「ぞっとするほどリアル」認知症介護の現実を描く英ドラマ『Care』、批評家からも高評価

イギリスの社会福祉問題をテーマにした『Care(原題)』は、90分枠の単発ドラマ。家族の認知症発症をきっかけに経済的に困窮してゆく一家を追う。さらに一家は、理不尽な役所手続きにも時間を奪われることに。脚本家自身の経験にヒントを得た本作は、英BBC Oneで12月9日(日)に放送され、社会問題と正面から向き合う内容が批評家に高く評価された。

♦︎認知症で一変する生活

夫と死別したことでシングルマザーとなったジェニー(シェリダン・スミス)は、二人の娘を懸命に育ててきた。いつも手助けを申し出てくれる彼女の母マリー(アリソン・ステッドマン)の存在も心強い。マリーが娘たちの面倒を見てくれるからこそ、ジェニーはスーパーでパートタイマーとして働き、生計を立てることができている。しかし、ある時マリーは運転中に脳卒中で倒れ、事故を起こす。一命は取り留めたものの、認知症を患うように。母親の世話まで背負うようになったジェニーの生活は急速に苦しくなり、娘たちのために生計を維持するか、親の介護を優先するかの選択を迫られる。

♦︎絶望に浸る90分

ジェニーが母親の介護に困惑する様子は、立派かつ繊細な観察眼の上に成り立っている、と英Guardian紙は論評。ドラマチックと言える瞬間はあえて一度も劇中に用意されておらず、徐々に悪化してゆく状況を本作は淡々と映し出す。悲劇と苦痛が絶え間なく続く90分間のドラマになっており、新しいリアリティの形を感じさせてくれる。金属片を食べようとし、また、動くものはなんでも亡き夫だと言い出す母マリー。ジェニーとその姉妹は、彼女を病院から自宅へ連れ帰らなければならないという現実を受け入れることができない。

情け容赦ない困難が続く本作。ぞっとするほどリアルな描写で現実を明かしている、と英Evening Standard紙は評している。母マリーの入院に伴い、家族の日常生活は破壊され、官僚主義的な役所手続きに煩わされることになる。当初は診断のための病棟に収容されたものの、リハビリが必要だとの判断が下される。しかしリハビリ設備は別の病棟にあり、移動が必須。リハビリ病棟に出向くと、空いているベッドがないことが判明し...。憔悴するジェニーを、このように理不尽な展開が襲う。介護にあたる家族の困難を、冷酷なまでに正確に描いた作品となっている。

♦︎社会問題に最適の脚本家コンビ

通常のドラマならば、困難の後にはドラマチックな希望の瞬間が待っているもの。しかし本作に都合の良い展開など存在しない。それはおそらく、脚本のジリアン・ ジャックズが現実を知っているからだろう。BBCによるとジャックズは、私生活で経験した困難からストーリーの着想を得たとのこと。彼女自身は本作について、認知症患者の家族が必要としている強さと回復力についての物語だ、と語っている。

脚本にはもう一人、ジミー・マクガヴァーンという共同執筆者が名を連ねる。2017年のBBCドラマ『Broken(原題)』では、ギャンブル依存をテーマとした脚本を提供している。メンタルヘルス、警察の職権乱用、自殺などを、架空のストーリーながら真実味たっぷりに描いた作品だったと、Evening Standard紙は紹介する。幅広いトピックで培った鋭い視線を、今作は介護問題という一点に集中。現実を実直に写し取った作品も、イギリスでは受け入れられているようだ。(海外ドラマNAVI)

Photo:シェリダン・スミス
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