ハリケーン・サンディ(2012年アメリカで起きた大型ハリケーン)が荒れ狂う中、マンハッタンのダウンタウンで70億ドルの債券が“消える”という事件が起きた。この実話を基に製作されたのがNetflixドラマ『カレイドスコープ』(元旦より配信スタート)だ。百戦錬磨のプロ集団が“悪天候”を利用して難攻不落の金庫をぶち破るというアイデアもさることながら、全8エピソードを生かしたユニークな構成、内通者や過去の因縁など複雑なバックボーンがうまく絡み合い、極上の犯罪ドラマを生み出している。
どのエピソードから観ても楽しめる!
まず、各エピソードのタイトルだが、イントロの「ブラック」から始まり、「イエロー」「グリーン」「ブルー」「オレンジ」「バイオレット」「レッド」「ピンク」「ホワイト」と、いずれもカラーで表現され、強盗決行の日を軸に、犯行の24年前から6カ月後までの悲喜こもごもの物語がそこに込められている。そして、その全てのカラー(物語)が混じり合うと、主人公レオ(ジャンカルロ・エスポジート/『ベター・コール・ソウル』『マンダロリアン』)の四半世紀にわたる劇的人生が浮き彫りになってくるのだ。
さらにこのドラマ、どのエピソードから観ても好奇心をそがれることなく楽しむことができる仕組みが実に秀逸。カラーの組み合わせ次第で見える景色が違う万華鏡(カレイドスコープ)のように、視聴者が鑑賞する順番を変えるだけで、ドラマのクライマックスや重きを置く視点が自然と変わっていくところが興味深く面白い。
周到に計画された金庫破りのシーンに注目!
レオはなぜ一世一代の大強盗に挑むのか? 24年前、レオ一家にいったい何があったのか? クセ者だらけのプロたちとどこで出会ったのか? そして、行く先々でちらつく内通者の正体とは誰なのか…? 組み合わせ次第では、『オーシャンズ』シリーズのように犯罪サスペンスが際立つこともあれば、主人公レオ一家の愛と悲劇の感動ヒストリーとして心に焼き付くケースもあるだろう。
一世一代の“大強盗”を軸にしながら、色合いの違うドラマを何通りも視聴者に提供するというまさに前代未聞のアンソロジー・シリーズ。それだけでも必見なのだが、ここまで仕組みばかり語ってきたので、最後に映像として個人的に見どころを。やっぱり、なんだかんだ言っても犯罪ものなので、周到に計画された金庫破りのシーンは圧巻! これまで山ほど銀行強盗ものを観てきたが、悪天候を逆手にとったここまで大胆なやり方に遭遇したのは皆無。そのアイデアと映像表現に驚愕したことを付け加えておこう。
(文/坂田正樹)
Photo:『カレイドスコープ』© 2022 Netflix, Inc.