莫大な予算をかけて製作されるドラマシリーズは、失敗が許されない厳しい世界。放送局は各プロジェクトのパイロット版を作り、作品のトーンや主要キャラクター、包括的なストーリーを見て、正式に“フルシリーズ”として製作するか否かの判断をするのだ。
今回は、フルシリーズ化されていれば素晴らしい作品になっていた可能性のある作品をshortlistのリストから一部ピックアップして紹介しよう。
目次
テレビドラマのパイロット版とは?
欧米テレビ業界や放送局における“パイロット版”とは、簡単に言えば「お試しの第一話」で、シリーズ成功の可能性を評価するために作られる仮のエピソード。作品の本格的な実現可能性、コスト、懸念事項、将来性などを判断するためにプロジェクトの初期段階に製作されるものである。
晴れてフルシリーズ化されロングランヒットとなる番組がある一方で、実は多くの作品はパイロット版で終了し、日の目をみることがない。フルシリーズ化されずにお蔵入りになったが、もし製作されていたらヒットになっていたかもしれない作品は以下の通り。
パイロット版で失敗した海外ドラマ
ダーク・タワー
スティーヴン・キングの長編小説「ダーク・タワー」シリーズを基に、『ウォーキング・デッド』でショーランナー、製作総指揮、脚本を務めたグレン・マザラが手掛けた『The Dark Tower(仮原題)』。彼は原作の4作目(同シリーズのフラッシュバック部分)をシーズン1の軸とし、そこからプロジェクトを進めていく計画を立てていた。純粋なファンタジーの世界を舞台に、スティーブン・キングの名作をベースにした広大なシリーズへの素晴らしい「入り口」になっていただろう作品なだけに、製作されなかったことが悔やまれる。
L.A.コンフィデンシャル
ラッセル・クロウ、ガイ・ピアースの出世作として知られる1997年の映画『L.A.コンフィデンシャル』のドラマ化シリーズ。ウォルトン・ゴギンズ(『JUSTIFIED 俺の正義』)主演で、50年代のアメリカを舞台に3人の殺人課の刑事とレポーターが活躍するという内容のパイロット版が作られた。ドラマ作品としても十分に通用するフィルム・ノワールの傑作であるだけに、製作が見送られたのは残念。
ダークマン
リーアム・ニーソン主演の映画『ダークマン』(1990年)は、『スパイダーマン』シリーズで知られるサム・ライミ監督の代表作の一つ。全身火傷を負った天才科学者が、新発明の人工皮膚でスーパーパワーを手にし、火傷を負わせた犯人たちに復讐を果たす物語。ライミが自らリメイクしたドラマ版は、クリストファー・ボウエン(『ドクター・フー』『キャッスル ~ミステリー作家は事件がお好き』)がダークマン役で主演し、映画版でヴィランのデュラント役を演じたラリー・ドレイク(『L.A.ロー 七人の弁護士』)が同役を再演するという企画だったものの、実現できなかった。
Mockingbird Lane(原題)
『Mockingbird Lane』は、温和な怪物家族マンスター一家の日常を描いたシットコム『マンスターズ』(1964~66年)のリブート版として、ブライアン・フラー(『スター・トレック:ディスカバリー』)によって進められていた企画。ジェリー・オコンネル、ポーシャ・デ・ロッシ、エディ・イザードらが出演したパイロット版は、ハロウィーンの時期に放送されたものの、十分な印象を残すことはできなかった。
もし本作がフルシリーズ化されていたら、フラーがショーランナーとして次に手がけた『ハンニバル』は見られなかった可能性があると考えると、本作はパイロット版止まりでよかったのかもしれない。
Heat vision and jack(原題)
この作品は知名度は高くないかもしれないが、クラシックな作品に仕上がっている。ロブ・シュラブ(『コミ・カレ!!』)、ダン・ハーモン(『リック・アンド・モーティ』)が製作・脚本を手掛け、監督はベン・スティラー、主演はジャック・ブラックが務めたSFコメディ。しゃべるバイクの声役でオーウェン・ウィルソンも出演。FOXからシリーズ化される話もあったが最終的に見送られた。だが、パイロット版はカルト的な人気を博し、ネット上で多くのファンを獲得した。
ファーゴ
『BONES』のノア・ホーリーが手掛けて大ヒットしたドラマ『FARGO/ファーゴ』の前に、同名の別企画があった。このパイロット版は、映画版にかなり近いもので、イーディ・ファルコがマージ・ガンダーソン役で出演し、キャシー・ベイツ(『アメリカン・ホラー・ストーリー』)が監督を務めたが、採用されるには至らなかった。
ゾンビランド
2009年公開のルーベン・フライシャー監督による映画『ゾンビランド』は、第1作から約10年後に続編映画が公開された。この間にストーリーを展開できるだろうと、映画1作目から4年後の2013年にドラマのパイロット版が作られた。『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』のイーライ・クレイグが監督を務めたが、番組はパイロット版で終了。この時期は『ウォーキング・デッド』全盛期だったので、ゾンビ疲れもあったのかもしれない。
ワンダーウーマン
放送局CWがテレビ画面でDCコミックを支配する前に、『ワンダーウーマン』がパイロット版として製作されていた。エイドリアンヌ・パリッキ(『宇宙探査艦オーヴィル』)出演で、著名な脚本家デヴィッド・E・ケリー(『ビッグ・リトル・ライズ』『リンカーン弁護士』)が脚本を担当したにもかかわらず、残念ながら、正式な製作には至らなかった。
クラークス
1994年公開の映画『クラークス』は、現在までに3つの映画とアニメシリーズが製作されているが、実写ドラマ版も企画されていた。映画版を手掛けたケヴィン・スミスがパイロット版も手掛けたがうまくいかず、映画の二番煎じに感じた人もいたようだ。
Mr.&Mrs. スミス
『Mr.&Mrs. スミス』は、ブラッド・ピットとアンジェリー・ジョリーが夫婦役で出演した2005年のアクション映画。夫婦がお互いに競合するエージェンシーに所属する殺し屋だった…という、ドラマ版でもうまく移行したであろう楽しい作品だった。パイロット版も、映画版の監督ダグ・リーマンと脚本を手掛けたサイモン・キンバーグが担当したにもかかわらずうまくいかなかった。
ちなみに同作は、ドナルド・グローヴァー主演で別のドラマ化企画が進行中。フィービー・ウォーラー=ブリッジが相手役を務める予定だったが、クリエイティビティの違いにより降板している。
(海外ドラマNAVI)
Photo:yousafbhuttaによるPixabayからの画像