昨今の世界情勢を鋭く描く社会派スパイサスペンス『HOMELAND/ホームランド』。「対テロ戦争」という題材を通して、現代のアメリカ、そして国際社会にはびこる根深い問題を掘り下げる米Showtimeの人気スパイ・スリラードラマは、本国で4月26日(日)に最終話の放送を終えた。日本では最速放送中のFOXチャンネルにて6月9日(火)にいよいよ最終話を公開するが、本作にで8シーズンにわたり主演してきたキャリー・マティソン役のクレア・デインズが、英The Guardianのインタビューに答え本作を振り返っているのでご紹介しよう。
シーズン8は、アフガニスタンにおけるタリバン勢力との戦いに終止符を打ちたい米国政府を描いている。前シーズンにロシアで幽閉されていたことにより、キャリーは精神的にも不安定で健康状態も回復していない。キャリーの記憶が曖昧になっていることで、彼女とソールの間にも問題が生じているなか、キャリーの専門知識を必要とするソールは、医師のアドバイスを無視して、彼女を危険な任務に誘う...というところからスタートする。
インタビューが行われたのは今年4月。子ども二人と夫で俳優、そして本作ではホワイトハウスに勤務する外交政策コンサルタントのジョン・ゼイベルを演じて夫婦共演を果たしたヒュー・ダンシーと自宅待機生活をおくっていたクレアにFaceTimeでのインタビューをThe Guardianが実施した。
ヒュー・ダンシー(ジョン・ゼイベル役)
演じたキャリーについて、「折り紙のようね。紙を折り曲げると違うものが出来上がるでしょう。世界で起こっていること、それが常に変化していることをまるで鏡のように映し出していると思う。場所が変わって、成長していった。とてもダイナミックでいつも新たな一面を探求できる人だった」と述べた。
そんなキャリーの恋愛模様については、「驚くほど素晴らしいラブストーリーだった」と語る。ダミアン・ルイス演じるニコラス・ブロディとの恋愛もあったが、マンディ・パティンキン扮するソールとの師弟関係は自身の育った環境にも類似していると話す。
「ポップカルチャーではなかなか見られない師弟関係も素晴らしいラブストーリーだと思う。台本の読みあわせの時、すでに私とマンディにはケミストリーが生まれていた。彼は私の親友のお父さんにそっくり。私を育ててくれたと言っても過言ではない素晴らしい人だけれど、もし彼を怒らせたらとても落ち込むのよ。だから、その親友のお父さんとの関係性がとても演技で役に立った。マンディは素晴らしい役者だし、この作品を通じてパートナーとしてお互いの関係が深まったと思う」
マンディ・パティンキン(ソール・ベレンソン役)
そんなマンディと最後のシーンとなる撮影は、感極まるものだったことも明かしてくれた。
「それはカジュアルなシーンではなかった。終わったと気づいたときは、とてもカタルシスな瞬間だった。だって永遠に別れを告げなければならないのは、とても寂しかったし、存在が大きすぎたから。たくさんの人が涙を流し、私たちはずっとお互いを抱きしめた」
そして『HOMELAND』の仕事を引き受けた時の感情についてもオープンに話した。
写真家と絵描きというアーティストを両親に持つNY出身のクレア。「私は、NYのダウンタウン出身で、国の組織や制度に懐疑的なアーティストやリベラルな人々に囲まれて育ったの。けれども、(キャリーのような)役を演じるようになって、国のために犠牲になっている愛国心を持った人たちに感銘を受けた。そういうことを真剣に受け止めるようになったの」と自身の見解が変わったことも告白した。
そんな自分をも変えるような作品にかかわったクレアは、撮影当時を振り返って「毎日がとても濃かった。9時に集合し、回転ドアが絶え間なく動いているようだった。ストーリーが次々と生み出され、それぞれ異なるイデオロギーと政治的立場を持った人たちが色々な話をしていた。こんな事を経験できるのは素晴らしい特権だと思った。だって、何も見えない水晶玉の中を、たくさんの情報を調べて見つめ、1年後の私たちの現実がどのようなものであるか、まるで水晶玉の中がかなりはっきり見えるかのように把握できたのだから」
また、この作品にかかわるまでクレアが把握していなかったこともあったという。
「この作品をスタートした時、ロシアと潜在的に難しい関係であることを知らなかった。アメリカとロシアの関係はもう解決していて良好だと思っていたから。だから(作品に出てくる)人々が実際に存在していることにショックを受けた。それがどのように人間の感情的な面や親密な関係に影響を与えるかはとても興味深いことだった。何年も故郷から離れて現場で職務を全うして帰ってくると、アドレナリンは消えている。孤独でいること、すべての秘密を抱えること、形を変えること、異なるアイデンティティを前提とすること...そういう本当の話を聞いた」
シーズン6が放送された2017年には、フェイクニュースや大統領選とロシアとの疑惑が報じられた。そのことについても、「何年も国の情報機関と一緒に作品を作ってきたので、すごく共感できたし、感謝と忠誠心も芽生えた。だから突然大統領がその人たちを解任して、組織を弱体化させた時には信じられなかった」と実際に起こっていた政治への思いも語った。
さらに、双極性障害を患っているというキャリーの設定への世間の反応については、「好意的な反応が多かったし、私はそのことをとても有難く思ってる。このような障害はそれほど頻繁にドラマ化されないから、そのことで議論が活発化するのはいいことだと思う。私はキャリーの双極性障害を面白おかしくしたり、単なる安易な設定にしたりするのは嫌だと思っていたし、できるだけ正確に演じようと思った。とても人間らしいコンディションだと思うから。毎日を頑張っているそういう人たちに尊敬の念を持つようにもなった」
最後に、9年間演じたキャリーとの別れを惜しみ、こんな言葉でインタビューを締め括った。
「キャリーと離れるのはとても寂しい。彼女が大好きだった。最高に賢くて、大胆で、申し訳ないほどに野心家で強いキャラクターを演じるのは楽しかった。キャリーは永遠に不滅よ」
(翻訳/Erina Austen)
『HOMELAND/ホームランド』最終シーズンとなるシーズン8はFOXチャンネルにて放送中。いよいよ6月9日(火)には最終話となる第12話がリリース。また、デジタル配信は5月1日(金)より第1話から6話が配信中で、6月26日(金)より第7話から12話の配信を開始する。
Photo:『HOMELAND/ホームランド』© Showtime