ラッセル・クロウ主演『The Loudest Voice』 巨大メディアを作り上げた男の栄光と転落

大統領選挙の勝敗をも左右すると言われるアメリカの一大メディア、FOXニュース。その帝国を牛耳るロジャー・エイルズは、政治の世界にも支配力を伸ばそうとしていた...。6月末から米Showtimeで放送中の全7話のリミテッドシリーズ『The Loudest Voice(原題)』は、野望に突き動かされ続けた男の栄光から末路までを描く。

メディア王の光と影

1996年の夏。エイルズは怒りに震えていた。FOXニュース開局を数カ月後に控えているのに、準備状況は悲惨なことに業を煮やした彼は、午前4時に緊急ミーティングを開いて従業員たちにゲキを飛ばす。副調整室に詰める面々を、近眼のアニメキャラが自身の性器を探して歩き回っているようだ、と口汚く罵る。

決して人格者ではないエイルズだが、その手腕は確か。大手ネットワークCNBCでのキャリアを捨てた彼は、リスクを負って開局したFOXニュースをアメリカの代表的なメディアの一つにまで育て上げ、共和党の事実上のリーダーへとのし上がる。世界中の指導者たちと交友を持ち、勢力を拡大し続けるが、その傲慢さがアダとなってついにはセクハラ疑惑の渦中へ転落し、自ら興した会社を追われることに。ドラマは、米New York誌の記者ガブリエル・シャーマンによるベストセラー「The Loudest Voice in the Room」を原作にしている。

オスカー俳優の豊かな表情が圧巻

2000年の映画『グラディエーター』で引き締まった肉体の剣闘士を演じてアカデミー賞主演男優賞に輝いたラッセル・クロウが、髪が薄くなった巨漢のメディア界の大物を貫禄たっぷりに演じる。腹回りに作り物の贅肉を巻きつけ、優しげな魅力とこの世の終わりのような怒りを交互に発している、と米Entertainment Weekly誌は紹介。さすがの演技力で視聴者を惹きつける。

ラッセルの存在がドラマに活力を与えている、と米Indie Wireも評価。社外の人物に見せる人当たりの良さと、社内での恐怖政治との二面性を、シーンごとに巧みに演じ分ける。妻のベス(『夜に生きる』のシエナ・ミラー)に仕事のオファーを断られるシーンでは、まるで子犬のような純粋な瞳に当惑の色が浮かんだかと思うと、次の瞬間には激高するなど、老齢の大物という役柄からは想像もつかないようなコロコロ変わる表情でエネルギッシュな演技を披露している。

メディア王、スキャンダルで破滅という皮肉

エイルズはかつて二人の大統領、ニクソンとレーガンのメディアコンサルタントを務めていた。その経験を活かし、FOXニュースでは従来のメディアがターゲットとしてこなかった保守派の視聴者に狙いを定め、「大衆は情報を知りたいんじゃない。知った気になりたいだけだ」を信条とし、女性キャスターにはパンツスーツでなくスカートを着させて脚を見せるなど様々な手段を使って視聴率を稼ぎ、商業的な成功を収めた。Entertainment Weekly誌は、「政治と同じく、売り込みたい層の支持を得られるような番組構成が重要だ」というエイルズの戦略を取り上げている。確固とした信念により、新鋭TV局は大成長を遂げた。

しかし、絶大な権力を得たエイルズは、社内の女性に対するハラスメントを日常的に行うように。その象徴的なシーンをIndie Wire誌が取り上げている。彼のビジネスパートナーであるローリー(『ピーキー・ブラインダーズ』のアナベル・ウォーリス)がホテルの廊下を歩いている場面で、明らかに不快そうな表情を見せるのだが、それもそのはず、エイルズが並んで歩き、彼女の胸元のネックレスに手を触れているのだ。のちに彼を失職へと追い込むセクハラ騒動の前兆となるシーンだ。

アメリカのTV業界を揺るがしたスキャンダルを追う『The Loudest Voice』は、米Showtimeで放送中。(海外ドラマNAVI)

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『The Loudest Voice』