おいしいリアリティショー

日本でジェイミーやビルというシェフが人気らしいけれど、いまアメリカのお茶の間では、ゴードン・ラムゼイが熱い。彼はイギリスで数少ないミシュラン三ツ星のレストランを持つ、伝説的セレブシェフ。イギリスで成功をおさめた料理のリアリティショー『Hell"s Kitchen』と同名のアメリカ版を2005年に作り、リアリティショーや料理番組好きなTVっ子の間でたちまちその名を知られるようになった話題の男なのだ。(日本では2006年に、ホテル、コンラッド東京にフレンチレストラン「ゴードン・ラムゼイ」をオープン。)

FOXで放映されたその番組は、2つのチームに分かれた競技者(料理人)が、毎週お題に従って料理を競い合い、負けたチームからひとり脱落者を決めるという、ドナルド・トランプの『ジ・アプレンティス』などに代表されるお仕事系成り上がり合戦のリアリティーショー。ただ本来は競技者が主役なのだが、この番組では脇にまわり、主役はあくまでホストのゴードン・ラムゼイであるというのが違っていた。 彼はショーのなかで、ほとんど独裁者のように振る舞い、競技者に対する要求がとても高い。自分の要求に応えられない者に対してキレてののしったり、挙げ句の果てにキッチンから追い出したりする。よくいえば、歯に衣着せぬ物言いということになるが、実はネットワークでは流せないFワードなどの連発で、彼がしゃべっている間中、ビープ音がピーピー鳴りっぱなしだ(カナダやヨーロッパでは、そのまま放映されているらしいが)。 身長約188センチの大柄で、ごく短い間だがプロサッカー選手をしていたこともあるラムゼイは、ガッチガチの体育会系。そのガタイといかつい顔でののしられたら、震え上がらない方が珍しい(実際、精神的重圧に耐えられなくなって、病院にかけこんだ競技者もいた)。でも視聴者にはそれが面白くて仕方がないのだ。ラムゼイ自身もそれを承知の上でのキャラ作りだろう。 アメリカ版『Hell"s kitchen』は、8月に大人気のうちにシーズン3を終え、シーズン4を撮影中だという。入れ替わりに9月に始まったのが同じくFoxの『Kitchen Nightmares』。番組の主役はその名の通り、キッチンの悪夢、つまり今にも潰れそうなレストランとそこで働くスタッフたちだ。

シェフ、ラムゼイは救世主のごとく、毎週そんなレストランを訪れて、瀕死の状態から救い出す。与えられた時間は1週間。潰れそうなレストランのフタを明けてみると、実にいろんな問題が山積されているのが見えてくる。ゴードン救世主は、問題の根本をつきとめ、持ち前のキャラクターで半ば強引に、荒療治をほどこしていく。その過程には、いろんなドラマが見え隠れするのだが、これが面白いのだ。人間関係がどろどろだったり、キッチンが考えられないほど汚かったり、マネージャーが無能だったり...。視聴者は、毎回いろんな修羅場を見ることになる。 閑古鳥が鳴いているレストランが、週の半ば以降、内装やキッチンをリフォームしてから劇的に改善されていく。レストランが起死回生を遂げるのを見届けて、救世主は去るという筋書き。『Hell"s Kitchen』では、強面教官のようだったラムゼイもここでは、ちと怖いながらもどちらかというと頼もしいアニキ的なキャラになっているし、彼が料理を作る場面がごく短くしか写されないのが少し物足りない。でも来週またどんなひどいレストランが登場するんだろう、とつい期待してしまうのだ。

さて、お仕事系成り上がり合戦のリアリティショーの料理版で大人気の番組が、もうひとつある。ケーブルTV局ブラボーの『Top Chef』だ。まだ無名だが、未来のスターシェフ予備軍、全米各地から集まった実力者たち15人が、1シーズン3ヶ月に渡って料理のスキルを競い、勝ち抜いていく。そして、勝ち残った2~3人が、最終決戦でトップ・シェフの座を争う厳しい闘いなのだ。 番組の構成は先の『Hell"s Kitchen』と似ているが、こちらは審査員がレギュラーとゲスト合わせて複数いて、豪華な感じだ。まずヘッド・ジャッジ(審査員長)にアメリカの料理界で名実ともに5本の指に入るスターシェフ、トム・コリッキオ。シーズン2からホストをつとめるのは、元スーパーモデルで女優、料理本の作家でもあるパドマ・ラクシュミ。ゲストには週代わりで、ダニエル・ブルーやトッド・イングリッシュなどのスターシェフや著名フードジャーナリストが登場して、若きシェフたちの料理を審査する。審査は厳しいが公平にみえ、平和的ではある。 お題が素材だけに限定されずに、バラエティに富むのがいい。たとえば、飛行機の機内食に出す料理だったり、グルメなハンバーガーだったり...。カットされすぎて目まぐるしいのが難点だが、比較的料理のシーンをしっかり見せてくれるのが有難い。 合宿しているメンバーがだんだん淘汰されて少なくなってくると、ひとりひとりのキャラが見えてきて面白い。やはりイケメンだったり、オモロい奴だったりすると人気が出て、番組のウェブサイトではシェフ個人のブログも更新され、一般視聴者のコメントで賑わっている。誰かひとりを応援しながら見るのがより楽しいかもしれない。

また、エキゾチック・ビューティのパドマを筆頭に、トム・コリッキオやゲストとして審査員をするスターシェフやフードジャーナリストたちが醸し出す、スタイリッシュでセレブな雰囲気が、このショーのもうひとつの大きな魅力だろう。(理知的で面白いテッド・アレン『クィアー・アイ・フォー・ストレート・ガイ』がシーズン3でレギュラーになり、より明るく楽しくなったのが嬉しい。)唯一残念なのは、番組で作り出される美味しそうな料理を視聴者の私たちは味わうことができず、視覚的にしか楽しめないことだ。 先のエミー賞では、傑出した競争リアリティショー部門でノミネートされた。そして、10月の始めにマイアミをベースにしたシーズン3を終え、舞台をシカゴに移して、シーズン4の撮影が進んでいる。シーズン5にはぜひ参戦してみたいものだ。