孤独だが心優しい男が、歪んだ社会の狭間で“悪のカリスマ”へと変貌を遂げていくドラマを、アカデミー賞常連の実力派スタッフ・キャストで描いた2019年の映画『ジョーカー』。アカデミー賞で作品賞など最多11部門にノミネートされ主演男優賞を含む2冠を獲得、日本でも動員4週連続ナンバー1の大ヒットとなり、世界興行収入は1500億円と、R指定映画史上最高の記録(当時)を樹立した。その完結編となる『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が、10月11日(金)全国ロードショー(日本語吹替版・字幕版同時上映<Dolby Cinema/ScreenX/IMAX>)。ジョーカーになった男のその後とは? ついに世紀のショーが始まる。その笑いはもう、誰にも止められない――。
その最新作は、三大映画祭の一つである「第81回ベネチア国際映画祭」コンペティション部門にてワールドプレミアが行われ、世界初で披露された。その映画祭に参加したトッド・フィリップス監督と主演のホアキン・フェニックスを直撃! 1作目からの変化や成長、新たなキャストのレディー・ガガなどについて語ってもらったので、その模様を2回に分けてお届けしよう。
レディー・ガガの提案に最初は反対したけど…
――この2作目ではダンスに加えて歌も披露されていますが、それに向けてどんな準備をされましたか?
「歌を通してキャラクターを再発見していった感じだよ。歌に関しては、フランク・シナトラやサミー・デイヴィス・Jrが歌ったバージョンをまず参考にした。その後、ボーカルコーチのもとで取り組んだよ。何年も前に(歌手のジョニー・キャッシュを演じた)『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でも組んだロジャー・ラヴとね。そうやって歌うための筋肉を作り上げていったんだ。ただ、それとは別に、僕が演じるアーサーならどう歌うかという独自のやり方も見つけ出さなければならなかった。そこで、歌いながら動くこともし始めた。歌のキーを合わせながら、どうやれば自分にとって心地良いかを探っていった。なぜなら、アーサーはとても大切なことを歌を通して訴えかけようとしているから、ちゃんと彼が声を振り絞れる状態を作りたかったんだ。そうやって、本当にキャラクターの身に起きていることなんだという現実感を高めていった」
「そして、これはステファニー(レディー・ガガのこと)のおかげなんだけど、ライブで録音することになった。最初は反対したよ。“絶対に無理、酷い出来になるに違いない”ってね。でも、彼女が正しかった。結局、普段とはかなり異なる方法で、ピアニストにも別室にいてもらい、お互いに相手の歌声とピアノの音は聞こえるけれども姿は見えない形で、ライブで収録したんだ。ピアニストと事前に打ち合わせしなかったにもかかわらず、僕はテイクごとに歌のテンポや強さを変えた。歌のラストの部分で力強く歌い上げることもあれば、別のテイクではすごく柔らかく締めくくったりしたよ。僕もピアニストも相手が次はどうするのか分からないことで、独特のエネルギーが生まれた。それこそがあそこではとても重要だったと思うよ。大きな発見だった。ステファニーも、うまく歌うのではなくキャラクターが壊れた感じでうまく歌ってくれたよ」
「答えがすごく長くなっているのは分かっているけど、ダンスについても軽く説明しておくね。1作目でも一緒に仕事をしたマイケル・アーノルドという振付師と再び取り組んだ。そして脚本を読んだらタップダンスの場面があったから、それにも取り組むことになった。タップダンスの経験がある人がいるかどうか分からないけど、あれってすごく難しいんだ。少なくとも僕にとってはそうだった。でも、新しいダンスを学べたのはとてもいい経験だったし、最終的には楽しめたよ」
――あなたにとって2度同じ役を演じたのはこれが初めてですね。アーサーを取り巻く環境や状況、作品のテンションも1作目とは異なる中、およそ5年ぶりにこのキャラクターを演じるにあたって、前作からどんな点を変えましたか?
「変えた点は、自己表現の新しい形、歌うことを見つけたというところだね。音楽は彼にとって大事なものであり、それは1作目のラストでも描かれている。今回は愛が成就するかもしれないという希望が芽生えたことで彼は目覚め、自己表現の形が変わる。1作目での彼は恋愛をしようとしてもその経験がなかったことからアプローチが間違っていた。相手に対する憧ればかりが先行してしまった。2作目では出会った女性と本当に恋に落ち、彼女の存在のおかげで自分の声を見つけることができたんだ」
――そもそも前作があれだけ大きな反響を呼んだことを、どのように見ていましたか?
「少なくとも僕の場合、物事に期待するタイプではないんだ。マーケティングのこととかもよく分からないし。僕が気にしているのはプロセスだ。自分でコントロールできるのは撮影がどうなるかということだけだから。ただ、多くの人にあの作品が響いたことには驚かされた。キャラクターやストーリーが影響を与え、受け入れられたのは意義深いことだよ。興味深い経験だったね」
――アーサーはたびたび独特の笑い方を披露しますが、その笑い方について心がけたことはありますか?
「1作目の笑いはその大半が脚本には描かれていなくて、現場で瞬間的に生まれたものなんだ。2作目でも、脚本で笑いが書かれていた箇所は、あまり覚えていないけど多くはなかった。そんな瞬間的に生まれた笑いの一つは、3週目に屋外で撮影していた時。アーカム矯正施設の中庭でロサンゼルスにしては寒い日に、機械を使って雨を降らしていた。その日に撮影すべきものはもう撮り終えていたんだけど、1時間くらい時間が余っているから外で雨の中、歌いながら時間を過ごしていたんだ。その時に浴びていた雨水があまりにも冷たかったから僕が思わず笑ったら、そのシーンを使われたんだよ」
「笑いというものはとても複雑で、痛みだったり喜びだったりと、彼がその時に感じている感情をピンポイントで示しているんだ。反逆的な気持ちが込められていることもある。だからこそ人々に深い印象を残すのかもしれない」
――トッド・フィリップス監督に話を聞いた時、凶悪な事件がエンタメ化してしまうことを描きたかったという話が出ました。アーサーにジョーカーであることを求めるリーも、そんな風潮に影響された一人と言えるのでしょうか?
「結局、リーが彼に惹かれているのは、彼が暴力を引き起こす、カオスの創造主だと思っているからなんだ。アーサーは愛し合いたいだけなんだけど、その彼の願望が露わになると彼女は冷めてしまう。カオスの創造主であることが彼の魅力という点がこの物語を悲劇にしているんだよ」
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は10月11日(金)全国ロードショー。また、それに先駆けて前作『ジョーカー』が9月13日(金)よりIMAX及びDolby Cinemaで期間限定緊急公開となる。
(海外ドラマNAVI)
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