『ER 緊急救命室』が1月、米ストリーミングサービスに登場した。1994年公開という古い作品だが、配信開始から瞬く間に話題になり、Twitterのフィードを埋め尽くす勢いで広まっている。20年以上の時を超えて視聴者を惹きつける同シリーズには、現在のテレビドラマが忘れてしまったシーン作りの技が詰まっていると分析するメディアもある。
◆好スタートでトップ5入り
エンタメサイトDeciderは、全15シリーズに渡る『ER』が1月14日に米Huluでリリースされて以来、瞬く間にストリーミング視聴数のトップ5入りを果たしたと伝えている。全331話という膨大なライブラリだけに、1カ月で観ようとすれば「週末も含めたフルタイムの仕事」になるだろうとしている。
実はこの話数こそ、配信を手がけるHuluの懸念事項であった。Vox誌(2月21日)の報道によると、コンテンツ調達担当副社長のリサ・ホーム氏は、全話の視聴を重荷に感じた視聴者から避けられるのではと懸念を募らせていた。しかし蓋を開けてみれば前述の通り大ヒットとなり、視聴ユーザー一人あたりの平均鑑賞時間は、1カ月でなんと19.4時間に達したという。同誌も「多くの人々が数話しか鑑賞しないことを考えれば、驚くべき数字だ」と舌を巻いた様子だ。
◆急展開がストリーミング時代にマッチ
『ER』は、古い作品が避けては通れない問題を抱えている。Vox誌は、ファッションもヘアスタイルも時代遅れであり、題材もHIVや医療プライバシーなど90年代に注目を集めたテーマだとしている。それにもかかわらず、同誌が「たまらないほど面白い」と讃えるほど愛されているのはなぜだろうか?
同誌がポイントに挙げるのは、息もつかせぬストーリー展開だ。疾走感のある物語が「あと1話だけ」と観客を惹きつけ、際限なく視聴できるストリーミングの時代にマッチしているのだという。
また、緊迫感を煽るのに欠かせないのが優れたカメラワークだ。綿密に計画された臨場感あふれるカメラワークが、生死を分ける病院の緊張感をうまく演出している。アクション映画顔負けのスリリングなシーンが、テレビにおけるアクションシーンのあり方を完全に変えたと同誌は評価する。
娯楽メディアIGN(2月15日)は、「毎週どっぷりと浸れる世界を提供してくれた」と放映当時を懐かしむ。映画のようだと讃えるVox誌に対して、IGNではあくまでTVドラマである点が『ER』の良さだと強調する。医療ドラマの新シリーズ『The Resident(原題)』を引き合いに出し、近年の作品は過剰に映画的な演出を求めるあまり、画面が小綺麗すぎてリアリティーに欠けると嘆く。『ER』では院内の補修やモップがけがさり気なく画面に映り込み、リアルな世界を感じさせていたとの分析だ。
◆不完全なキャラクターだからこその愛着
『ER』を語る上でもう一点欠かせないのが、真実味に溢れるキャラクターたちだ。Vox誌は、オリジナルのキャストらが視聴者を惹きつけて離さないのだと語る。ジョージ・クルーニーとジュリアナ・マルグリーズはこのシリーズでブレイクした。彼らだけでなくすべてのキャラクターに深みがあり、職場である病院全体に活気が感じられるのも他のシリーズにはない特徴だとしている。
医療ものとしては2005年から14シーズン続く『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』が有名だが、込み入ったラブストーリーにフォーカスしたその構成は、やや飽きられてきていると同誌は指摘する。プロとしての成長に重きを置いた『ER』がリバイバルを果たすには絶好のタイミングだったようだ。
また、高度なプロ意識とは裏腹に不完全さを抱える登場人物たちも、かえって物語に温かみを添えている。IGNでは不安定なキャラクターを描いた例として、看護士自身が自殺を試み、直後に救命室に駆け込むエピソードを紹介している。個々の人物は完璧ではないが、それでも最後には命を救うためにベストを尽くす人たちがいるのだと記事は力説する。「一人ひとりのキャラクターが放つ暖かさと、人間性が感じられる」という点が、まさに同誌の指摘通りシリーズの大きな特色となり、2018年の視聴者を惹きつけているようだ。(海外ドラマNAVI)
Photo:『ER緊急救命室』TM & (c) Warner Bros. Entertainment Inc.