英BBCの人気ドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』のシーズン6にして最終シーズンがNetflixで配信中だ。テレビシリーズの最終回を迎えたピーキー・ブラインダーズを振り返り、そのレガシーを検証していきたい。
目次
犯罪ドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』とは?
1920〜30年代の英中部バーミンガムを舞台に、悪名高いギャング集団を率いるトミー・シェルビーが、さまざまな敵を倒して成り上がっていく姿を描く。
原案・脚本・製作総指揮はスティーヴン・ナイト(『TABOO/タブー』)。バーミンガム出身の彼は、19世紀末に工業都市バーミンガムのスラムに実在したストリートギャングの話をもとに本作を作り上げたが、主要キャラクターは架空の存在である。ピーキー・ブラインダーズの名前の由来については、「ハンチング帽のつば(peak)にカミソリの刃を縫い付け、それで相手の目を攻撃した」など諸説ある。2013年に英BBC Twoでスタート、1シリーズ全6話でコンパクトながら中身は濃厚、イギリスでは社会現象になるほどの人気を集めたドラマだ。
ピーキー・ブラインダーズの5つの魅力
1.トミー・シェルビーのカリスマ性
まず、このドラマの一番の面白さといえば、『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』などで知られる演技派俳優キリアン・マーフィー=主人公トーマス・シェルビーの魅力に尽きるだろう。
シェルビー家の次男トーマス(通称トミー)は、ピーキー・ブラインダーズと呼ばれるギャングのリーダー。一家はジプシーと呼ばれるロマとアイリッシュ・トラベラーズの家系で、競馬の違法賭け屋が生業。いわば、イギリス社会の底辺に生きる人々である。
冷静沈着で頭脳明晰、カリスマ性に溢れるトミーは、自分に限界はないと言い放ち、望むものはあらゆる手段を使っても必ず手に入れる。
一方で、無敵の彼も心の闇を抱えている。トミーと兄アーサー、弟ジョンは、第一次世界大戦西部戦線に参戦。連合軍と独軍合わせて100万人以上が戦死したとされるソンムの戦いの生き残りでもある。彼らは、敵の前線に向かってトンネルを掘り、塹壕の下に爆弾を仕掛けるという危険なトンネル部隊に属していた。トミーとアーサーは今も戦争後遺症に苦しんでいる。
2.豪華キャストたちの競演
キリアン・マーフィーのほかにも、トミーの叔母ポリーはヘレン・マックロリー(『ハリー・ポッター』シリーズ)、長男アーサーはポール・アンダーソン(『レヴェナント: 蘇えりし者』)、三男ジョンはジョー・コール(『ハリー・パーマー 国際諜報局』)、長女エイダはソフィー・ランドル(『ジェントルマン・ジャック 紳士と呼ばれたレディ』)など、イギリスの実力派俳優が固める。
さらに、トム・ハーディ(『ヴェノム』シリーズ)、サム・ニール(『ジュラシック・パーク』シリーズ)、エイドリアン・ブロディ(『チャペルウェイト 呪われた系譜』)、エイダン・ギレン(『ゲーム・オブ・スローンズ』)、サム・クラフリン(『ハンガー・ゲーム』シリーズ)、アニャ・テイラー=ジョイ(『クイーンズ・ギャンビット』)など、ハリウッド映画の常連クラスの俳優たちが出演。最終シーズンでは、スティーヴン・グレアム(『ボードウォーク・エンパイア』)とアナイリン・バーナード(『バークスキンズ』)が登場するのも注目だ。
3.緻密な歴史考証
ドラマは第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時代が舞台。トミーは次々に現れる敵を倒して、裏社会を成り上がっていくが、その敵はライバルのギャングから警察、共産主義者、アイルランド共和軍(IRA)、政治組織、ロシア亡命貴族、米マフィア、ファシストとさまざま。やがてトミーは合法ビジネスをスタートし、労働党の政治家に転身、チャーチル首相のスパイとなり、果ては名誉大英勲章(OBE)を受勲して国会議員にまで昇り詰めていく。
当時の時代背景や実在の人物、実際に起きた事件を取り入れた緻密な歴史考証が物語の面白さを盛り上げ、歴史ドラマとしても大変見応えがある。
4.クールな男たちと強い女たち
ギャングの男たちは、テイラー仕立てのスーツを着こなし、タバコとウイスキーを愛し、家族を守るための戦いに身を投じるなど、男のロマンを感じさせるかっこよさだ。家族の絆や仲間、戦友との固い友情にも男気を感じさせる。ツーブロックのヘアスタイルにハンチング帽(フラットキャップとも呼ばれる)というスタイルはイギリスの若者たちの心をとらえ、トレンドにもなった。
しかし、女たちも負けてはいない。トミーが愛したグレース、元娼婦だが上昇志向の強いリジー、トミーの良き理解者である妹エイダ、アーサーの妻リンダなど、本作の女性たちは、男顔負けの強さを持ち、男たちと対等に世間を渡っていく。特に戦時中は男たちに代わって、家業を仕切っていたポリー叔母はシェルビー家を支える存在で、肝の座り方も違う。ジプシーの血を引くシェルビー家では女性の権利が尊重されているというのも興味深い。
5.音楽とシネマトグラフィ
テーマソングに使用されているニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズの「Red Right Hand」をはじめ、新旧のロック・チューンが、絶妙なタイミングで流れるのが本当にかっこいい。歴史ドラマにロックを合わせるという流れは、本作が確立したと言ってもいいだろう。PJハーヴェイ、ホワイト・ストライプス、ジョイ・ディヴィジョン、レディオヘッド、アンナ・カルヴィなどクセのあるアーティストの曲を集めたサントラは、全英アルバムチャート1位を記録した。
バーミンガムの街をギャングたちが横並びで歩く姿をスローモーションで捉えたシーンは鳥肌が立つほどかっこよく、暗めの色彩や独特の質感をもつスタイリッシュな映像が美しい。
ファイナルシーズン(シーズン6)の行方は?
シーズン6の製作はトラブル続きだったという。2020年3月に撮影開始のはずが、新型コロナウイルスの影響で延期になり、さらにポリー役のヘレン・マックロリーが2021年4月にガンのため急逝。そのため、急遽ポリー抜きの内容に脚本が変更され、シリーズ6が最終章になることも発表された。このような経緯を経て、本国イギリスでは今年2月にBBC Oneで放送。初回の最大視聴者数は410万人で、シリーズ最高の記録となり、改めて人気ぶりを証明した。
ポリーの離脱がどのように描かれるのかが注目されたが、さすがに見事な回収ぶりで、ポリー・グレイ=ヘレン・マックロリーに捧げた、美しいトリビュートとなっている。
最終シーズンの「鍵」となるのは、「ジプシーの血」「第一次世界大戦」「罪の購い」である。窮地に陥ったトミーは自らのルーツに戻り、馬とキャラバンの移動生活に癒しを求めていく。これまでも「トミーの最大の敵は彼自身」という言葉がドラマに登場してきたが、はたして、トミーは救済されるのか否か。そして、第一次世界大戦のフランスで戦った男たちに心の安らぎは訪れるのか。
海外ドラマというと、途中で打ち切りになったり、最終シーズンで失速したりというケースが多々あるが、ピーキーの最終章はファンも納得の着地点になったといえるだろう。最終話は80分の拡大版。ラストのどんでん返しは涙なしでは見られない。
ピーキー・ブラインダーズのレガシーは続く
さて、ドラマ版は完結したが、続編となる映画版の製作がすでに発表されている。これまでスティーヴン・ナイトは、1939年に第二次世界大戦の最初の空襲のサイレンがバーミンガムで鳴るところでドラマは終了すると語っていたが、映画では第二次世界大戦中が舞台になるとされ、スピンオフの可能性もあるようだ。今後は若いジェネレーションへと物語が続いていくことが予想される。
It’s time for a family meeting.
— Peaky Blinders The Rise (@PBtherise) March 24, 2022
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また、イギリスでは今年中に舞台版『Peaky Blinders: The Rise(原題)』やランバート・ダンスとコラボレーションする『Peaky Blinders: The Redemption of Thomas Shelby』、野外イベント『The Legitimate Peaky Blinders Festival』が予定されているほか、VRゲームや料理本など、マルチバースな世界が展開されており、まだまだ話題を集めそうだ。
ピーキー・ブラインダーズのレガシーはこれからも長く語り継がれていくことだろう。
『ピーキー・ブラインダーズ』シーズン6(最終シーズン)はNetflixで独占配信中。
(名取由恵 / Yoshie Natori)
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Photo:『ピーキー・ブラインダーズ』シーズン6は6月10日(金)よりNetflixで独占配信スタート。シーズン1~5は独占配信中。