経験したことじゃないかもしれない!この世界を現実だと呼んでいるけれど、実は誰もが共存しているだけの世界に過ぎなくて、誰にも真実や当たり前なことなど必要ないのかもしれない、ってね。

とてもいびつで、私たちに自由なんてないのかもしれないわよね? 綿密に管理、設計された世界の中で生かされていればいいだけの存在かもしれない。そしてまさに今の時代こそ、真実を探し出さなければならないのよ。だからこのドラマはこれまで以上にオープンになると思うわ。

――ドロレスを演じたことで、自分が根本から変わったと語っていましたね。もう少し詳しく教えてもらえますか?

あらゆる意味で変わったわ。かなり役柄に入り込んでいたから、キャラクターの変化を体験するのが辛い時もあったほどなの。ドロレスは奥深くて、現実的で、いろんな物事のメタファーになっている。誰もが『ウエストワールド』に共感できると思うし、観る人にそれぞれの意味があると思う。私にとっては今まで知らずに秘めていた、もしくはあるとも思っていなかった、もしくは諦めるように教え込まれていたけれど、本当は持っていたパワーに目覚めることだったの。ドロレスが私を変えてくれたのよ。いろんな疑問を提起してくれたわ。陳腐に聞こえるけれど、彼女のおかげで自分のことをよりいっそう信じられるようになったの。ドロレスは私とは違う人間と考えているから、あの強さに頼っているところがあるわ。

ウィメンズマーチに参加した時も、議会で証言した時も、ドロレスの写真を入れたロケットを身に着けていたほどよ。私の一部は......何と言い表せばいいか分からないけれど......彼女のおかげで気づけた自分がいるの。

――役作りをする際に気をつけていることはありますか?

このTVドラマで一番辛いのは、全員がワクワクして撮影現場に戻ってきてから、そういえば誰にとってもハッピーな結末にはならないんだって思い出すことよ。みんな役柄に入り込んでいるから、誰かの身に何か悪いことが起こったり、何かが悪いことが起こると、演じることが本当に辛いと感じるの。このドラマに対する想いがこれほど深くなっていることには、ある日気づいたの。あなたたちは私の敵対者だったのね、そんなの嫌だわ!なんてね。登場人物全員への思いが強いから、まるで酷いことをされているような気持ちになってしまうわ。

――シーズン2の撮影期間はどれくらいでしたか?

6ヵ月よ。その半年間で10本の映画を撮影しているような感じね。かなり残酷で恐ろしかったわ。大半はロスで撮影しているけれど、モアブ(ユタ州)、カナブ(ユタ州)、レイク・パウエル(アリゾナ州)でも少し撮影したの。ユタの方まで撮影範囲が広がっているわ。

――先程、議会で証言したと仰っていましたが、どんな経緯があったのですか?

性的暴力を受けたサバイバーの権利を保障する法案を書いたアマンダ・グエンという女性から連絡をもらって、フェローサバイバーとして援助の手を差し伸べたの。彼女から、法案を連邦レベルまでは通したけれど、アメリカ全州で法案を通すためにはもっと認知が必要だと言われたから。私はこの問題に対して理解も経験もあるから、議会に立って話をしてほしいと頼まれたの。

それまで誰かの前で自分の話をしたことなんて片手で数えられるくらいだったから、大勢の前で、世間の知るところで自分の話をするなんて圧倒された。私の身に起きたことを知る人たちの前に立つなんて、みんながどう思うだろうかと想像して恐ろしくなった。でも実は、自分の話をするのが怖かったのよ。そしてそんな自分を恥ずかしいと思った。だけどそれは間違っているし、恥ずかしいなんて思うべきじゃないことなのからぜひ話したい、と考えるようになって引き受けたのよ。

――あなたもタンディ・ニュートン(メイヴ役)もこのドラマのテーマでもある性的被害に遭っているというのは興味深いです。

そうね、今では堂々とその話題ができるようになったわ。

――そして現在はまさに心強いムーブメントが起こりました。

まるで運命のような気持ちよ。タイミングが良すぎて怖くなるくらい。タンディと(製作総指揮者の)リサ(・ジョイ)と私の間でよく話題にしているの。どうしてこんな完璧なほどにタイミングがマッチしたのかしら、どうして予言できたのかしら、これほど現実をなぞったようなリアルなアートは他にはない、なんてね。

議会に足を運んだ時、私たちがこの世を燃やし尽くして新しい世界を作ると証言したわ、って冗談のメッセージを送ったわ。でもまさかそれが現実になるなんてね! 一体何が起こったのかしら? 最初、視聴者はこのドラマを観る準備ができているのかと心配したわ。だってあまりに嘘がなくて、私たちすべてを反映しているから。でもそんな心配は無用だったどころか、みんなもう分かっていたのね。だからこのドラマにとって、まさに今がパーフェクトな時なのよ。

――前回お会いしたのが2016年7月でした。あれ以降、物事が劇的に変わりましたね。

去年から、もう誰も以前と同じままではいられなくなったと思うわ。まるで(2016年11月に行われた)大統領選の前と後のみたいよね。

――業界内に「woke(※1)」という言葉があることすら知りませんでした。

それに「Gaslighting(※2)」もね。最近まで誰も意味を知らなかったけど今や大流行しているわね。

(※1)...アフリカ系アメリカ人を中心に、社会的あるいは人種的な差別に対して関心を持つこと
(※2)...心理的虐待の一種。相手に故意に誤った情報を提示し、その人が自身の記憶、知覚、正気を疑うよう仕向ける手法

――企画・製作総指揮を務めるジョナサン・ノーランとリサ・ジョイには先見の明、というか時代の精神を読む特別な何かがあると思いませんか?

同感よ。『ウエストワールド』が巧みなのは、時勢にふさわしい問題提起をしている点だと思うの。今起こっていることは実は何も目新しいことではなく、過去から何度も何度も繰り返していることだと思う。私たちは常に同じものに対して戦っていて、同じ問題が形を変えては何度も何度も繰り返して生じているのね。大抵がいまだに同じ問題に対して議論がなされているだけだわ。だから驚きはないし、奇妙なことに、私はこの問題がまた巡ってくることをずっと前からなんとなく感じていたの。誰でもこの"数学"はできたはずと。まるで方程式のようなもので、客観的に見ていれば、私たちが向かう先が見えていたはすだし、どこかで感じていたのだと思うわ。でも一夜にしてこれほど劇的に変わるほどの結末を迎えることまでは想像できなかった。きっと今まで私たちが気づいてきたことはこのためのものだったのでしょうね。文字通り爆発が起こって世界はもう昔とは別ものになったのよ。ここまでとは期待していなかったわ。

――希望のある終わりがやってくると思いますか?

誰も風化はさせないはずよ。偉大なひらめきや悟りというのは時として苦しみから生まれることもある、というのがこのドラマのもう一つのテーマなの。痛みや苦しみというは様々な意味を内包していると思う。例えば、死を意味するタロットカードは、実際の死を意味する必要はなくて、変化や手放すこと、何かからの解放なんていう意味があるでしょう? とても辛いし、苦悩もするけれど必要なことでもある。私たちは成長するためにたくさんの苦しみも受け入れることができる。これはより良い自分に変わるためには避けて通れないことなの。そしてきっと、何か良いことが起こる前にそうした痛みに完全に打ち勝つ必要はないでしょうね。

――本作への出演はあなたの行動、とりわけテクノロジーやソーシャルメディアの点においてどんな影響を与えましたか?

現在の最大の脅威は爆弾を落とされることではなく、私たちのリアルな精神がハッキングされることでしょうね。様々なレベルでほぼ毎日そうしたことが起こっているわ。私たちは自分たちの精神が非常に脆く、いとも簡単に操られてしまうことにもっと気づくべきよ。私たちは皆、自由意思があることにいささか自信を持ちすぎていると思う。もっと現実に対して疑問を持つべきだわ。

私自身もこれまでにあまりにも依存し過ぎてしまうから、電話を隠したり、SNSのアプリを削除しなければならないことが何度もあったわ。とても大変だった。さもないと、一つ間違えば気づかないうちにプロパガンダというラビットホールに落ちてしまうかもしれない。誰もがある種の真実を探し求めているから。私たちが生きているのは、本物の弱さや誠実さ、正直さが画期的な時代よね。そうしたものが人々を動かすの。私が議会で証言したようにね。みんな驚いて、勇気を称えてくれたわ。確かに辛かったしたくさんの勇気が必要だったけど、私がしたことはただ自分の話をして、弱さも正直さも素直に表に出しただけなの。そうしたらみんながすごい!勇敢だ!と言ってくれた。今は正直でいることに勇気がいる。そして誰もが自分の中にある真実を恥じてもいるのよ。

次回はジェームズ・マースデン(テディ・フラッド役)のインタビューをお届け! お楽しみに。

『ウエストワールド』シーズン2は、BS10スターチャンネルにて5月24日(木)より独占最速放送。

Photo:『ウエストワールド』シーズン2
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