Netflixの他社作品配信は怖いトレンド？敏腕クリエイターが警告

かつてはオリジナル作品の製作と配信に力を入れていたものの、ここ最近は他社作品の配信を強化しているNetflix。この動きについて、米HBOのドラマ『GIRLS／ガールズ』やNetflixのドラマ『LOVE　ラブ』に関わり、『俺たち』シリーズをはじめとしたコメディ映画も数多く手掛けているジャド・アパトーが「恐ろしいこと」と話している。米Deadlineが伝えた。

Netflix、『SUITS／スーツ』効果を評価し昔のドラマ獲得に力を入れる

米USAにて2011年より9シーズンにわたって放送された人気リーガルドラマ『SUITS／スーツ』。現在は、米Netflixで視聴可能だが、同プラットフォームで配信がスタートするや否や、驚異的な視聴記録を達成した。この大ヒットを受けて、Netflix側は『SUITS』のような既に放送が終わった他局のド...

手堅く手頃に、ではなく「挑戦」が必要

もともとは米USA Network作品である『SUITS／スーツ』がアメリカのNetflixで2023年6月より配信されるや否や大ヒットしたことを受けて、今年1月にはWarner Bros. Discoveryと契約を結び、新たにHBOの人気ドラマ『SEX AND THE CITY』の配信権も獲得したNetflix。アパトーはこうした動きが数年後の業界に与える影響を見据えて、警鐘を鳴らしている。

「僕自身、二つの気持ちがある。一つは、視聴者の一人として『デッドウッド』や『NYPD BLUE』などのデヴィッド・ミルチ作品を見返したいという思い。テレビの心地いいコンテンツをなぜ人々が好むのかよく分かる」と、米Vultureの取材で話したアパトー。「一方で、テレビのクリエイターとしては恐ろしいことだ。なぜなら、あらゆる配信局が“ちょっと待てよ。新しい番組のために2億ドルも費やす必要はない。（1970年代にヒットした米CBSのミステリードラマの）『名探偵ジョーンズ』を持ってくればいいじゃないか”と言い始めているから。彼らが実際にそう動けば、新作はほとんどなくなる」

アパトーはさらに「彼らは気が付いたんだ。待てよ、NetflixはHBOから番組を買うことができるって。新作を作るよりも安上がりだろう。そしていずれNetflixは今度は自社の番組をHBOに売ることになって、我々の残りの人生ではHBOの『ballers／ボーラーズ』全エピソードが流れ続けることになるんだ」と続けた。

脚本や監督も手掛けるアパトーは業界の今後の見通しも明かしており、「巨大企業とテクノロジー業界の人々が創造性を引き継いでいる」とコメント。「彼らが全員そうというわけではないけれど、人がどこに注目するかだけを気にする人もいる。こうした企業のオーナーが作品作りのクオリティを気にかけているかは分からない。だが、おそらく気にしていないからこそ、彼らは作品のことを“コンテンツ”と呼び始めたんだろう」

そんなアパトーは、スタジオは恐れずに大きなリスクを冒していかなければいけないと強調。“原爆の父”と言われた男の伝記映画『オッペンハイマー』の製作を決定したユニバーサル・ピクチャーズの会長ドナ・ラングレイを例に挙げ、「日常生活で原子爆弾の開発者について話をすることがあるかい？　そういうことはないけれど、リスクを冒さなければならない。そうすることで“人々は挑戦を望んでいる”と気が付くんだ。みんな、スマートな映画を求めている。昔ながらの映画体験を求めている。そして、それと同じくらいのコメディも必要なんだ」と主張した。難しい題材で3時間のR指定作品と、ヒット作の法則から大きく外れていた『オッペンハイマー』だが、全世界での興行成績は10億ドル近くに上り、先日発表されたアカデミー賞では作品賞を含む7部門に輝いている。

Netflixは、前述したように12週間連続で視聴時間1位を獲得した『SUITS』の成功を受けて、「ライセンシングは当社の番組戦略において常に重要なものです。業界の競争環境が進化するにつれ、当社のオリジナル番組を補完するために、より多くのヒットタイトルのライセンスを取得する機会が増えるかもしれません」との声明を発表。その宣言通り、4月からは『SEX AND THE CITY』の配信もスタートする見込みだ。

業界に与えた衝撃は大きいようで、先週にはイギリスのBBCも『SUITS』の放映権を取得するなど、このトレンドが世界的に広がりを見せている。今後の将来を左右する転換期に差し掛かっている今、視聴者が何を見るのか、そのデータが業界と私たちの将来を握っていると言えそうだ。（海外ドラマNAVI）