米ソ冷戦下、スエズ危機ぼっ発に世界が揺れる1950年代、イギリスのBBCを舞台に、報道番組「THE HOUR」の製作に燃える若きジャーナリストたちの姿を描いたポリティカルサスペンスドラマ『The Hour』。主演のベン・ウィショーら若手実力俳優の巧みな演技と、サスペンスファンをうならせるストーリー展開で本国イギリスでも人気を集める本作が、5月13日(水)にKADOKAWAよりDVDリリースされます。
そして今回、DVDリリースを前に、イギリス出身で、学生時代はジャーナリストを志していたというハリー杉山さんと、イギリスのテレビドラマに精通する字幕翻訳者・柏木しょうこさんの対談インタビューがKADOKAWA本社で行われ、緻密な人物描写からファッションに至るまで、このドラマの魅力をたっぷりと語っていただきました。イギリスに造詣が深いお二人ならではの内容の濃いトークをご堪能ください!
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――5月に日本でDVD発売される、1950年代のBBC報道番組を舞台に若きジャーナリストたちの挑戦と活躍を描いた話題作『The Hour』について、ご覧になったご感想を教えて頂けますか?
ハリー:この作品には圧倒されました。元々僕の父はジャーナリストで、中学ぐらいから父を追って報道の道に進もうと思っていました。まさにBBCのリポーターになりたかったのです。その憧れた世界がふたを開けてみたら、こんなに報道規制やデンジェラスな恋愛が行われてるなんて。ドロドロですけど夢がありますよね(笑)。
そして登場人物たちのそれぞれの個性が面白い。ヘクター(ドミニク・ウェスト)のような彼も僕の学校にもいました! ルックス抜群、スポーツもこなすヘッドボーイ(生徒会長)。高校はなんとか切り抜けても、大学で遊びすぎて成績はサード。だけどお父さんや家族のコネもあり一流企業に問題無く入れて。ヘクターは番組のメインキャスターに!!! ジャーナリストとしては超一流、超インテリだけどモテないフレディ(ベン・ウィショー)のほうがスキルは確かなのに、人生こう言う事誰でもありますよね!! 二人は最初お互いを死ぬほど嫌いだけど、壮絶なドラマと陰謀に戦う為に力を合わせる過程も見所です!!
――イギリスではこういった作品は今までにありましたか?
ハリー:ポリティカルスリラーだと『裏切りのサーカス』です。アレック・ギネス主演のテレビドラマのほうですが、息が詰まる展開、膨らむ陰謀説を自分で推理しようとしても、考えられない展開に圧倒される点では近いと思いますね。
柏木:そうですね。2011年の製作でゲイリー・オールドマンが主演した映画『裏切りのサーカス』、非常に好きな作品のひとつです。ベネディクト・カンバーバッチも出演していて、すごく良い役でした。当時もう『SHERLOCK/シャーロック』には出ていましたが、この作品を観て、「彼は絶対くる」と、思っていました。
ハリー:そう。新旧あるんですよね。原作は一緒ですよね。僕は最近観たんですけど、母親がDVDを持ってきてくれたので。
柏木:えー!本当に? 観てみたい! そして原作も今度読んでみようと思います。
――さて、『The Hour』に話を戻しまして、先ほどキャラクターについて少し触れましたが、本作でフレディを演じるベン・ウィショーについて、魅力を教えて頂けますか。
ハリー:天才です。
柏木:ずっと前に映画『パフューム ある人殺しの物語』観たときに、「この人どうしようもないやつなのに、ほっとけない」という役をやっていて...。「もっと出て来てほしいなあ」と、待っていた俳優さんです。それで今回本作のフレディ役で会えて、すごく嬉しい。個人的にずっと待っていた! まさに天才肌の役者だと思います。
――ベン・ウィショー『007 スカイフォール』にQ役で出演していますよね。そのときは?
ハリー:あれは"オタクっぽさ"を出すことに徹した役で、彼の良さはまだまだ出ていなかったと思います。ジュディ・デンチ(M役)のほうに、そりゃ目が行っちゃいますし(笑)。
柏木:この作品で彼本来の演技力や魅力を存分に発揮できる役がきたという感じですね。不思議な魅力のある役者です。
――イギリスではジャーナリストは憧れられる職業なんですか?
ハリー:もちろんです。イギリスでは医者と同じ位リスペクトされている職業と言ってもおかしくないです。人々の声を代表する仕事で、BBCの記者ならなおさらトップクラスです。もしも高校、大学でBBCの方の講演などがあったら大変でしょう。「インターンシップしたいです!」とか、なんとかしてコネクションを作りたい、自分を売り込みたいという学生たちが山のように詰めかけてアピールするでしょう。僕もエピソード1を観終わった後、イギリスが恋しくなって、あの頃の自分が目指していた人生を思い出し、高校の友人、恩師に連絡してしまいました!(笑)
柏木:そしてこのドラマ、チームワークがすごくいいですよね。微妙な恋愛模様も織り交ざって。女性陣キャストもとても良いですよね。プロデューサーのベルはこの時代、男性と同等に頑張っていこうとする人。女が仕事してれば、嫌味を言われたり、色々あるじゃないですか、日本でも。 そういう悔しいことがいちいち気になってしまうのだけど、そこは、エレガントにシレっとかわして、「気丈に頑張るわ」というのが垣間見えて、若いのにかっこいいんですよ。そして戦地での報道スペシャリストだったリックスもこれまたいいですよね。大人の女の余裕があって。なんでこの人こんなにかっこいいのかしらって本気で思いますよ。
――この作品では登場する人物が全員魅力的に見えてくるのですが、そのあたり、ファッションや立ち居振る舞いなど、イギリス流の気遣いがあるのでしょうか。
ハリー:このドラマのファッションの決め手として、まず男性はハイウェスト。みんないいスーツを着ているんですよ。完璧に自分の体にビシッと合わせている。自分の体が一番かっこよくみえるような着方をしています。へクターの着こなしには注目! そしてフレディも、一見スーツが似合わなそうな感じですが、ラフにうまく着ています。イギリスだと、スーツを仕立てるのは当たり前です。特にBBCの人間だったら国を代表するメディアですので身だしなみを重要。とにかく細部までこだわって、ディテールをみなきゃいけない。ネクタイピンや髪型も徹底されています。前髪はみんな横分けでピシッとしています。50年代は厳格な時代だったと思いますね。60年代になるとヒッピーの文化が入ってきて少し開放的になりますが、その前は、やっぱりおでこ出してビシッと決めてないと! あと、煙草。みんなかっこいいですよね。この時代、みんな実にかっこよく吸う。手のアップで、ウィスキーグラスとか、煙草の持ち方、とにかく手から出てくる演技が凄い。ニューススタンドで新聞売っているおっちゃんだってカッコいいですからね!!
柏木:女性陣の衣装も素敵ですよね。この作品では女性の体の線を上品に見せてくれるものが多いです。アメリカの多くの海外ドラマだと、どうしても露出度が高くなってしまうんですよ。「そんなに露出度が高いのなんて、パーフェクトボディの人しか無理じゃないのよッ!」と思ってしまうようなものがとにかく多いんですよね。だけど、この作品がまさにそうであるように、イギリスのドラマは、各々の女性が、女性本来の柔らかい線を活かす衣装が多いんです。シャツとジャケットで上品に隠しているのに、色気があるという。大人の女性を演出してくれるすばらしいワザが、そこかしこに盛り込まれていますね。そして、座り方、立ち方、寄りかかり方、全ての所作が美しいんですよ。綺麗な線が出るワンピースを着て、胸元にブローチをしたりと小物使いも注目です。
ハリー:そうですね! 隠しているのに、魅惑の色気がある! ちなみなんですけど、あのガーターは女性にとってはスタンダードなものなんですか?
柏木:ベルがね、ガーターを直しているシーンがありましたね。ストッキングって、実は女にとって気持ち悪いものなんですよ。さがってよれてきたりすると特に。だから、ベルが緊張していて、いちいち細かいことでも神経過敏になっているような時に、ストッキングの緩みを直して、気も引き締め直すんです。
ハリー:そうだったのか~。普通に男として、ガーターって言葉を発する一瞬ドキッとしちゃうんですよね(笑)。
柏木:でも日常では今あまり使わないですよ、一般的には(笑)。それと、へクターの奥さま、マーニーも面白いキャラクターですね~。
ハリー:わかります! へクターの実家のパーティーのエピソードがすごく面白かった。イギリスの上流階級の女性は、すきあれば会話にちょいちょいフランス語入れてくるわけですよ。ちゃんと私は教育されてる事をアピールしたいのでしょう。ちゃんと喋れなくても(笑)。そんなマーニーは美人ですが、旦那には浮気されます。ただ、へクターの首のキスマークを見ても責めない。一見あまりインテリジェンスを感じられないお嬢様だと思いきや、将来の爆発を感じさせるシーンでした。
柏木:そうそう! あと、ベルのオフィスに来るシーン!「今までの浮気相手はただのバカ女だったけど、今回の相手は貴女で良かったわ」的なことをベルに向かって言うじゃないですか。マーニーって本当に根っからのプライドが高い女なんですよね。負けず嫌い(笑) シーズン2、どうなるのか、今後が本当に楽しみです。
ハリー:このドラマ、会話のクオリティが高いんですよ。当時本当にあった出来事を背景に描いているし、とにかく知性とリアリティを感じます。男女関係もそうだけど、大人になるにつれてわかりやすい美貌や色気よりは知性を求めていくような気がします。『The Hour』はセクシーなんですよね。
柏木:私はこういうドラマがもし自分の20代の頃にあったらすごく嬉しかったと思います。10代でもいい。こういうふうに、かっこよく仕事をしている大人に憧れますもん。英語の会話も一級だし、普通の日常会話の中で、政治問題も語られるから、このドラマを観ることによって、本当にこの時代の雰囲気を知ることができる。その臨場感がすごいんです。歴史の教科書で「スエズ危機」っていったら、1ページで説明終わりになっているけれど、「その背景には、こういった人々の動きがあったのか」、とか、「そのときBBCってこうだったのか」、とか、当時の空気を感じられる。そういう意味で本当に、この作品に憧れますね。
ハリー:僕もそう思います。「1950年代」「スエズ危機」「BBC」「ジャーナリズム」というキーワードを出していくと、ちょっとハードル高いのでは、と思われるかもしれないけど、それぞれのキャラクターが全員素敵だし、ドラマとして楽しく見られるから、もう本当にメガトン級のヒットです。
柏木:そう、単純にこの人たちのドラマが面白い。「何を目指していたのかな」とか、「けんかして、どんなふうに仲直りするのかな」とか。この作品にスーパーヒーローは登場しないんだけど、普通の生活をしているなかで、ヒーローになっているかもしれないということに気付くと思います。「働くことって楽しいんだぞ」っていう思いが沸いて来るから、多くの方に観てもらいたいですよね。
ハリー:そうですね。テレビの業界で働いている人、働きたいと思っている人にもぜひ観てもらいたい。そして、英語のクオリティが本当に高度です。政府高官でBBCを監視し、圧力をかけてくるマケインの英語は本当に凄いですよ。「こういう言い回しをするんだな」と。僕にとっても本当に刺激たっぷりですね。この作品を観て、イギリスに興味を持ってもらえたらうれしいと思います。イギリスというと、『007』も『ハリー・ポッター』もありますが、イギリスという国の心臓に近づくには、イギリスの報道の心臓であるBBCを、この『The Hour』をぜひ観てほしいです!
■セル情報 5月13日発売予定
・価格:¥9,800 + 税
・商品仕様
シーズン1:3枚組/アウターケース(三方背)※ケースは3枚組通常トールケース
・スペック
シーズン1:全6話 各約60分 全編:約345分
COLOR/片面1層/MPEG2/画像:16:9ビスタサイズ
・映像特典(Season1のみ)
キャスト&スタッフ・インタビュー(20分26秒)/撮影の舞台裏(10分9秒) ※計約31分
Photo:ハリー杉山×柏木しょうこ
『THE HOUR 裏切りのニュース』シーズン1
(c) Kudos Film & Television Limited.