寄せています。ザザ~ンと寄せているのでございます。
SFと書いてサイエンス・フィクション、略してサイファイとも呼ばれる荒波が、アメリカTVドラマ界という名の岸壁に、ザッパンザッパン押し寄せているのです。これでもか!これでもか!と。
「え、ウソ、そんなに? ちょっと待って、一度にそんな、無理無理、絶対入らないよ! あ、でもやめないで・・・」そんなSM、いやSFオタク達の、録画デッキを前にしたうれしい悲鳴が聞こえてくるようです。

この秋に始まるSFドラマの特徴は、コメディ色を前面に押し出しているものが目立つこと。これまでのSFドラマでは、シリアスなストーリー展開があって、その中にチラリとコメディ的要素を含んだものが多かったのですが、今シーズンは逆に、基本がコメディで、笑いのためにSF的要素を利用しているドラマが増えています。たとえば、CWでこの9月から始まった新ドラマ『Reaper』。

主人公のサム(Bret Harrison)は「眠くなる」という理由で大学を中退、地元のホームセンターでバイトしながら、将来のプランもなくブラブラする毎日。そんな落ちこぼれのサムに対し、彼の両親はかぎりなく寛容で決して叱らないのだが、その一方でサムの弟に対してはやたらと厳しく、明らかに不公平。しかし、それにはちゃんとワケがあったのだ。サムが21歳の誕生日を迎えたとき、彼は父親から告白される。実は、最初に生まれた子どもが21歳になったら、その子の魂を引き渡すと、悪魔と約束してしまったのだと。サムが生まれるずっと前、病気で死にそうだった父親は、悪魔とそんな取り引きをしていたのだ。だから両親はサムに引け目を感じて、必要以上に寛大だったのだ。やがて、サムの前に現れた悪魔が告げたサムの使命とは、魔界から逃げだして人間界にまぎれこんだ奴らを捕まえるバウンティ・ハンターの役目だった・・・

まず、悪魔を演じるレイ・ワイズ(『ツイン・ピークス』でローラ・パーマーの父親役だった、あの怪優)がハマり役。もともと悪魔顔の彼が、黒いスーツに身を包んでニヤリと笑えば、ちょっと紳士的なサタンにしかみえません。彼が使命を告げに現れたとき、自分の運命に悲観的になっていたサムが「どうせ俺は人を殺したりしなきゃいけないんだろ」と言うと、彼は悪魔のくせに「ワォ、君は随分とまたペシミストだな(Wow, you"re a real pessimist)」と、前向きな発言をして笑わせてくれます。

また、サムが魔界からの脱走者を捕まえるための武器として、毎回違う小道具が悪魔から届きます。いわば「今週のビックリどっきりメカ」(わかるかなー?)なのですが、それが毎回、一見何の変哲もない電化製品なのも笑えます。車内で使うタイプの小型掃除機だったり、ラジコンカーだったり、トースターだったり。それらの道具を使い、同じホームセンターで働く悪友2人と一緒にドタバタ地獄からの脱走者を退治に行く様は、まさにゴーストバスターズ。同じ職場にサムが秘かに想いを寄せる女の子もいたりして、リーパーは単なるSFドラマにとどまらず、「SFアクション青春ロマンチックコメディ」なのです。

この10月からABCで始まった『Pushing Daisies』もコメディ主体のSFドラマ。主人公の男は、死人に触れただけで死者を生き返らせることができる特殊能力を持ちますが、生き返ってから1分以内に彼がもう一度触れると、生き返った死人はまた死んでしまい永久に生き返りません。でも、もし生き返らせてから1分以内にその人物に触れて死なせないと、代わりに近くにいる人が突然死んでしまうという、なんともはやヤヤコシイ能力。そんな彼が、幼なじみで初恋の人を生き返らせはしたものの、決して彼女に触れることはできないという「縛り」のある設定は、プラトニックなのにロマンチック。キスも透明なビニール越しで、逆にセクシー。演出的にも、カラフルな絵作り、テンポよい編集、ユニークなキャラ達、全編にあふれるユーモア感覚など、フランス映画「アメリ」を彷彿とさせます。アメリが世界的にヒットしたように、このドラマも若い女性を中心に人気シリーズへと化ける可能性はあるでしょう。

その他にも、米国政府の機密がサブリミナル効果で1人のコンピューターおたく(主役)の脳にダウンロードされてしまったことから、CIAの強くて綺麗なお姉さんが彼を守るために闘うSFアクション・コメディ『Chuck』や、美人のサイボーグねえさん達がマトリックスばりに闘う現代版『Bionic Woman』、自分の意志とは関係なく突然タイムスリップしてしまい、行く先々の過去で昔の恋人と遭い、現在の妻との関係が不安定になる『Journeyman』などなど、秋の夜長はSFファンタジー三昧!なのでした。

今、こんなにもアメリカを席巻している新しいSFの波は、おそらく近い将来TSUNAMIとなって日本を直撃することでしょう。そのとき、旧来然としたドラマ達の陰に避難するか、SFサーファーとなって次々に押し寄せる新しいSFドラマの波間をさっそうと滑走していくかは、そう、あなた次第。