孤独だが心優しい男が、歪んだ社会の狭間で“悪のカリスマ”へと変貌を遂げていくドラマを、アカデミー賞常連の実力派スタッフ・キャストで描いた2019年の映画『ジョーカー』。アカデミー賞で作品賞など最多11部門にノミネートされ主演男優賞を含む2冠を獲得、日本でも動員4週連続ナンバー1の大ヒットとなり、世界興行収入は1500億円と、R指定映画史上最高の記録(当時)を樹立した。その完結編となる『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が、10月11日(金)全国ロードショー(日本語吹替版・字幕版同時上映<Dolby Cinema/ScreenX/IMAX>)。ジョーカーになった男のその後とは? ついに世紀のショーが始まる。その笑いはもう、誰にも止められない――。
その最新作は、三大映画祭の一つである「第81回ベネチア国際映画祭」コンペティション部門にてワールドプレミアが行われ、世界初で披露された。その映画祭に参加したトッド・フィリップス監督と主演のホアキン・フェニックスを直撃! 1作目からの変化や成長、新たなキャストのレディー・ガガなどについて語ってもらったので、その模様を2回に分けてお届けしよう。
1作目を終えた時から「もっとやりたいという気持ちがあった」
――あなたは本作の監督だけでなく脚本も担当されていますが、この脚本が出来上がった時の感触はいかがでしたか?
「興味深い質問だね。僕の場合、脚本を常に書き換えていくタイプなので、脚本の時点で“これで完成だ!”という風に思ったことはないんだ。そういう感情を抱くのは、編集室に入ってからだね。ファイナルカットが作られるまで映画が完成することはない…というのはこの世界なら誰でも言うことだけど」
――前作があれだけ大反響を呼んだ中、どのような意識でこの2作目に臨んだのでしょう?
「普段はなかなか感じないくらいのプレッシャーには襲われた。もちろん、決して楽しいものではないよ。1作目があれほど大きな成功を収めるとは我々の誰も考えていなかった。前作は注目されていなかった分、ひっそりと作ることができたけれど、2作目はみんなの期待を背負うことになるので、いろんな人がこの作品がどうなるのか知りたがる中で作らなければならないのは戦々恐々という感じだったよ」
――もともと2作目が誕生したきっかけは、1作目の撮影が終わる頃にホアキンが主人公アーサー・フレックの夢を見たことだったそうですね。再度映画を作ることにした決め手は何だったのでしょう?
「ホアキンとまた一緒に仕事ができること、そしてアーサーというキャラクターをより掘り下げていけることがモチベーションになった。普通、映画を作り終えた時は疲れ果てているんだけど、『ジョーカー』を撮り終えた時はあまりにもホアキンとの仕事が楽しかったし、アーサーというキャラクターが面白かったので、もっともっとやってみたいという気持ちがあったんだ」
――劇中でのアーサーは再現ドラマによって世間で人気者になったという設定ですが、その記述を入れたのは1作目に対する世間の反響を受けたからなのでしょうか?
「いや、再現ドラマのくだりを入れたのは、エンターテインメントが腐敗していることを示したかったからだ。日本ではどうか分からないが、少なくともアメリカでは、刑事裁判がテレビで生中継されてエンターテインメントとして扱われたりする。殺人事件ですらエンタメになるということを示唆しているんだ」
――ということは、冒頭のアニメーションもその意図で入れたのでしょうか?
「そうとも言えるね。凄惨な事件や凶悪犯だってエンタメになってしまうことを示しているんだ」
――1作目から2作目までの間に、コロナ渦をはじめ、世界が大きく変化したことは反映されていますか?
「影響していないとは言えないね。ティーザー映像でも『今の世界に必要なのは愛』だと言及しているから。1作目で“世界は狂ったようだけど、これは僕の勘違いなのか?”と問いかけたら、その後にパンデミックが起きて実際に世界はおかしくなった。ほかのフィルムメイカーたちと同じように、僕もどんな映画を作る際にも、世界で起きていることの影響は受けざるを得ない」
――今回再び組んだホアキンについてどう思われますか?
「彼は現在活動している同世代の俳優の中でも最高の俳優だと思う。彼ほど、二番煎じ的なことをやろうとせず、いろいろ試行錯誤し、役柄を探求していろいろ話し合いたがるような役者はいない。彼との仕事は素晴らしくて、だからこそ続編を作りたかったわけなんだ。ホアキンと一緒に組めるかもしれないと分かった時、やらないわけにはいかないと思ったよ」
――あなたは『アリー/スター誕生』の製作総指揮も務めていましたが、今回監督としてレディーガガとして仕事をしてみていかがでしたか? 彼女は撮影現場では役柄になりきっていて、一度もレディー・ガガではなかったというスタッフの証言もありますが、歌っている時でも彼女はスーパースターとは違う存在だったのでしょうか?
「彼女は素晴らしい役者だしシンガーとしても文句なしだ。そんな彼女に関して最も感心したことは、リーというキャラクターの心の脆弱性を見事に表現してくれたこと。ビッグスターであるにもかかわらずスレスレのところで見事に表現してくれたので、本人は本当は心がデリケートなんじゃないかと思ったくらいだよ」
――音楽やアニメなど、1作目から大きく演出が異なっていますが、見せ方で意識したことは?
「ストーリーがどこへ向かうかが肝心なんだが、ホアキンと1作目の時から話していたのは、ジョーカーの中に音楽が流れているということだった。それが1作目ではダンスという形で表に現れたわけだけど、2作目ではそれが花咲いたという感じだ。心の中に音楽が流れている人が愛に巡り合えると、こういう風に花開くんだということを見せているつもりだよ」
――花開いて歌に変化したのは、アーサーが人として成長した、自分の意見を言えるようになったということなのでしょうか?
「どうだろうね。このことについて具体的に話したことはないんだ。ただ、もともとアーサーはそういうものを内包していたが、そんな彼に唯一欠けていたのは愛であったり愛への希望だった。だから、成長したというよりも、状況が変わって、自分のことを理解してくれる人に出会えたと思ったことで、そこから音楽がやってきているという発想だね」
――劇中で様々な曲が使われる中、特に「Close To You」が印象的でしたが、監督にとって重要だった楽曲を教えてください。
「『Close To You』も良かったけど、僕が一つ選ぶなら『For Once In My Life』だね。アーサーが歌うと、すごく生々しくて必死で何かを切望している感じが出ているから。あの曲はフランク・シナトラなんかも歌っているけれど、恵まれた存在のシナトラが歌ってもその言葉に信憑性はない。でも、アーサーが歌うとすごくイノセンスな印象を受けるし、彼が本気でそう言っていることが伝わってくるんだ」
――この作品を見た時、日本の北野武/ビートたけしを連想しました。というのも、彼は監督として暴力描写のある映画を作るし、コメディアンで歌もタップダンスもうまいからです。彼のことはご存知ですか?
「彼のことは知っているよ。意識したわけではないけど、たしかに類似点はありそうだね。彼の新作映画を楽しみにしているよ」
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は10月11日(金)全国ロードショー。また、それに先駆けて前作『ジョーカー』が9月13日(金)よりIMAX及びDolby Cinemaで期間限定緊急公開となる。
(海外ドラマNAVI)
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