『ゴーン・ガール』作者の処女作『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-』、光るエイミー・アダムスの演技

『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-:連続少女猟奇殺人事件』は、米HBOによる幻想的な新作ミステリードラマ。映画『ゴーン・ガール』で一躍脚光を浴びた作家ギリアン・フリンのデビュー作「KIZU―傷―」をベースにしている。取材で故郷を訪れた新聞記者が、トラウマと闘いながら連続殺人事件の真相を追う。

◆新聞記者、故郷が隠す秘密に迫る

シカゴの新聞記者カミル(エイミー・アダムス)は、彼女の故郷で起きている連続殺人事件を調査するため、生まれ育ったミズーリ州ウインドギャップの町へ赴く。人口2000人の小さなこの町で、一人の少女が殺害され、別の一人が失踪していた。カミルが町に着くとまもなく、二人目の少女が無残な姿で発見される。事件の裏に流れる人間関係を記事にしたいカミルだが、上辺しか語ろうとしない住人たちを相手に取材は難航。残酷な事件を追う彼女自身も心身に傷を抱えており、徐々に消耗していく。

滞在先の実家では、思春期を迎え生意気な態度が目に余るようになった異父妹のアンマ(エリザ・スカンレン)との衝突が。裕福で笑顔を絶やさない母アドラ(パトリシア・クラークソン)は、なぜか事件について質問するカミルの気を逸らそうとする。アドラの娘(カミルの妹)は遠い昔に失踪しているが、その不自然な態度と何か関係があるのだろうか? 貧困に蝕まれたウインドギャップの町に潜む殺人犯の正体をめぐり、視聴者はカミルとともに不安の渦に呑まれてゆく...。

◆最悪の状況に置かれたカミル

トラウマを抱えながらも凶悪事件の取材を命じられたカミルは、まさに最低のスタートを切ったかのように見える。しかし、さらに事態が悪化する兆しがあると米Hollywood Reporterは指摘する。町のあちこちに潜む思い出の数々は、彼女があえて忘れようと努めてきたもの。聞き込みを進めるにつれ、彼女の内面に残るトラウマが疼く。

そんな彼女の苦闘ぶりに米Varietyは、本作は人間に内在する苦痛というテーマを掘り下げた作品である、と分析。事件の裏に隠れた人物間の心理的ダイナミクスも、ストーリーを追う上で大きな要素となる。あくまで殺人事件の調査という前提だが、そこから想像される恐怖の範囲を超え、不穏な気配が絶え間無く画面に漂う。

また、表面上は優しそうに見える町の人々や、互いに傷つけ合う家族など、ムラ社会独特の閉塞感がスリルを引き立てる。もちろんスリラーとしての側面だけでなく、中核となるミステリーもエレガントで的確に構成されているとVarietyは評価している。

◆エイミー・アダムス、カミルの脆さを表現

主人公カミルの特異性は、本作の柱。探偵でも警察でもない彼女は、心身に傷を追った姿で、住民の証言だけを頼りに真相を暴こうと奮闘する。トラウマの癒えない彼女は、幻想感漂うミステリー作品の主人公として典型的な存在だと米New York Postは述べている。衣服の裾から垣間見える傷跡が痛々しい。

健気にも取材を進めるカミルを、ゴールデン・グローブ賞受賞歴を持ち『魔法にかけられて』などで知られるエイミーが完璧に表現。若い頃はその美貌により地元の評判をさらったという役どころ。長く抱えてきた苦痛のせいか心ここにあらずといった表情を見せたかと思えば、目の覚めるような気の利いた皮肉を放つなど、ギャップに引き込まれる。Hollywood Reporterは、その姿から決して目を離すことができないだろうと、彼女の存在感を称える。不明瞭な声であえてゆっくり話し、周囲への不信感を醸成していると、Varietyもエイミーの演技力を絶賛。シーズン後半では、傷と悲しみが絶えない彼女の内面が瞳から伝わってくる場面があり、思わずハッとさせられたと同誌は振り返る。

不穏な空気に満ちた田舎町がトラウマを蘇えらせるミステリー『シャープ・オブジェクト KIZU-傷-:連続少女猟奇殺人事件』は、米HBOで放送中。(海外ドラマNAVI)

Photo:(写真左から)エイミー・アダムス、エリザベス・パーキンス、パトリシア・クラークソン
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