大人気犯罪捜査ドラマ『CSI:科学捜査班』のスピンオフで、骨太な人間ドラマとニューヨークという都市の多層的な魅力を描いてきた『CSI:ニューヨーク』。なかでも、シーズン5第22話「父への祈り」は、シリーズ全体を通して最も感情的な衝撃を与えたエピソードとして多くのファンの記憶に残っている。
この回に登場したゲストキャラクターは、『CSI』フランチャイズの中でも特に記憶に残る存在だ。米Colliderが紹介している。
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『CSI:ニューヨーク』ゲイリー・シニーズ、亡き息子から学んだことを明かす
人気犯罪捜査ドラマ『CSI:ニューヨーク』に主演し、『フォレ …
わずかな出演シーンにもかかわらず…
このエピソードでは、CSIチームの主任マック・テイラー(ゲイリー・シニーズ)が殺人事件の捜査中に、時計職人でホロコーストの生存者を名乗るアブラハム・クラインという老人に辿り着く。演じるのは、テレビ界のレジェンド、エドワード・アズナー。彼は本作でプライムタイム・エミー賞ゲスト俳優賞にノミネートされた。
当初、クラインは亡き妻の形見を売りに出そうとする悲しげな老人に見えたが、やがて彼の過去には重大な秘密が隠されていることが判明する。実は彼こそ、ホロコースト時代にユダヤ人家族を裏切り、アウシュビッツ送りと引き換えに財宝を得た元ナチスの一員、クラウス・ブラウンだったのだ。
エドワードの出番はわずか数シーン。しかしその間に、彼はまるで別人のような人格を行き来する。
最初は物腰柔らかく、身に覚えのない疑いに困惑する善良な老人。次第に追い詰められてくると、攻撃的で怒りを露わにし、「嘘を嘘で塗り固めて生きてきた男」へと変化。そして最後に、マックが決定的証拠を突きつけると、声を低くし表情を硬直させ、ドイツ語でこう言い放つ——「全員、殺すべきだった」
この台詞とともに、彼の過去と人間性が一気に崩壊していく。このシーンは、犯罪ドラマの域を超えた凄まじい迫力に満ちていた。
自身もユダヤ人であるエドワードは、ホロコーストの生存者を装いながら、実は加害者だったという役どころについて、「この役に必要とされる感情の複雑さと道徳的責任は計り知れない。できる限り激しく演じた」と語っている。
唯一のエミー賞ノミネート
『CSI:ニューヨーク』は9シーズンにわたって放送されたが、演技部門でエミー賞にノミネートされたのはこのエピソードのみ。地上波の刑事ドラマが賞レースで脚光を浴びることが珍しかった当時、エドワードの演技はその常識を覆した。
エドワードは『ザ・メアリー・タイラー・ムーア・ショー』や『事件記者ルー・グラント』で計7度のプライムタイム・エミー賞に輝いた伝説的俳優。60年以上にわたるキャリアのなかで、『カールじいさんの空飛ぶ家』や『エルフ』といったアニメ作品で声優としても活躍し、『グッド・ワイフ』や『HAWAII FIVE-0』などの話題作にも出演。晩年まで第一線で活躍し続けた。
2021年8月、彼は家族に見守られながらこの世を去った。だが『CSI:ニューヨーク』でのあの鬼気迫る演技は、今もなお、見る者の心に鮮烈な印象を残し続けている。
『CSI:ニューヨーク』全9シーズンは、Huluにて配信中。(海外ドラマNAVI)