吹替で振り返る昭和・平成の名作海外ドラマ【前編】

海外ドラマを見る時は字幕派ですか? それとも吹替派ですか?

個人的に私はどっちも派という節操のない人間ですが、字幕版と吹替版のどちらで見るかというのは、洋画も含めて永遠のテーマでもありますよね。ともあれ、日本における海外ドラマの歴史は吹替版なしには語れません。

ということで今回は、ジャンルごとに名吹替により日本でヒットした海外ドラマを独断と偏見で2回に分けてご紹介します!

名翻訳と名演技が光るミステリードラマの金字塔『刑事コロンボ』

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1970年代に日本放送が始まった『刑事コロンボ』。名翻訳者の額田やえ子さんが生み出した名セリフ「うちのカミさんがね」とともに、ピーター・フォークが演じる冴えない見た目で実はスゴ腕というコロンボ刑事を小池朝雄さんが独特のセリフ回しにより吹き替え、日本でも多くのファンを生み出した作品でした。

「カミさん」の由来については、額田さんの著作「アテレコあれこれ ――テレビ映画翻訳の世界」の中で、"試写を見たとたんに思った"と語っており、名翻訳者のひらめきはやっぱり一味違うなと思わせますね。

海外ドラマ、いわゆる"外画"の吹替が始まった1950年代は、放送劇団の方々が吹替をされていました。その流れもあって、劇団に所属する役者が声優として数多く活躍されています。ミステリー作品だと、小池さんの他に、額田さんが同じく翻訳を手掛けた『シャーロック・ホームズの冒険』の露口茂さんや、『名探偵ポワロ』の熊倉一雄さんも名吹替を披露されていましたね。ちなみに露口さんはコロンボ役の吹替第1候補だったそうです。露口版コロンボも見てみたかったな~。

『刑事コロンボ』はHuluPrime Video(シネフィルWOWOW プラスチャンネル)などにて、字幕・吹替版ともに配信中。

ド派手なアクションと痛快ストーリーが魅力の『特攻野郎Aチーム』

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1980年代には『超音速攻撃ヘリ エアーウルフ』『ナイトライダー』『冒険野郎マクガイバー』といった傑作アクション作品が数多く日本でも放送されました。どれも甲乙つけがたいのですが、個人的に大好きだったのが『特攻野郎Aチーム』。羽佐間道夫さん、安原義人さん、飯塚昭三さん、富山敬さんらの掛け合いが魅力の吹替と、ド派手なアクションで、マシンガンをぶっ放しながらも誰も死なないというマイルドさが逆にツッコミどころで楽しい作品でした。

ところで、最近の海外ドラマだと冒頭に「前回までは...」という「Previously on」方式によるストーリーの振り返りがあるものも多いですが、当時の海外ドラマにありませんでした。代わりにあったのが、オープニングで日本オリジナルのナレーションを追加し、作品とキャラクター紹介をするというもの。名作海外ドラマには名オープニングありというぐらい、海外ドラマの楽しみの一つでした。特に『特攻野郎Aチーム』の日本オリジナルナレーションは秀逸! 羽佐間さんら4人が次々と名乗り上げる部分は、キャラクターの特徴をよく捉えたセリフも相まって今でも頭に残るほどです。

『特攻野郎Aチーム』はHuluPrime Video(シネフィルWOWOW プラスチャンネル)などにて配信中。

ビバリーヒルズのセレブな若者たちの青春ドラマ『ビバリーヒルズ高校白書/青春白書』

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中流階級の双子の高校生が多くのお金持ちの住むビバリーヒルズへ引っ越してきて、その高校生活を描く青春ドラマ『ビバリーヒルズ高校白書』と、大学生以降を描く『ビバリーヒルズ青春白書』。1990年代に日本で放送された本作は、続編やスピンオフも数多く制作され、2019年夏にはリバイバル版も全米で放送予定と、いまだに人気の衰えない伝説的ドラマです。

ジェイソン・プリーストリーや故ルーク・ペリーといった若手俳優がスターの仲間入りを果たすなど、全世界で大ヒットし、日本でも大ブームを巻き起こした本作。演出を務めた田島莊三さんと、中原茂さん、小金澤篤子さん、松本梨香さん、小杉十郎太さん、堀内賢雄さん、水谷優子さん、安達忍さん、佐々木望さんら声優陣による吹替版も超個性的! ブランドンの「~でござんす」「~ですよ、スティーブくん」、デビッドの「先輩」「姉上」、スティーブの「~でやんす」といった独特の口調を初めて聴いた時は衝撃を受けたものでした。

オリジナルキャストの原音が好きな人にとっては賛否両論あるかと思いますが、原音にはないキャラづけによる個性の際立たせも吹替の魅力の一つでもあり、賛否両論あるからこそ記憶に残るものなのではないでしょうか。

シットコムとしてもファミリードラマとしても名作!『フルハウス』

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1980年代後半から日本でも放送され、シットコムでありながらハートフルなファミリードラマとしても名作の『フルハウス』。堀内賢雄さん、大塚芳忠さん、山寺宏一さん、坂本千夏さん、大谷育江さん、川田妙子さん、伊藤美紀さんらによる素晴らしい吹替により、老若男女の幅広い視聴者層から愛されました。2016年には続編の『フラーハウス』がオリジナルキャストにより復活! もちろん日本語版の声優陣もそのままです。

『フルハウス』と入れ替わるくらいのタイミング、1990年代に上陸して人気を博したシットコム『フレンズ』などもそうですが、コメディのジョークやギャグというのは文化の違いもあり、吹替でもセリフの尺の制限はありますが、字数制限の厳しい字幕だとより分かりづらいもの。特に言葉のニュアンスなどで笑わせるシーンは吹替の方が楽しみやすいかもしれません。

ちなみに『フルハウス』の代表的なギャグの一つでもあるジョーイの「カット・イット・アウト(Cut it out)」は「やめて」という意味ですが、演じるボブ・サゲットが来日した時に質問したら、いろんな意味で使えるそうです。吹替でも「カットおしまい」「冗談はよせ」など状況に合わせて様々に訳されていましたね。

『フルハウス』はNetflixにて配信中。

平成の医療ドラマブームの火つけ役『ER 緊急救命室』

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医療ドラマは、日本でも1960年代に放送された『ベン・ケーシー』が最高視聴率50%超えを記録するなど昔から人気のジャンル。その中でも、平成からの医療ドラマブームの火つけ役となったのが『ER 緊急救命室』。ジョージ・クルーニーの出世作でもあり、アンソニー・エドワーズやノア・ワイリーら多数のキャストが出演する群像劇として医師や看護師をリアルに描いていました。全米で生放送されたシーズン4第1話の吹替もノンストップで一発収録したという井上倫宏さん、小山力也さん、平田広明さん、大塚明夫さんら実力派の声優陣と、日本語版制作陣によるこだわり抜かれた吹替を楽しめる作品でもあります。

混乱する緊急救命室が舞台の群像劇ということで、多数の話者が同時にしゃべるなんて日常茶飯事の作品ですが、字幕だと基本的に複数の話者のセリフを同時に表示しないので、そういう時は吹替版が見やすいですよね。字幕の制作会社によっては複数の話者のセリフを同時に表示する場合もありますが、そうしてしまうと話者がどちらなのかといった問題も生じてきます。

また、視聴者に違和感なく見てもらうために、吹替では"ガヤ"と呼ばれる背後に聞こえるかすかな声から、病院の館内放送のようにガヤの中でもハッキリと聞こえる"粒立ち"と呼ばれるセリフまで、隅々にわたって日本語化されています。『ER』の吹替版はそういう細部のこだわりも分かりやすい作品ですので、そこに注目してみるのも面白いと思います。

『ER 緊急救命室』はU-NEXTHuluなどで、字幕・吹替版ともに配信中。

後編では『24』『NCIS』などを振り返ります。お楽しみに!

(海外ドラマNAVI)

Photo:『刑事コロンボ』© 1971 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved. © 1988 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved. 『特攻野郎Aチーム』©1983 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved. 『ビバリーヒルズ高校白書』©90-91 CBS Paramount International Television 『フルハウス』©Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved. 『ER 緊急救命室』TM & © Warner Bros. Entertainment Inc.