今年元旦より英ITVで放送されるや否や大反響を呼び、同国内で法改定の動きも巻き起こすなど社会現象になったドラマ『ミスター・ベイツvsポストオフィス』。6月2日にミステリーチャンネルで日本初独占放送となる話題作に出演するキャスト、モニカ・ドラン(ジョー・ハミルトン役)、ジュリー・ヘスモンドホール(スザンヌ・サーコム役)、リア・ウィリアムズ(ポーラ・ヴェネルズ役)、ウィル・メラー(リー・キャッスルトン役)のインタビューが到着した。
目次
国を動かした重要作品
全4話の『ミスター・ベイツvsポストオフィス』が描くのは、2000年代に実際に起きた英国史上最大規模の冤罪事件。700人以上の郵便局長らが、無実にもかかわらず、ITシステムの欠陥を要因とする問題により窃盗や詐欺といった罪に問われ、家も財産も名声も失い、投獄されたり自殺したりする者まで発生する事態となった。
「より多くの視聴者が、何が起きたのかを理解できるようになった」と言われる本作の大ヒットにより事件が注目され、ITシステムの不具合のせいで無実の罪に問われるという、信じられないような実話に衝撃を受けた視聴者から、「被害者の冤罪を速やかに晴らして補償する」ための新法の制定を求める声が上がり、国中を巻き込んだ社会現象となっている。
キャストへのインタビュー
――このドラマへの出演を通して、ポストオフィス・スキャンダルについてどんなことを知り、一番ショックでしたか?
モニカ・ドラン:ブランドを守るためだけにどうしてあんなウソがつけるのか。それを考えるほど途方に暮れます。私にはその感覚がまったくわかりません。ポストオフィスを守るためにどうしてウソをつくのか? このドラマはITと会計責任が大きなテーマとして描かれています。それが視聴者に伝えるべき重要なメッセージであるというのが理由の一つです。
また、こんなに長い間、戦ってきたことも知りませんでした。脚本の読み合わせでアラン・ベイツさんが言っていました。このドラマで描けていないのは、どれだけ長い間手紙を待ち、どれだけミーティングを重ね、何度、議会に足を運ばされたか、だと。2003年からずっとですよ! しかも、被害者それぞれに、それぞれの物語がある。私は自らの命を絶った方々がいたことも、監視用の電子タグを足につけたまま出産した方がいたことも、ノエル(・トーマス)が60歳の誕生日を刑務所で過ごしたことも、そういう個人的な問題は知りませんでした。
それからもう一つ、強盗を恐れながら配達していた時代から、数百年という歴史を持つポストオフィスが、犯罪の捜査権と公訴権を持っているなんて、こんな恐ろしいことも知りませでした。警察が関わらなくても有罪判決に持ち込めるなんて。ポストオフィスはそのような権限を、不正を隠すための逃げ道に利用していたんです。
リア・ウィリアムズ:まず驚いたのは――おそらくトビー・ジョーンズをはじめ、郵便局長を演じた出演者たちが見事に状況を演じてくれていますが――全国各地の郵便局の人たちが、まったく知識もないのに、いきなり新しいコンピューター・システムを使うよう要求されたことですね。適切な指導も、教習もなく、いきなり最新のハイテクシステムを使って、郵便局を運営するように言われたんです。これには驚きました。どうしてそんなことが許されたのかまったくわかりません。そしてひとたび導入すると、わからないことがあったり、システムの調子が悪くなったり、不具合が出ても、必要なサポートは実質ありませんでした。お金が消え始めても、彼らには適切なサポートがなかったんです。そんなことがあるのかと、ただただ驚きました。
ウィル・メラー:あまりにも自分が知らないことが多くて、腹が立ちましたね。少しは耳にしていましたが、出演が決まってからは、当然ながら この事件について深く知ることになりました。撮影中、シーンの合間に、昼食の時などに役者としてこの事件についてよく話しました。「郵便局長たちに対し、こんなひどいことをするなんて、信じられるか?」、「自分たちが何をしていたかわかっていたのに、圧力を加え続けていたなんて信じられるか?」とね。「“こんなの間違ってる”と言う人間はいなかったのか?」と憤りを感じるわけです。リーは、まったく勝てそうもにない戦いに挑み、何十年もの月日を失った人々の中の一人にすぎません。被害に遭った郵便局長たちはいまだに答えも得ていないし、満足のいく謝罪も受けていないし、払われるべき賠償金も受け取ってないんです。
――このようなドラマによって、どんなことが達成できればいいと思いますか?
ジュリー・ヘスモンドホール:それは難しい質問ですね。私は心からドラマには物事を変える力があると信じていますし、長年、諦めずに粘り強くずっと努力すれば成果につながるということも信じていますが、郵便局長たちの努力はまだ実ってない。だから、私はこのドラマによって、権力者を揺さぶり、世間の行動を促すことができればいいなと思っています。
というのも、すでに何年もの積み重ねがあり、かなり長引いている問題なので、スキャンダルが暴露された時点で人々は「これで終わった」と思ってしまうと思うんです。だけど、そうではないんです。まだ法廷調査の審問は続いていますし、補償も終わっていません。
このドラマを見て、「よし、冤罪だと明らかになったからには、何か行動しなければ。不正をただそう」と言ってくれる人が現れることを祈っています。たとえ国会議員の地元有権者の人気取りだとしても、そうなってくれることを願います。公正な結果が出ること。私が望むのはそれだけです。それだけ彼らは容赦ない目に遭わされてきたからです。ヒルズバラの悲劇(1989年に英中部シェフィールドのヒルズバラ・スタジアムで行われたFAカップ準決勝で観客96人が圧死した事故)と比べるつもりはありませんが、この事件でも亡くなった人がいます。でもそれは同時に「ダメだ。これ以上、もう進めない」と諦めてしまう人がいるということです。だからとてもシンプルですが、このドラマが、誰かが腰を上げるきっかけになることを願っています。「よし、そういうことなら、この問題を解決しよう」ってね。
モニカ・ドラン:ドラマは、視聴者の感情に訴える形で自分とは違う人々の人間性や苦境を教えてくれるものです。なので、このドラマを通して、世間の人々が郵便局長たちに人として共感し、もし自分が彼らだったら?と考えてもらえたらうれしいです。本物のジョー・ハミルトンが、いくつかのシーンを見て、こう言いました。「これであの人たちを丸裸にしてやれるわ」と。私もそうなればいいと思っています。
ウィル・メラー:実在の人物たちを描いているので…その人たちの声が視聴者に届いてほしいですね。間違いなく彼らは補償が必要ですし、当然、金銭的に補償されるべきです。しかし、人々が「あなたの声を聞いてるよ」と言うのもすばらしいことだと思うんで す。そして彼らにひどいことをした組織に責任を取らせなくてはいけません。演じる中で、誰にも自分たちの言うことを聞いて もらえない彼らの痛みを感じました。だから、彼らの声をしっかり届けたい。このドラマがその助けとなって初めて、我々は仕事をしたと言える。だからこのドラマをぜひ見ていただきたい。この後にドキュメンタリーが続くので、ぜひ注目してください。
※本インタビューは2023年、英国での放送前に行われたインタビューです。現在の状況と異なる場合がございます。
『ミスター・ベイツvsポストオフィス』は6月2日(日)16:00よりミステリーチャンネルにて一挙放送。(見逃し配信は、6月4日(火)~6月15日(土))
『ミスター・ベイツvsポストオフィス』ミステリーチャンネル公式ページ
(海外ドラマNAVI)
Photo:『ミスター・ベイツvsポストオフィス』© ITV Studios Limited 2023