【第66回エミー賞を100倍楽しむために!】第65回エミー賞クリエイティブアート・視覚効果賞受賞クリエイターにインタビュー

8月26日(火)にAXNで生中継される第66回エミー賞授賞式。エミー賞はテレビ界のアカデミー賞とも称され、スターやプロデューサーや監督だけではなく、縁の下の力持ちとしてテレビドラマの製作を支える全ての人々に注目が集まり、評価される機会でもあります。そこで、海外ドラマNAVI編集部では、映像制作を支え、第一線で活躍するクリエイティブ・アーティストに突撃インタビュー! 昨年の第65回エミー賞クリエイティブアート・視覚効果賞を受賞(作品:『Banshee』)した Gevork Babityan(ゲヴォーク・バビチアン)さんにお話を伺いました。

Q1.クリエイティブアート・視覚効果とは、普段は実際にどんな作業をされているんでしょうか?

視覚効果(ビジュアルエフェクト/VFX)とは、あらゆるメディア(主にTV/映画業界)を対象に、撮影後編集段階(ポストプロダクション)の過程において、イメージ/映像を生み出し、処理する技術のことです。実写映像と共に使用されるCG(コンピュータグラフィックス)環境やCG要素を創っています。VFXは、よく特殊効果(スペシャルエフェクト/SFX)と間違われますが、SFXは現場での爆発やカーチェイス、実寸大モデルや部分モデル、着ぐるみなどを含んだ実践的な効果のことをいいます。VFXは、必ず物語を引き立たせ、命を吹き込む補完的な役目を持ち、決して注目されてはいけません。また、コンピュータが勝手にやってくれるとか、自動的に直してくれるんだろうと思っている人も多いようですが、コンピュータは大工にとってのハンマーと同じように、道具にすぎません。アーティスト自身が実際は全ての作業を行っています。

また、視覚効果には、コンポジット、アニメーション、テクスチャリング、ライティング、リギングなどの異なったカテゴリーが存在します。

コンポジット・アーティストの仕事は、ありとあらゆる素材の視覚要素を組み合わせ、全ての要素がイメージの一部であり、同じ場面で撮影されたと錯覚させる一つのイメージへとデジタル画像処理を駆使しながら「合成」することです。コンポジット(合成)作業には、全て、イメージのある部分を他の素材と置き換えたり、処理を施すといった工程が含まれます。

Q2.一番こだわっていること、気をつけていること、ポリシーなどはありますか?

VFXに限って言うなら、どのアーティストにとっても最も重要なことは「目に見えないイメージ」を創り出すことにあります。作り物と本物が視聴者にとって見わけが付かなければ、VFXアーティストとして合格です。つまり、視聴者が物語に没頭できるほど、その作品が継ぎ目なく完全に自然であったということです。VFXとCGは現在かなり使われるようになり、視聴者もより賢く、鋭く、知識も豊富になったため、期待値も高く、質の良し悪しもわかるようになりました。なので、それよりも上へ上へと常に目指し続けるのは困難です。

また、この仕事では多くの人間が関わりますので、他の人とうまく仕事ができるチームプレーヤーでなければなりません。たった2秒ほどのイメージを製作するにしても、膨大な人員を投入する場合があるので、チーム全体が協力し合い、コミュニケーションが取れていないといけません。

Q3.CG技術の、「便利だな」と思う点、「やはりアナログがいいな」と思う点などあれば聞かせてください。

科学技術とVFX技術が進歩・発達したことによって、まるで本物のように自然な映像を創り出すことが可能になりましたが、実写で撮影が可能で、そうすることによってストーリーが実現されるのであれば、その方がCGより良いです。けれど、ますます大きくなる今日の映画業界の規模とレベルでは、実写が現実的でなかったり、そもそも不可能だったりするので、そこでVFXの出番ってわけです。そんな状況下では、CGと実写の組み合わせが一番美しいと、個人的には思います。

Q4.なぜこの仕事を選んだんでしょうか?

『スター・ウォーズ』や『ターミネーター』、『インディー・ジョーンズ』といった映画を観て育ったので、こういった素晴らしい映画に出てくる魔法のように、忘れられないシーンを作りたいといつも思っていたんです。ショートフィルムを制作し始めた中学生の時、撮影後の編集段階(ポストプロダクション)の過程がとても好きだったので、できるだけ本を読んで調べて実験しながら、独学で覚えました。

視覚効果(VFX)は、技術的能力と芸術的才能のミックスです。私はイメージ(映像)を創り出すために必要なこの2つの相乗効果にいつも興味を持っていました。

Q5.どんなことで苦労されましたか?(しますか?)

限られた時間の中でやりきらなければならないことです。そう、十分に時間があるなんてことはありませんが、特にTV関係では納期までの時間が短いので...。その中で完成度の高いものを作るのはいつも大変です。
VFXというのは、とても複雑でかなりの時間と努力が必要です。労働時間は長く、テレビ関係だと納期も非常に短いので残業は避けられません。プライベートな時間を持てなかったりと、ストレスが溜まることもあります。

Q6.エミー賞の雰囲気はどのような感じでしたか?

エミー賞には2種類あります。クリエイティブアート・エミー賞とプライムタイム・エミー賞です。私たちはクリエイティブアート・エミー賞でした。

クリエイティブアート部門は昔からプライムタイムテレビ中継の1週前の週末に開催され、主要な技術的専門家たちや、テレビドラマ製作に絶対不可欠な、舞台裏の技術を中心に表彰されるのです。豪華なイベントで、レッドカーペット到着時には自分が重要人物になったようで恐れ多い気分です。それに、とても混んでいます。到着するとみんなが互いに挨拶し合い、あちらこちらで写真も撮られます。その後、中に進んで、授賞式のための客席へと案内されます。式はどの部門でも一流で、まるでスターになった気分になります。自分のカテゴリーの候補者たちが発表される時は、ドキドキする瞬間です。

Gevork Babityan(ゲヴォーク・バビチアン)さん、ありがとうございました!

Photo:エミー賞トロフィー (C)ATAS/NATAS
ゲヴォーク・バビチアンさんほか『Banshee』クリエイティヴ・スタッフのみなさん