【リアルSMASH】ブロードウェイで戦う日本人女優から観た『SMASH/スマッシュ』とは!?<Sumie Maedaさん編>

「特集 どうしてもつかみたい夢がそこにある ドラマ『SMASH/スマッシュ』に迫る!」の関連企画として、今回実際にニューヨーク・ブロードウェイで活躍する日本人に突撃インタビューしてきました!

まずは、ニューヨークを拠点に活動している女優・ダンサーのSumie Maedaさん。『Hot Feet』というダンスミュージカルでブロードウェイデビューを果たし、トニー賞を多数受賞したブロードウェイ・ミュージカル『South Pacific(南太平洋)』のナショナルツアーに出演した経験を持つ彼女に、ミュージカルの舞台裏や『スマッシュ』の感想などをうかがいました。

----この世界に入ったきっかけは何でしょうか?

母と伯母がバトン・トワリングのスタジオをやっていて、2歳からバトンを始めました。バトンのためにバレエやタップダンスを小さい頃から習い、そして高校生の時にヒップホップのダンスを始め、大学でも引き続きダンスに夢中でした。大学卒業後は就職せずに、ダンス留学のためニューヨークに移住しました。ワーキングビザをとるのにもがいていたところ、あるアフリカン・アメリカンのダンスカンパニーのオーディションに受かり、ビザのスポンサーになってくれました。そこはモダンダンス中心で、モダンダンスをプロとしてやったのは初めてだったのでいろいろなテクニックを学べました。その後、少しでもパフォーマンスの機会を得ようと、ダンスだけではなく芝居や歌にも手を広げるようになりました。

----それでミュージカルのオーディションを受けるようになったのですね?

最初のうちは、何も考えずにオーディションを受けまくっていましたね。もうがむしゃらでした(笑)。印象に残っているのは、2001年の9/11の翌日に『Lion King』のオーディションがあって、一次審査はダンスで始まり、コールバックがあって4段階進み、最後の歌まで残ったんです。そのときは自分の持ち歌がなく、「ハッピーバースディ」を歌わされたのを覚えていますが、役を得ることはできませんでした。それもそのはずで、規則を重んじる大手企業のディズニーがワーキングビザのない外国人の私を雇うわけがないからです。今思うと、何も知らなかった自分がおかしいです。

また、ディズニーが映画『Tarzan』のミュージカル版を作ろうとしていて、まだプリプロダクションの段階でオーディションがありました。ダンスの振付けもまだ決まっていない状態のところ、いきなり即興でサルになれと言われてびっくり。サルのしぐさを思い出しながら、「ウォッホ、ウォッホ」とやりました(笑)。何が気に入られたのかわからないけど、友達と一緒に一次を通りました。次回呼ばれたときには、空飛ぶサルになれと。ステージ上でハーネスをつけて、空中移動するサルになりました。もうオープンしている舞台なら決してそんなことはないのですが、まだオープン前なので舞台装置がちゃんとしてなくてアザだらけになったのを覚えています。今でも友達と思い出しては大笑いする面白い経験でした。

----オーディションはどのような手順で行われるのですか?

1次審査では審査員が二人くらいしかいませんが、2次、3次と進んで行く間に審査員が増えていって、最終的にディレクターやプロデューサーなどの偉い人が審査することになります。そのオーディションに受からなくても、キャスティングディレクターの目にとまれば、「今度こういうオーディションがあるんだけど来ない?」と他のオーディションに誘われることもあります。そういうところからコネクションが広がっていくので、結果的にはよかったですね。実際に多くのオーディションに行ってみて、自分に何が必要なのか学べました。

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----ブロードウェイのデビュー作『Hot Feet』のダンサーの役はどうやってゲットしたのですか?

『Hot Feet』は新作で、音楽が私の大好きなアース・ウィンド&ファイヤーだったので、迷わずオーディションに行きました。ディレクター/コレオグラファーのモーリス・ハインズは、あのグレゴリー・ハインズのお兄さんなのですが、ノリノリの楽しい人で、ヒップホップやモダンダンスなどの振付けのオーディションの他に、一人ずつ即興で踊らせるんです。コールバックがあって、翌日に2次審査にいきました。1日がかりだったのですが、他のショーの仕事があって午前中しかいることができず、それをスタッフに告げたら、ダンスをしているときに、モーリスが近づいてきて「朝しかいられないんだって?」とボソボソ耳元で囁くんです。こっちは必死で踊っているので、最後の方に何を言ったのか聴き取れず、かといってきき返すのも失礼だと思ってわからないままでいました。その日の夕方、同じ会場にいた友達から電話があって、「あなたのすぐ後ろで踊ってた◯◯にきいたんだけど、モーリスに『You got a job(合格だよ)』って言われたんだって?」と訊かれてびっくりしました。あのボソボソは、そういうことだったのか!と。2日後に電話があって、正式に合格を告げられました。嬉しさ半分、とまどい半分でした。

2005年にワークショップがあり、翌年に本公演が始まりましたが、興行成績が悪くて残念ながら3か月弱で終わってしまいました。でもキャスト全員が楽しんでショーに取り組んでいたし、才能のある人たちと一緒に仕事ができ、よい経験になりました。NBCの朝の番組『Today"s Show』にアース・ウィンド&ファイヤーのメンバーと一緒に出演したんですよ! 朝5時にスタジオ入りで眠かったけど、楽しい思い出です。

----『South Pacific(南太平洋)』のナショナルツアーについて聞かせてください。

2007年にリンカーンセンター(ブロードウェイ)のプロダクションのオーディションを受けていいところまでいったのですが、最後の最後で受かることができませんでした。その頃は、舞台のユニオン(AEA: Actor"s Equity Association)のメンバーになっていたものの、グリーンカード(永住権)がまだありませんでした。ショックで1週間泣いて暮らしましたよ(笑)。

2年後、そのミュージカルがナショナルツアーに行くことになり、もう1度オーディションに呼ばれ、その頃にはアーティスト・グリーンカードも取れていて、役を得ることができました。南の島の娘リアットの役です。ファースト・ナショナルツアーなので、ディレクターやコレオグラファー、デザイナーなどのクリエイティブチームはオリジナルのプロダクションと同じです。トニー賞で同ミュージカルの監督賞を受賞したバートレット・シャーと一緒に仕事できたことは、これまでで一番貴重な経験になりましたね。2009年から11年まで1年半、アメリカ主要都市とカナダで公演しました。

----バートレット・シャーやコレオグラファーのクリストファー・ガッティーリとのお仕事はどんな感じでしたか?

バートは本当に素晴らしい演出家で、アクターの心や身体の隅々からいろいろ引き出してくれます。その分求められる事も多いですが...。あんなに作品に没頭できて、同じように作品の事を大切に思うアクターたちと一緒に舞台を共有できたのは、彼の影響力の他に考えられません。

クリスは、『Newsies』でトニー賞を昨年受賞しましたが、とても才能のある振付家です。彼の長年のアシスタントが私と『king and I』の全米ツアーで共演していた友人ということもあり、事前にいろいろ私の話を聞いていたらしく、初対面からとても気さくに接してくれました。ダンスの少ない役だったので、今後また一緒に仕事ができたらいいなと思います。

----役作りの上で苦労したことはありましたか?

話す言葉はフランス語。出番は少ないのですが、とても重要な役なのでとにかく大変でした。セリフが少ない分、感じていることがきちんと伝わるように、演じるというよりも、もう肉も骨もリアットになりきった感じです。フランス語も発音が難しいので、リハーサルのときフランス語のコーチに指導してもらいました。

----舞台裏の人間関係はどんな感じだったのですか?

普段は忘れがちですが、ディレクターやプロデューサーを始め、照明、音響、大道具等、舞台裏のクルーなしには、舞台をすることができません。観客席から見る舞台にはそのプロダクションに関わっている人々や労力の半分以下しか見えないですから。

----嫌いな人とかいませんでした?

もちろんいますよ(笑)。多くの人が関わっているので好きな人もいるし、中には苦手な人もいました。でも、シアターには舞台の始まる30分前までに行けばいいし、舞台終了後もすぐに帰れるので、苦ではなかったですね。

----TVドラマ『スマッシュ』は、ご覧になっていますか?

もちろんみてますよ! たくさんの友人がバックダンサーで出演しています。出演者が、ブロードウェイで実際に活躍しているが俳優たちっていうのがいいですね。昨年暮れに『Giant』というミュージカルをみに行きましたが、『スマッシュ』でデブラ・メッシング演じるジュリアの夫フランク役のブライアン・ダーシー・ジェームズが主演していました。それにゲイの作曲家役のクリスチャン・ボールもブロードウェイで活躍していますよね。ドラマは、特に振付けと音楽がいいと思います。ツッコミどころがないわけじゃないですが、カレンとアイヴィーの2人がマリリンの役をめぐって葛藤するところなど、共感できるところもたくさんあります。

----具体的にはどんなところですか?

オーディションは、必ずしもうまい人がキャストされるというわけではなくて、クリエティブチームやキャスティングディレクターがどんな人を求めているかによるので、自分のコントロールのきかない未知の世界だというところですね。自分がすごくうまくできたと思うオーディションには落ちて、いまいちだったと思うオーディションに受かったりすることもあります。

また、アイヴィーのように「私、なんでも知ってるのよ」的な態度の人はオーディションの会場に必ずいつもいますね。ショーに出たいという純粋な気持ちでオーディションに来ている人たちの中で、プロデューサーやディレクター、キャスティングディレクターなんかに、「ハァ~イ」ってハグしに行く人が必ずいます。タイミングとかおかまいなしに...。リスペクトを持ってやる人には好感が持てますが、アイヴィーみたいなタイプは「はい、出ました」みたいな感じです(笑)。

----役を得るためにディレクターと寝るなんてことは実際にあるのでしょうか?

まず聞いたことがないですね。実力があることが大前提で、コネやエージェントの力関係が働くことはあるとは思いますが。それに、ディレクターとかコレオグラファーは、ほとんどがゲイなので、男優の方がそういう経験があるかもしれませんね(笑)。

----今後の抱負をきかせてください。

引き続き、興味のあるミュージカルがあったらオーディションを受けつつ、自分でショーを作りたいですね。アイディアはあります。リハーサルも始まりました。まずは、アジア人のダンサーを集めてダンスのショーをやりたいです。そして日本のポップカルチャーについてのミュージカルも作ってみたいですね。ステレオタイプのアジア人、日本人のキャラクターを刷新するようなものをやりたいです。

(インタビュー/ほりうちあつこ)

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Sumie Maeda(前田純枝)さん略歴
広島市出身。青山学院大学英米文学科卒業。2000年にダンサーを目指して渡米。主な作品は2006年ニューヨークシティセンター・アンコールシリーズの『Kismet』にアバブ姫役で出演。同年『Hot Feet』でブロードウェイデビュー。2009年から11年までリンカーン・センター・プロダクション 『South Pacific (南太平洋)』のファースト・ナショナルツアーにリアット役で出演。テレビドラマ、コマーシャルでも活躍。幼少時には1991年世界バトン・トワリング選手権大会銅メダル獲得、1993年全日本バトン・トワリング選手権大会ダンストワール・グランドチャンピオンの経歴を持つ。

portrait photo:(c)Atsuko Horiuchi、 Leon Lee
『SMASH』(c)2012 Universal Studios. All Rights Reserved.