バットマン以上の深み? ドラマ版『ウォッチメン』、DC原作の34年後の世界で...

アクション・アドベンチャー『ウォッチメン(原題:Watchmen)』は、今とは違う歴史をベースにした想像力をくすぐる新シリーズだ。「もしもロバート・レッドフォードが政権を取っていたら」「もしもベトナムが米国の51番目の州になっていたら」といった大胆な設定の下、マスク姿のヒーローたちが興味深いストーリーを紡いでゆく――。米HBOで10月中旬から放送中のシリーズで、日本でも2020年1月にスターチャンネルにて独占日本初放送が決定している。

冷戦が生んだもう一つのワールド

『ウォッチメン』はグラフィック・ノベルを原作としたシリーズになっている。原作の舞台は、アメリカとソ連の冷戦が極限まで悪化し、核戦争の火蓋がまさに切って落とされようとしている時代。さらにそれまで活動していたヒーローの多くは、過去の行きすぎた暴力行為が危険視され、違法な存在となってしまっている。禁じられてもなお活動を続けるロールシャッハは、ヒーローを闇に葬ろうとする一連の陰謀があることに気づき、独自に調査を開始。事件の裏には、オジマンディアスの通り名で呼ばれる悪役・エイドリアンの存在があった。

ドラマ版の設定は、原作から34年を経た時代。白人至上主義に傾倒する集団が、かつて活躍したロールシャッハの威光を悪用し、弱者への暴力を正当化している。被害者たちを護ろうとした警官たちも彼らの標的となり、自宅を襲撃されるなどの末、多くは部隊を去った。アバー刑事(レジーナ・キング)とクロフォード署長(ドン・ジョンソン)は、事件後も現職に留まった数少ない有志だ。私生活と家族が巻き添えになることを避けるためマスクで素顔を隠し、人種主義者たちへの反撃を試みる。

まるで現実のような異世界

大胆かつ詳細に作り込まれた作品の世界観は、視聴者を虜にすることだろう。俳優のロバート・レッドフォードが米国大統領を30年ほど務めている、という設定を米New York Times紙は紹介する。俳優から大統領への転身は突飛にも感じられるが、レーガン大統領は実際にこのパターンで誕生している。あながち虚構の物語とも決めつけられない絶妙な線を突き、あり得たかもしれないもうひとつの歴史をドラマは語る。

米Washington Post紙も、ベトナムが米国51番目の州となるなど、パラレルワールドとも言うべきドラマ内の世界観を紹介。第1話冒頭では、1921年に現実世界でも起きたタルサ人種暴動事件が描かれる。アメリカ史上最悪の人種間の衝突事件として知られるこの一件が歴史上のターニングポイントとなり、そこから架空世界の時間軸が派生してゆく構造だ。事件以降、作品世界の警官たちは護身のため素顔をマスクで隠しながら正義を追求することに。こうした暗い変化だけでなく、空中を駆けるパトカーや火星との通信装置なども登場し、現実世界とSFが入り混じったかのような巧妙な独自のワールドをたっぷりと鑑賞することができる。

ヒーローと悪の境界を問う

本作『ウォッチメン』には幾人ものヒーローが登場するが、作中の市民から必ずしも慕われている訳ではない。正義の執行者である警察組織は、その荒々しいやり口が災いし、純粋な善の集団と受け止められていない面がある。覆面で素顔を覆い隠した姿はまさにその象徴であり、どこか怪しげな空気さえ醸し出す。ヒーローのようでもあり半ば違法な自警団のようでもあり、善か悪かに視聴者は戸惑うことだろう。DCコミックスが生んだマスクの自警団と言えばバットマンが有名だが、その例を軽く超越するほどにヒーローと違法行為の線引きを曖昧にしている、とWashington Post紙は述べ、作中の複雑な倫理観を評価している。

どこか憂いが漂う本作についてNew York Times紙は、息を呑むような緊迫感漂う見応えのあるドラマだと絶賛している。悲しみと驚きに満ちたレトロフューチャーの世界を堪能できる、一流のエンターテイメント作品だとの評価だ。

マスク姿のヒーローたちがディストピアで活躍するドラマ版『ウォッチメン』は、BS10 スターチャンネルにて2020年1月独占日本初放送。(海外ドラマNAVI)

Photo:レジーナ・キング (C)Featureflash Photo Agency / Shutterstock.com