英雄になれたのは妻たちがいたから!『マーキュリー・セブン』直撃インタビュー【2】

1958年から1963年にかけて実施されたアメリカ初の有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」に抜擢された宇宙飛行士7人、"マーキュリー・セブン"の実話を描くナショナル ジオグラフィックのドラマシリーズ『マーキュリー・セブン』が、Disney+(ディズニープラス)にて10月16日(金)より日本初独占配信中だ。原作はトム・ウルフによるベストセラー「ザ・ライト・スタッフ―七人の宇宙飛行士」で、1984年には映画化もされている。そのキャスト&スタッフの直撃インタビューをお届けしよう。

米ソ冷戦の中で「マーキュリー計画」に選ばれた宇宙飛行士たちは、国家の重圧に耐えながらも、仲間との絆を深め、一躍有名になっていく一方で、宇宙飛行士に求められる"ライトスタッフ(己にしかない正しい資質)"とは何かを追い求めながら、挑戦し続ける姿を描き出す。彼らの不安や心の葛藤を抱えながらも夫を懸命に支えた妻や家族、彼らの周囲の人々の心の動きや絆も見どころ。"普通の人間がいかにして非凡なことを成し遂げられるのか"というテーマを、実話を通して語りかける。

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キャストは、『SUITS/スーツ』のマイク役で知られるパトリック・J・アダムスをはじめ、ドラマ版『リミットレス』のジェイク・マクドーマン、『ワンス・アポン・ア・タイム』のコリン・オドナヒュー、『MAD MEN マッドメン』のアーロン・スタトン、『One Tree Hill/ワン・トゥリー・ヒル』のジェームズ・ラファティ、『エスケープ・アット・ダンネモラ~脱獄~』のマイカ・ストック、『マーベル インヒューマンズ』のマイケル・トロッターなど。製作総指揮には、プロデューサーとしてもアカデミー賞ノミネート経験のあるレオナルド・ディカプリオのほか、『ホワイトカラー』や『キャッスルロック』の脚本を手掛けたマーク・ラファティも名を連ねる。

今回登場するのは"マーキュリー・セブン"である夫を支えた妻たち、エロイーズ・マンフォード(トルーディ・クーパー役)、シャノン・ルシオ(ルイーズ・シェパード役)、ノラ・ゼヘットナー(アニー・グレン役)。妻たちのストーリーを描く重要性やキャラクターに合った衣装について語ってもらった。

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――本作のインスピレーションになるような、宇宙をテーマにしたお気に入りの作品はありますか? 宇宙という、我々よりも大きな存在をテーマにした作品に出演してみていかがでしたか?

エロイーズ:この作品は、宇宙をテーマにしたフィクションでもなければ、宇宙に旅立つまでを描いたドキュメンタリーでもなく、思わず引き込まれてしまうような面白い作品だと思う。宇宙へ旅立つ人たちの様子を生中継で見るなんて凄いことよね。(2002年にイーロン・マスクによって設立された)スペースXですら最近のことなのに。

本作に関わる前からもともと宇宙のことは好きだったの。そしてこの作品の素晴らしいところは、アポロ計画の中心地であったフロリダ州のケープ・カナベラル周辺で撮影されたことね。壮大な叙事詩的な物語がどう生まれたのかを間近で見られることにワクワクしたわ。そしてあなたの言う通り、宇宙は私たちよりも大きな存在よね。文字通りの意味のほかに、感情、概念といった面からもあれだけ大きなものだからこそ、私たちのやる気に火をつけたんじゃないかしら。

ノラ:そうね、ケープ・カナベラルで撮影したことはクールだったわ。あそこに初めて到着した時、ツアーでロケットが発射された場所なんかを見せてもらったの。素晴らしかったわ。今はチャレンジャー号のドキュメンタリーを見始めたところなの。私が好きな宇宙の映画は、言うのがちょっと恥ずかしいけど、『アルマゲドン』ね。ついつい何度も見ちゃうの。

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――"マーキュリー・セブン"の仕事だけでなく家庭にも焦点を当てることはなぜ重要なのでしょう?

シャノン:家族に焦点を当てるのは不可欠だと思う。その理由の一つは、この男性たちがNASAの計画に選ばれたのは、結婚していて家族がいるからなの。それも選考条件だったのよね。二つ目は、この男性たちが独力で立っているわけじゃないということ。彼らがその立場にいるのは、妻が支えてくれたから。ゴードン・クーパーの場合、妻のトルーディが彼の元に戻ると決めたので、ゴードンは計画に参加できたの。彼女がそうしていなければ、ゴードンは宇宙飛行士になれなかったはずなのよ。アラン・シェパードも妻のルイーズは腹心の友、コーチとも言える関係だった。彼がどうすべきか分からなくなると、いつもルイーズが進むべき道を示してくれたのよ。彼女たちは夫のキャリアをサポートしただけでなく、彼らの生活を文字通り支えていた。子どもたちの面倒を見るだけでなく、家を綺麗に保ち、買い物に行って料理をし、いろんな支払いを済ませてきたのよ。夫が家庭のことを気にせず千載一遇の挑戦に専念できるよう、うまく切り盛りしてきたの。つまり、彼女たちの存在抜きでは彼らはああいう業績が残せなかったのよ。

エロイーズ:「歴史は勝者によって書かれる」と言われるけど、この場合は「歴史は男性によって書かれる」と言うべきね。正直、歴史の陰にいた女性たちは日陰の存在にならないように懸命に努力していたはずなの。当時は性差別が存在していたけど、実際に何が起きていたのか、こちらの側のストーリーを伝える時が来たと思うわ。私たちが真実を見ることができないと、社会として前進するための本当の変化は起こせないの。これまでまったく語られてこなかった部分だからこそ、伝えることが大事なのよ。

ノラ:もう二人に全部言われちゃったわね(笑)

――ノラに聞きたいのですが、あなたが演じたアニー・グレンは当事者の中で最後まで生きていた人でしたね(※今年5月に100歳で永眠)。ご本人に会う機会はありましたか?

ノラ:いいえ、会えなかったの。本当に残念だったわ。役に入り込むために多くの時間を費やしてきたから、いつかご本人に会えればいいなと思っていたんだけど。

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――その時代を示す重要なアイテムとして衣装がありますよね。その時代ならではの衣装を身に着けてみていかがでしたか?

エロイーズ:とても楽しかったわ。(当時のスタイルに合わせて)私たちはみんな髪が長い状態で参加することになったの。もしかしたらノラはそこまで長くなかったかもしれないけど。でも、髪型を当時に合わせてカットして、下着も全部当時のものにしたのよ。当時の下着ってとにかく...

ノラ:すごく着け心地が悪かった。

エロイーズ:たしかに着け心地は悪かったわね(笑) でもそういう一つひとつが役作りの助けになるの。だから、トルーディができる限りパンツ姿でフラットな靴を履くのは私にとってとても重要だった。当時の女性はドレス姿でヒールを履いているものだと考えられていたけど、彼女はそういう境界線を破るようなタイプの女性だったから。衣装デザイナーのホープ・ハナフィンは素晴らしくて、彼女と一緒に働けたことをみんな幸運に思っているでしょうね。本当に見事な仕事ぶりよ。

シャノン:そうね、ホープとの仕事はすごく楽しかったわ。フィッティングに行った時、美しいドレスを試着するのはすごく楽しくて、服によっては「いいえ、これはルイーズ向きじゃないわ」と言うこともあるけど、「これぞルイーズ!」とも言うべきドレスに出会うこともあるの。そして服を身に着けるのは甲冑を身に着けるようなもので、自分を守ってくれるのよ。この作品ではガーターをはじめ一式を着けていたから、フロリダの気候ではかなり暑かったわ。撮影に向けてトレイラーに入る時は私自身なんだけど、服を着替えてそこから出る時はルイーズになりきっているの。普段の私はお転婆で猫背だけど、特定のジュエリーを着けて役柄に適した色の服を身に着けると、別人になれるのよ。

ノラ:二人が言う通り、面白かった。ただ私の場合、ブラを含めていくつかは身に着けないようにしたんだけど。全部身に着けたシャノンとは正反対だったわね。「外はこんなに暑いんだから! 着け心地は良くないし!」ってね。

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――当時のアメリカは今といろいろ時代背景が異なりますが、そういう時代で演じてみていかがでしたか?

ノラ:当時はマナーがより重視されていて、人々がもっと上品で互いに尊敬の念も抱いているというのは素敵だと思う。でも同時に、当時はそういうものを全員が得られたわけではなかった。それこそが、私たちが今アメリカや世界中で声を上げて闘っている理由なの。マナーをわきまえていたりみんながきちんとした服装をしていることはいいと思う。でもあの時代の政治には賛成できないわ。といっても、今の政治にも賛同できないんだけど...。

エロイーズ:あの頃は良かったという声をよく聞くの。でも有色人種や女性が軽んじられていた時代でもあるから、当時がアメリカの絶頂期だという意見を耳にすると奇妙に感じるわ。だって、それって白人男性にとっての絶頂期でしょ? だから、本作はそれに対する興味深い探求とも言える。正直言って、文化の面では彼女たちは大きなことを成し遂げたわ。今もまだできることがあると思うから、これからも闘い続けないといけないのよ。歴史を振り返って何が起きていたかという真実を認識し、変化を起こすためにね。「偉大」という観念は、万人にとってのものであるべきだから。

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『マーキュリー・セブン』(全8話)は、Disney+にて第1話~第4話が配信中。毎週金曜日に新エピソードが到着する。

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『マーキュリー・セブン』
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