【お先見】日本人におなじみのあれも海外ドラマデビュー!?今までにない緊張感あふれる新卒社会人ヒューマンドラマ『Industry』

「お金に興味がありますか?」そう聞かれて、全然ないと答える人は稀だろう。どんな国の人でも共通の関心事と言えるお金に囲まれた世界を題材にしたドラマや映画は、昔から人々の心を惹きつけている。映画『ウォール街』『マネー・ショート 華麗なる大逆転』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』、最近では金融サスペンスドラマ『ビリオンズ』など金融業界の作品は非常に人気がある。だが、その多くはアメリカを舞台にしており、さらにキャラクターがある程度の年齢やキャリアを積んだ設定で物語が展開している。

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今回ご紹介するドラマ『Industry』は、イギリスのロンドンを舞台に、金融業界未経験のいわゆる新卒社員が、エリート投資家として生き残るため互いに競い合い、ベテラン上司や先輩、超リッチなクライアントに揉まれながら成長していくヒューマンドラマだ。『ゲーム・オブ・スローンズ』『ウォッチメン』『ユーフォリア/EUPHORIA』『キング・オブ・メディア』など数多くのヒット作を生み出している米HBOが英BBCとともに製作しており、面白くないわけがないお墨付きの作品。HBOの人気ドラマ『GIRLS/ガールズ』を手掛けたレナ・ダナムが、製作総指揮のほか第1話の監督として参加している。

そんな本作の舞台はロンドンのトップ投資会社ピアポイント社。エリート大学を卒業し、何億という大金を動かす金融業界での成功を夢見る20代の男女が、半年の試用期間後に本採用になるのは全体の半分だと告げられる。「隣にいる同期の顔をよく見ろ。自分の方ができる奴だと思うか?」そう告げられた新卒社員らは、互いに内なる闘士を燃やす。世界中で通貨価値がめまぐるしく変わっていく中、新人の初日が始まる。

アメリカ出身のアフリカ系女性ハーパーは、賢く小柄でキュートな容貌だが、学歴や家庭環境に秘密を抱えている。お嬢様育ちの美女ヤスミンは、家族への反発ゆえにこの業界で自分の力を証明しようとする。英国トップの全寮制男子校からオックスフォード大学に進んだ生粋のエリート、ガスはすでに試用期間の先のキャリアまで見据えている。そんなガスの親友でルームメイトのロバートは、労働階級出身という過去をスーツという鎧で隠し、人は生まれでなく能力の高い者こそが社会を統治できると信じている。昔から投資会社勤務の夢を抱いていたハリは、生き残るためには会社での徹夜業務も厭わない超真面目人間。各部署に配属された新人5人は、常にピリピリしている上司と先輩の洗礼を浴びながら日々をこなし、友人なのか蹴落とすべき敵なのか分からない同期たちとの距離を少しずつ縮めていく。そんな緊迫した日々の中で、会社を揺るがすある衝撃的な事件が発生する...という物語。

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それでは、この作品の魅力について、いくつかご紹介しよう。

■2008年のリーマンショックを経験したクリエイターが描く現実

クリエイターのミッキー・ダウンとコンラッド・ケイは、2008年当時に金融業界に身を置いており、投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したことで起こった世界金融危機を実際に経験している。投資で成功すれば超リッチな若者となれるが、あの出来事のせいで「投資家=悪者」と後ろ指をさされ、お前たちのせいで世界が崩壊したと罵られる。そんな時代をもとに作られた本作には、単純に「投資会社で成功したい」と夢を持つ若者たちの姿がリアルに描かれている。タイトルの『Industry』とは訳すと「業界」で、金融を意味しているわけではない。医療の世界に進むなら人として尊敬されるのか、弁護士なら世の中の役に立つのか、アーティストなら人々に喜びをもたらすのか。ならば金融業界で成功し、報酬としての富を得ることは悪なのか? そんなある種特殊な目で見られる金融という「業界」にいる人間やその業界文化が、クリエイターの実体験をベースに綴られており、現実味がある。

■日本人が大好きな"あれ"が海外進出!日本絡みジョークもチェック

常に緊迫している会社だが、なんと日本人の大好きな食べ物が出てくるシーンがある。それはなんと海苔だ。新人ハーパーの先輩であるダリアがデスクで、「はい。スナック、海苔よ」とハーパーに差し出し、ハーパーも「ああ」と普通に受け取ってバリバリ食べるというところだ。実際、欧米では昨今、海苔がスーパーのお菓子売り場に出回っており、ヘルシースナックとして人気を高めている。そんな海苔が堂々と海外ドラマに登場。もしかすると、こんなシーンは欧米ドラマでは初めてではないのかと、時代の流れを感じずにはいられない。ダリアもハーパーもアジア系ではないので、余計に新鮮に映る。実はこの海苔、ダリアを演じるフレイア・メイヴァーが実際に撮影現場で食べていたもの。クリエイターによると、本当は他のお菓子が小道具として用意されていたそうだが、フレイアのお菓子を見て「時代は海苔だ!」ということで海苔に変更されたという。他にも、日本のあるものや文化がキャラクターの台詞で引用されているシーンがあり、そこがまた日本のことを分かる人には、非常に面白いジョークになっている。プロデューサーも、「本作はヒューマンドラマだが、脚本がとても"今風"で面白い。10%の人のツボにはまり、90%の人は気がつかない、でも次のシーンではまた別の10%の人だけにウケる、そんなちょっとしたユーモアや内輪ジョークがあらゆるところに散りばめられていて、傑作だ」と述べている。若いクリエイターだからこそ生み出せる"今だからウケる"台詞や演出には、ぜひ注目してもらいたい。

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■社会人になることはアクションやサスペンスドラマよりもドキドキ

本作は金融業界を舞台にしているが、ヒューマンドラマだ。しかもティーンではないが、ある程度キャリアがある大人でもない、初めて社会人として独り立ちする人間の物語だ。賢いが実社会の経験値ゼロの若者が、社会での立ち振る舞い、上司や先輩、クライアントとの接し方に右往左往する。だが、恋愛やパーティなど馬鹿騒ぎも捨てられないし、携帯やソーシャルメディアも手放せない。そんな微妙で危うい年頃のキャラクターたちによる行動の一つひとつにこちらが緊張してしまう。また、1話目で衝撃の事件が起きるが、その後も一秒一秒の判断で、巨額の富を得るか恐ろしい損失を生み出すか分からない緊迫したシーンが連続して訪れる。「どうしよう!」「いやそれはやめた方がいい!」アクションでもサスペンスでもないのに、視聴者をそんな気持ちにさせるスリル満点の展開が続く。

新卒社員が金融業界で競争を繰り広げ、日本人にもハマるツボが出てくるポップカルチャー満載のヒューマンドラマ『Industry』。日本の皆さんも楽しめる日が来ることを期待したい。

(文/Erina Austen)

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