ベン・ウィショー主演『産婦人科医アダムの赤裸々日記』は泣き笑いの秀逸な医療ドラマ

英BBC×米ケーブルチャンネルAMCの医療ドラマ『産婦人科医アダムの赤裸々日記(原題・This Is Going To Hurt)』が、いよいよ4月6日(水)から日本でも放送スタートになる。英人気俳優のベン・ウィショーが産婦人科医を演じることで放送前から大変な話題を呼んでいるが、今回は一足早くこのドラマの見どころを紹介しよう。

『産婦人科医アダムの赤裸々日記』は、アダム・ケイ原作のノンフィクション「すこし痛みますよ~ジュニアドクターの赤裸々すぎる日記」をもとに、アダム・ケイの制作会社「テリブル・プロダクションズ」と『ランドスケーパーズ 秘密の庭』などを手がけた「シスター」の共同製作で映像化したもの。全7話。現在はコメディアン・作家として活躍するアダム・ケイが、2004年から2010年にかけて産婦人科医のジュニアドクターとして働いた経験を日記形式で綴った回想録は全世界で250万部超のベストセラーに。今回のドラマ化では、アダム・ケイ自身が脚本を手がけている。

本作はNHS(イギリス国営の国民保健サービス)病院の産婦人科で働くアダム・ケイ医師の仕事ぶりや私生活を赤裸々に描いたもの。イギリスで今年2月8日より放送され、初回は320万人の視聴数を記録、批評家や視聴者から大絶賛を集めた。

ジュニアドクターを演じるベン・ウィショーに注目

ドラマの一番の見どころは、なんと言ってもアダム・ケイ医師を演じるベン・ウィショー(『ロンドン・スパイ』『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』)の魅力に尽きるだろう。レジストラー(ジュニアドクターで、専門医の数歩手前のポジション)として働くアダムは、長時間労働で食事や睡眠も満足に取れない超多忙な日々を送っており、激務で恋人ハリーとの関係もぎくしゃくし、ゲイであることをカミングアウトできない厳格な母親との関係もストレスいっぱいで、メンタル崩壊の一歩手前という日々を送っている。いかにもイギリス人的なシニカルかつ自嘲気味で辛辣なブラックジョークを飛ばして困難を乗り切っているが、彼を取り巻く状況や人間関係はさらに悪化する一方で……。

産婦人科医アダムの赤裸々日記

ときにはユーモラスにときには繊細にアダムの感情を表現し、コメディとシリアスを絶妙なバランスで混ぜていくその演技力はサスガである。アダムは第四の壁を破り、カメラを通じて直接こちらに話しかけてくる。もともと原作が日記形式ということもあるが、この手法が実に効果的に視聴者の心に響く。

医療現場をリアルに描く

病院で働くアダムの仲間たちも個性的なキャラクターで面白い。両親の期待を背負って試験に合格するために猛勉強中の後輩シュルティ(アンビカ・モッド)、上司であるロックハート専門医(アレックス・ジェニングス)、厳格なシニア助産師トレーシー(ミシェル・オースティン)、シュルティの良き理解者になるヒュートン専門医(アシュリー・マグワイア)など、各役者たちも光っている。

本作では、病院の産婦人科病棟が舞台ということもあって、とりわけ生と死のコントラストが強烈だ。破水や出血など患者の体液を浴びながら、医師や助産師たちは働き続ける。出産や帝王切開手術のシーンが度々登場するが、これがかなりエグい描写なので、血が苦手な人はご注意を。

また、ドラマのサウンドトラックにも注目だ。元パルプのジャーヴィス・コッカーのJARV IS…が音楽を担当したほか、フローレンス+ザ・マシーン、リバティンズ、ケミカル・ブラザーズ、レディオヘッドなどの曲をフィーチャー。JARV IS…名義のサウンドトラック・アルバムもリリースされている。

NHS病院の抱える問題

イギリスの国民保健サービス=NHS(National Health Service)について少し説明をしておきたい。NHSとは、「ゆりかごから墓場まで」の福祉国家を目指して、個々の経済支払い能力に関わらず、すべての人々が公平に医療サービスを受けられるよう、1948年に導入された公費負担医療のこと。つまり、イギリスでは手術や入院、出産などの医療は基本的に無料である。

夢のような医療制度ではあるが、その現実は厳しく、NHSは常に赤字と人手不足という問題に悩んでいる。イギリスでは、どんな症状でも、まずは登録している一般医(GP)の診察を受け、さらに治療が必要な場合はGPから専門医や病院を紹介してもらう仕組みだが、GPの予約を取れるのが2週間先だったり、専門医の手術が半年待ちだったり、病院のA&E(緊急外来サービス)でも命に別状のない場合は治療を受けるのに数時間待たされるというケースもある。

産婦人科医アダムの赤裸々日記

『産婦人科医アダムの赤裸々日記』でも、NHS病院が抱える問題やスタッフが直面する苦悩を鋭く炙り出している。慢性的な人手不足のなか、スタッフは睡眠時間を削って働き、時間外労働は無給、代わりの者がいないので病欠や休暇を取ることも難しいという。この過酷な状況のなかで、患者の命に関わる重大な決断を瞬時に行わなくてはならず、その重圧たるや想像を絶する。プライベート病院(こちらの治療費は患者負担)の贅沢ぶりとは対照的である。アダム・ケイは訴える。医師も人間だ。仕事のプレッシャーや人間関係に悩み、患者やその家族の心ない言葉に傷つく。彼らだって、睡眠や食事や休息、そして家族や友達と過ごす時間が必要なのだと。

話は脱線するが、筆者もNHS病院で出産を経験した一人だ。妊娠中の超音波検査は12週頃と20週頃の2回のみ、出産直後に自力でシャワー、出産翌日に退院といろいろ大変だったが、助産師をはじめ、スタッフには大変お世話になった。いろいろ問題があっても、NHSはイギリスの誇りである。コロナ禍でNHSスタッフの活躍が称賛されたのも記憶に新しい。医療関係者に改めて敬意と感謝の気持ちを示したい。

私たちもアダムと一緒に、NHSジュニアドクターの悲哀とリアルを体験する。過酷な労働に自分を見失いがちになりながらも、患者の命を救うために奔走し、ときには患者の死に涙し、新しい命の誕生に感動し、かわいい赤ちゃんの姿に心癒される。まさに泣き笑いの秀逸な医療ドラマで、本作がベン・ウィショーの代表作になることは間違いないだろう。

『産婦人科医アダムの赤裸々日記』はWOWOWにて4月6日より放送スタート。

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Photo:『産婦人科医アダムの赤裸々日記』(c) SISTER