現在、2年ぶりの開催で話題となっている第74回カンヌ国際映画祭で、フランソワ・オゾン監督の最新作『Tout s"est bien passe(原題)』が、コンペティション部門に出品されている。そんな監督が手掛ける『Summer of 85』(8月20日より全国公開予定)も2020年のカンヌレーベルに選出されるなど、まさにカンヌ国際映画祭の常連といえるだろう。そこで今回は、サスペンスからティーンの恋愛まで世界の映画人から称賛されたオゾン監督のカンヌ出品作品5作をまとめてご紹介しよう。
多様なテーマの作品を撮り続けているオゾンだが、その根底には変わらないものがある。繊細な心理描写と共にストレートな欲望を映し出し、その等身大のキャラクターたちの姿が、観る人を惹きつけてきた。作品のテーマやジャンルが違っても、オゾンが描いているのは常に、時代や場所を問わない"世界共通の物語"だ。
目次
『スイミング・プール』(2003年)コンペティション部門
フランス映画界の大女優シャーロット・ランプリング(『さざなみ』)と、オゾンの『焼け石に水』に起用されたことによって注目を浴びた若手女優リュディヴィーヌ・サニエ(『ピウス13世 美しき異端児』)という新旧の人気女優がW主演のミステリー。
オゾンは、「映画を作り続ける想像力の源を表現するためにこの映画を作った」と語っており、「自身をイギリスの女性推理作家に投影した」と明かしている。また、主人公のサラのセクシャリティやジュリーの正体など劇中で名言されていないことが多いことについて「結末は敢えて描かないことで、観客が自分自身の映画を作ることが出来る映画にした」とインタビューに答えている。
『ぼくを葬る』(2005年)ある視点部門
ゲイの男性ロマン(メルヴィル・プポー『わたしはロランス』)が"死"に直面したことにより自身の"生"を実感する姿を映したヒューマンドラマ。性や恋愛について描くことが多いオゾンが、一転して"死"についての3部作を製作。その2作目となる本作では、自身の分身ともいえるような青年を描き、静かに力強いヒューマンドラマを作り上げた。
『17歳』(2013年)コンペティション部門
『ぼくを葬る』では自身を投影したかのような男性を繊細に描いていたが、本作では、少女から大人の女性へと変化していくティーンエイジャーの心情とセクシュアリティーをあぶり出している。なぜ、オゾンは思春期の女子高生を描いたのか。「これまで、年齢層が高い人々を描く作品が続いてきた。それに、ちょうど少年たちの映画を撮り終えたところだったから、次は若い女性を描きたかったんだ」と、やはり過去作とは異なる、新しいものを作り出すというオゾンの精神に則られて作られている。
『17歳』価格DVD¥4180(税込)発売・販売:KADOKAWA
『2重螺旋の恋人』(2017年)コンペティション部門
これまで、女性のセクシャリティの解放や"死"をテーマとしてきたオゾンが、性格が正反対な双子にのめり込んでいく女性クロエの姿を官能的に描き出した心理サスペンスに挑戦。「以前からカウンセリングの経験を映画的に表現したいと思っていた。この映画では、まるで観客自身が、精神分析医のように患者の心理を追う構成になっている」とオゾンが語るように、虚構と現実が入り混じりながら、クロエが抱える精神的な問題を解き明かしていく構成となっている。
『2重螺旋の恋人』Blu-ray&DVD 2019/2/6 発売
Blu-ray:5,170円(税込)
DVD:4,180円(税込)
発売元:キノフィルムズ/木下グループ
販売元:ポニーキャニオン
『Summer of 85』(2020年)カンヌレーベル
16歳の少年アレックス(フェニックス・ルフェーヴル)は、ある日セーリングを楽しもうとひとりヨットで沖に出たところ、突然の嵐に見舞われ転覆してしまう。そんな彼を助けたのは、自然体で飄々とした18歳のダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)。運命的な出会いに、急速に惹かれ合う二人。しかし、「ほんの一瞬も離れたくない」と願うアレックスを待ち受けていたのは、不慮の事故によるダヴィドとの突然の別れだった――。生きる希望を失ったアレックスだったが、ある夜にダヴィドと交わした、「どちらかが先に死んだら、残された方は墓の上で踊る」というイカれた誓いに突き動かされる。そして彼は、心の痛みと向き合いながら、ダヴィドと過ごしたかけがえのない"6週間の青春"の物語を書き綴っていく。
17歳の時に出会った原作小説「Dance on My Grave」(おれの墓で踊れ/徳間書店)に感銘を受けたオゾンにとって、原点回帰といえる本作。これまでのオゾンの作品にみられた過激な性描写は封印し、原作小説に感銘を受けた80年代当時の自分自身を投影しながら、少年たちの忘れられないひと夏の恋物語を鮮やかに映し出している。爽やかで瑞々しい恋愛という、オゾンにとって珍しい作風について「少年二人の恋愛に皮肉を一切加えず、古典的な手法で撮ることで、世界共通のラブストーリーにした」と語っている。
『Summer of 85』は8月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次公開。(海外ドラマNAVI)
Photo:
『Summer of 85』© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES
『17歳』(C)MANDARIN CINEMA-MARS FILMS-FRANCE 2. CINEMA-FOZ
『2重螺旋の恋人』© 2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU