『アルマゲドン』×『24』=『サルベーション -地球の終焉-』 J・J・エイブラムスへの弟子からの挑戦状

7月3日(水)にシーズン2のDVDがリリースされたSFサスペンス大作『サルベーション -地球(せかい)の終焉』。『HAWAII FIVE-0』『スリーピー・ホロウ』といった人気ドラマを生み出したヒットメイカーによる本作は、日本でも大きな反響を呼んだが、そこには製作者のある思惑があったのかもしれない。海外ドラマ批評家の池田敏さんが提示する、『サルベーション』の新たな視点とは。

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SFサスペンス大作『サルベーション -地球の終焉-』は、大ヒットドラマ『24 -TWENTY FOUR-』以来定着した、スリリングなノンストップ連続ドラマの"最新進化形"である。

ストーリーは基本的にシンプルだ。人類に甚大な被害をもたらす小惑星が地球に迫っていると分かり、登場人物たちは危機の回避を目指す。1998年、世界中で大ヒットした映画『アルマゲドン』とよく似たシチュエーションだ。同年末に日本で公開された『アルマゲドン』は翌年までロングランが続き、配給収入83億5000万円、推定興行収入135億円を記録し、今でも日本で公開された洋画の歴代興行収入トップ10に入っている。

そんな『アルマゲドン』の脚本家の一人で、『ミッション:インポッシブル』シリーズに第3作から参加し、今や『スター・ウォーズ』シリーズも手掛けるヒットメイカーのJ・J・エイブラムス。その周囲には優秀なクリエイターがたくさんいるが、『サルベーション』で製作総指揮を担うアレックス・カーツマンもそんな一人だ。エイブラムスが監督した『スター・トレック』シリーズ第1・2作に脚本家兼プロデューサーとして参加し、『トランスフォーマー』シリーズ第1・2作の脚本にも参加。ではSFが得意分野と思いきや、ドラマ界ではそのジャンルにとどまらず、『HAWAII FIVE-O』『SCORPION/スコーピオン』『インスティンクト -異常犯罪捜査-』など犯罪を題材にしたヒット作を量産。最新の代表作はドラマ『スター・トレック:ディスカバリー』だが、それと並行して放ったのがこの『サルベーション』だ。

"『アルマゲドン』×『24』"と呼びたくなる面白さが、『サルベーション』にはたっぷりある。人類の危機を描く壮大なスケールだが、『24』のように見る者の予想をいちいち裏切るので、見始めると止まらなくなる。

これは筆者個人の考えだが、『アルマゲドン』が大ヒットしたのはその前年に公開されたレオナルド・ディカプリオ主演映画、ご存知『タイタニック』(前述した洋画歴代興行収入ランキングで堂々の1位)の影響が大きく、"スリリングだが泣ける"という作風が多くの観客の琴線に触れ、『アルマゲドン』も大成功したのだと思う。

そして今や自身も一流プロデューサーとなったカーツマンにとって『サルベーション』は、師匠エイブラムスの出世作『アルマゲドン』に対する、弟子からの挑戦状に思えてならない。これまでにも地球や人類の危機を描く作品は多数あったが、大抵は危機の回避を目指して人類が協力するか、反対に危機に対して諦めた人々の哀感を描くものだった。対する『サルベーション』が斬新なのは、小惑星の地球接近という人類の危機をスピーディに描くと同時に、それをきっかけに自分を高めたいと願う登場人物が多いことだ。

物語が始まった時点で、小惑星が地球に激突するのは約6カ月後と分かる。なるほど、6カ月あったら人生を変えられるのではないかと思う者が現れてもおかしくはない。詳しくは本編を観てほしいのでここでは触れずにおくが、地球を救うためにアメリカとロシアが協力し合い、誰もが利他的に行動するといった描写もあった『アルマゲドン』の世界は感動的ながらやはり理想に過ぎず、21世紀の人間ならこうやってエゴをぶつけ合うはずだという、『サルベーション』はカーツマンからエイブラムスに対する反論に思えてならない。

視点はむしろ大ヒットドラマの『ウォーキング・デッド』や『ゲーム・オブ・スローンズ』に近く、毎日をリアルにサバイブする人々を『サルベーション』は反映しているのだ。

『サルベーション -地球(せかい)の終焉』シーズン2のDVD(発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント)はリリース中。(海外ドラマNAVI)

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『サルベーション -地球の終焉』シーズン2
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