日本時間の2月10日(月)8:30よりWOWOWプライムにて生中継される、第92回アカデミー賞授賞式。同レッドカーペット・レポーターを長年務めたほか、ハリウッドでいくつもの映画・ドラマに出演してきた尾崎英二郎さんのコラムを前後編の2回に分けてお届けします!(※注意:このコラムの文中のキャラクターの名称や、監督名・俳優名などは、原語または米語の発音に近いカタカナ表記で書かせて頂き、敬称も略しています)
皆さんは、毎年映画賞シーズンの最後を締めくくるアカデミー賞の結果を見て、「なぜ、自分が観て気に入った大ヒット映画は賞を獲れないんだろう...?」と思ったことはありませんか? そこには理由があるんです。
米国"アカデミー"の正式名称は、Academy of Motion Picture Arts and Sciences(AMPAS)。「映画芸術科学アカデミー」と呼ばれ、芸術としての映画、その技術や知識を支え、前進させることがアカデミー会員たちの責務です。会員には所属資格や行動の規範が定められており、実績と品格が求められます。それに伴い、メンバーは高い誇りを抱いています。
この組織が主催するアカデミー賞(OSCARS)は、映画評論家や批評家、外国人記者たちが選ぶ、いわば「客観的な評価の賞」とは意味合いが異なります。オスカーは、映画業界が業界人の功績を讃える賞であり、全米製作者組合賞(PGA賞)、俳優組合賞(SAG賞)、監督組合賞(DGA賞)などの組合メンバーが投票する賞と同じように「映画人たちの主観、評価、敬意を踏まえて与える賞」であり、栄誉なのです。
作風としては、品格、歴史的・文化的な価値、時代を鋭く風刺するようなメッセージ性や重厚なテーマを有するものが好まれる一方、コメディやホラーやアクション、コミック原作などのブロックバスター映画は評価されにくい傾向にあります。
これらを念頭に置いて、今年の主要部門の行方を占っていきましょう!!
今年は、演技部門については各方面の予想がほぼ一致しており、前哨戦の結果通りになると見られています。
《主演男優賞》は、名画『タクシードライバー』を彷彿とさせる役柄で渾身の演技を見せた『ジョーカー』のホアキン・フェニックス。同じキャラクターを演じて強烈な印象を残した『ダークナイト』のヒース・レジャーの怪演とはまったく異なる切り口で闇社会に台頭する姿は、恐ろしさ以上に悲しさや切なさを感じさせるものでした。ジョーカーの"笑い"に独自の意味を持たせた脚本の巧さも相まって、ホアキンの強烈な演技力がエンジンとなった作品での受賞は鉄板。コミック(バットマンの中の悪役キャラクター)が源泉でありながら、本年度最多の11部門ノミネートは快挙です。
《主演女優賞》は、一時期表舞台に姿を見せなかったレネイ・ゼルウィガーが、まるで独壇場とも言える度胸の演技でカンバックを印象付けた『ジュディ 虹の彼方に』で獲得します。トラウマを抱えた歌姫ジュディ・ガーランドが、その名声とは裏腹に脆く崩れていきながら、それでも歌い上げる生き様はスリリングでもあり、胸を打ちます。スクリーンで観た瞬間から「今年の主演賞はこの人だな...」と思えたほどの好演です。
《助演女優賞》は、『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーン。ありがちな離婚劇と思えた夫婦(スカーレット・ジョハンソンとアダム・ドライバーが最高の演技を見せる!!)の間に、ローラ演じる一見すると人柄の温かな、しかしいざ争えば妥協を許さない凄腕弁護士が入ってくることで、夫婦の状況が一転します。この3人の息の合ったやり取りやバランスは絶妙で、作品のスパイスとして担った役割は大きく、業界内でも人気の高い彼女が3度目のノミネートでついに初受賞します。
さて、アカデミー賞受賞の大きな要素として忘れてはならないのが、"momentum(勢い)"。
《助演男優賞》は、賞シーズン序盤は『アイリッシュマン』の熱気も伴い、ジョー・ペシに大きなチャンスがあるかと思われました。過去作でのコミカル、あるいは早口でキレる危険な脇役が印象深い彼が、そこを逆手にとった今回の役どころは威圧感と深淵さを静寂な落ち着きで体現した大物ぶりが新鮮でした。しかし、彼は同じマーティン・スコセッシ作品『グッドフェローズ』ですでに同賞を受賞済み。『アイリッシュマン』では同部門にアル・パチーノもノミネートされていますから、票が割れてしまうことも予想されます。
そこで本命視されるのがブラッド・ピット! 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』では、スタントマンが滲ませる一匹狼的なタフさと人懐っこさを非常に巧く表現しています。スタント界の人は、驚くほどの強靭さを持ちながらも、とても優しい人物が実際に多く、そういう部分や情の深さがリアルに描かれています。ドラッグでハイになった時のアクション炸裂の弾け方も圧巻。プロデューサーとしてノミネート&受賞歴があるブラッドは演技部門のノミネートも今回で4度目。「彼に演技賞を!」という気運は、他の授賞式での心温まるスピーチでいっそう高まっており、ブラピファンが歓喜する瞬間がついに訪れることでしょう。
第92回アカデミー賞授賞式は、WOWOWプライムにて2月10日(月)8:30より生中継(二カ国語版)。同日21:00から字幕版が放送となる。
Photo:
『ジョーカー』
(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics
『ジュディ 虹の彼方に』
© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019
NETFLIX映画『マリッジ・ストーリー』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』