"4分の短編"を長編映画にした工夫とは!?『ピーターラビット』ウィル・グラック監督インタビュー

子どもにも大人にも人気の英国生まれのいたずら好きなキャラクター、ピーターラビット。彼の物語を映画化した『ピーターラビット』が大ヒット上映中だ。絵本を飛び出して活き活きと動き回る、ウサギをはじめとした動物たち、そして人間たちの冒険と愛と笑いがたっぷり詰まったストーリーはいかにして生まれたのか――? 監督・脚色・製作を務めたウィル・グラック監督を直撃! 絵本を映画としてよみがえらせたプロセスや、作品に込めた想いを語ってもらった。

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――「ピーターラビット」をはじめとしたビアトリクス・ポターの作品は世界中でベストセラーとなっており、日本では2016年から2017年にかけて大規模な展覧会も開催されました。私も子どもの頃からピーターの物語を読んでいましたが、アメリカ人のあなたも子どもの頃から知っていらしたのですか?

ああ、アメリカでもピーターラビットはとても人気があるよ。僕自身、子どもの時に彼の絵本を親に読んでもらったし、自分が親になってからは子どもにも読み聞かせているんだ。僕は昔からピーターが面白いキャラクターで、彼を主役にすれば面白い映画になるだろうと思っていたから、誰も映画化したことがないと知った時には驚いたんだ。

――ピーターの声を担当したジェームズ・コーデンとは2011年からのお知り合いで、彼に合わせて脚本を当て書きされたそうですが、彼がいるから映画を作ることを決めたのですか? それとも彼と知り合う前から作ることを決めていたのですか?

映画の企画が先にあったんだ。ジェームズとは以前から一緒に仕事がしたかったんだけど、彼はいろんな番組を持っていて多忙だからなかなかチャンスがなくてね。だけど、この題材なら一緒にやれると思った。彼はピーター役として完璧だったし、番組収録の合間を縫って声優の仕事をこなしてくれたよ。

 

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――そもそも、なぜ映画を作ることになったのですか? その経緯を教えてください。

オーストラリアの有名なアニメーション・スタジオ、Animal Logicから連絡があったんだ。ピーターラビットの映画を作らないかってね。僕はすぐさま賛成した。そしてきちんとした形で作りたかったから、ビアトリクス・ポターの作品の権利を所有している出版社と連絡を取って、一緒に作り上げていったんだよ。

――監督は本作の脚色も手掛けられていますよね。そこで原作と映画の違いについてお伺いしたいのですが、ピーターはいたずらっ子とはいえ、原作だと時には弱気になって泣いたりマクレガーさんの畑に戻るのを心配したりしますが、映画ではもっと傍若無人ですよね。ほかにも、3人の妹たちがそれぞれ個性的なキャラクターになっていたり、父親だけでなく母親も死んでいたりといった変化がありますが、原作を尊重しながらもそうした新しい要素を加えていくという双方のバランスをどのように取っていたのですか?

原作だとあまり大したことは起きなくて、全部を映像化したとしても4分で終わってしまう(笑) だけど、僕らは2時間の映画を作らなくてはならないから、ピーターたちがどんな新しい冒険に乗り出すかを考えたんだ。そして父親だけでなく母親もいない設定にしたのは、ピーターに自立したキャラクターでいてほしかったからだ。大黒柱として、妹たちやほかの動物たちを守る立場にしたかった。

 

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――ピーターたちのほかにも、ティギーおばさん(ハリネズミ)、キツネどん(キツネ)、ジェレミー・フィッシャーどん(カエル)、ジマイマ(あひる)、町ねずみジョニー(ねずみ)といったポター作品のキャラクターが登場しますね。別のストーリーに出ていた彼らを一体どのようにして作品に組み込んでいったのですか?

まず、ポター作品の中からできるだけ多くのキャラクターをピックアップした。中には背景としてしか出せなかったキャラクターもいるけど、画面の端々まで見れば、実はリスのナトキンやネズミもいることに気づくだろう。あとは、動物たちの大きさが様々であることを見せることも大事だったから、小さなカエルから大きなアナグマまでたくさんの種類を出すことを意識したよ。続編のことを考えてあえて今回は出さなかったキャラクターもいるけどね。これからもっと出していこうと思う。

――これから、ということはすでに続編の話が決まっているのでしょうか?

そうだよ。全てが決まったわけではないけど、一応作ることになっている。

――ではその続編では、今回はいなかったネコもぜひ出してください。子ネコのトムなど可愛いキャラクターがいるので。

ああ、トムだね。

――ピーターが柵の下からマクレガーさんの庭に入り込むシーンをはじめ、ポターの美しい挿絵そのままに再現された場面もいくつかありましたね。そうした再現したシーンの中であなたのお気に入りは?

映画化に際して、僕らは23冊あるポターの作品の挿絵をすべて貼り出して、それを参考にして人間の小屋や動物たちの家を作り上げていったんだ。その中でもお気に入りなのは、今話に出たシーンだよ。あとは、ピーターの特徴的な青いジャケットも気に入っている。

 

――ポターの作品はあくまで動物がメインで、時折出てくる人間は添え物的な扱いであることが多いですが、本作は人間もウサギたち動物も同じ目線に立っているのが印象的でした。これはどういう意図なのでしょう?

なぜなら一つには、僕がロマコメを作るのが好きで、ロマンスの要素を入れたかったからだよ。それとポターが画期的だった点の一つは、彼女の描くストーリーがいわゆる子ども向けではなく、大人向けと同じ作風だったことだ。僕自身、そこが大好きなので、映画でも人間と動物を平等に描くことにした。だから、ローズ・バーンとドーナル・グリーソン演じる人間のキャラクターは、時には動物よりバカっぽいことをすることもあるんだよ。

――今回のストーリーでウサギが謝る時の仕草(頭をくっつける)というのが印象的でしたが、原作にはないこのくだりは実際にウサギたちが行っている仕草なのでしょうか?

(キッパリと)いいや。僕が想像で作り上げたんだよ(笑) でも、実際にそういう仕草を取っていたら素敵だよね。

――ポターはもともと動物好きで彼らをよく観察していたことが作品に生かされたわけですが、監督もウサギなどの動物とは日頃から接されているのですか?

僕自身は犬を飼っているよ。ただ僕が思うに、人間が動物を好きな理由は、彼らが話せないからだろうね。もし動物が口を利けるようになったら、人間は動物を飼わなくなるんじゃないかな(笑)

 

――あなたは本作を作る過程でスタッフの仕事に対して全く制限を設けなかった上、俳優たちの演技ではアドリブを多く取り入れていたと聞きました。そういった自由な現場だからこそ、当初は予想していなかったアイデアが生まれたといったことはありましたか?

いろんなことが現場で新たに生まれたよ。絶えず変化を加えていたんだ。あるシーンの撮影で、一度撮影するとまたすぐ別の切り口を試したりしてね。ただ、撮影の後で(動物たちが登場する)CGシーンを加えないといけないという意味では大変だったね。ローズやドーナルが動物と共演するシーンで僕が彼らの台詞や位置を変えるたび、CGシーンを当初の想定から大きく変更しなければならなくなるので、製作スタッフは心臓発作を起こすところだったよ(笑)

――この作品には楽しい音楽がいくつも登場しますが、その一部をあなたが作っていらっしゃいますよね(冒頭で流れる「Small As Your Dreams」と「I Promise You」)。こうした曲はどんなプロセスで生まれたのですか?

曲を作るコツは、才能豊かな素晴らしい人材を集めることだよ。「I Promise You」ではヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ・クーニグが一緒に曲を作ってくれた。『ANNIE/アニー』ではSIAが大きな助けになってくれたしね。僕は音楽が大好きなんだ。まず映画を完成させてから、こうした優秀な人たちを集めて一緒に曲を作っていくんだよ。

 

――ちょうどお話に出ましたが、監督は『ANNIE/アニー』も手掛けていますよね。あちらもミュージカルで、有名な元ネタがあるという点が『ピーターラビット』と同じですが、その経験は本作を作る上でどのくらい役に立ちましたか?

特に助けになったとは思わないな。それぞれの作品は全く違うものとして取り組んでいるから。僕はこれまでに、学園もの、ロマコメ、ミュージカル、ファミリードラマなど様々な作品を作ってきた。常に新しいことにチャレンジしたいんだ。次の作品はブラックコメディだしね。

――最後、これから作品をご覧になるみなさんにメッセージをお願いいたします。

英国の美しい湖水地方の風景やロマンス、あるいは可愛い動物が観たければ、まさに『ピーターラビット』はピッタリの作品だよ!

 

『ピーターラビット』は大ヒット上映中!
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Photo:
ウィル・グラック監督
『ピーターラビット』