現ファーストレディことローラ・ブッシュさえもがはまったという『デスパレートな妻たち』。デスパレートとは"がけっぷち"の意だとか。主人公たちは妙齢の人妻4人(元も含む)+未婚のおまけ1人、あれ、オトコどもの食いつきがよさげだ。
舞台となるのは、アメリカのとある大都市の郊外にあるウィステリア通り。一時期日本でもはやった(のか?)いわゆるサバービア(郊外)ってやつ(郊外の住民はサバービアンとよばれる)ですな。サバービアンというと、なんか知識階級のかっこよさげな呼び名っぽい(そう描かれることも多いがその反対も多い)けれど、ここで描かれるサバービアンたちはみーんな"がけっぷち"。それがこれまでのサバービアンとは違います!?
エルム街と並んでいまやウィステリア通りは事件が起きる通りとして有名なわけだけど、その発端となるのはとある主婦、メアリーの自殺。この自殺に疑問をもった親友の人妻4人+未婚のおまけ1人がどんどこどんどこ事件を掘り返していくことで、事件が事件を呼んでしまう、なーんてぶっちゃけ簡単にいうとこんなストーリー。まったくそんな井戸端会議な事件ドラマなんて見てられないよな、と思っているあなた、大間違いですよ。このドラマ、がけっぷちな人生をシニカルに描いているだけにほんと奥が深いのですぞ。 女性の生態を学びたいと思っている青少年諸君、このドラマには女性、いえ人間のすべてがつまっております(大げさすぎるか)。
では、気になるがけっぷちな人妻たちを紹介しましょう。
まずは、物語の発端となったメアリー。誰の目から見ても主婦の鏡。夫と1人の息子に囲まれた暮らしは悩みなんてまるでなさげ。なのにいきなり自殺。
そして、細かいトラブルを引き起こし、あげくには事件化さえしてしまうある意味大物な元人妻スーザン。ウィステリア通りの混乱はすべてこのスーザンが原因といってもよいほどのトラブルメイカー。×1で娘ひとり、なのにオトコに困らない。
リネットは4人の子持ち。かつてはバリバリのキャリアウーマンだったのに、家にこもりながらの子育てにいい加減いやけがさしている。子どもたちもわんぱくで、なかでも最強なのが学校をすぐ放り出されてしまう双子たち。だけど基本、だんなとは仲がよい。ファミリー起業もリネットがいればOK。
そんでもって完ぺき主義者のブリー。あまりにも完ぺき主義すぎるため、家族関係の表裏の乖離がはげしい。娘はイケイケ、息子はゲイ、だんなはSM好きということに気づかない振りをするのも完ぺき主義者であるゆえん。一見、理想の母親のような振りをしているけれど、がけっぷちなせいか『理想のお母さん対決』でもだめだめだった。でも、そんな完ぺき主義な妻を求める男もいるんですな(第3シーズン)。
ガブリエルは...。そうだな、80年代イケイケだったボディコンねーちゃんのアメリカ版行く末的なナイスバディ炸裂の元モデル妻。オトコはみなすぐ落ちる、と思い込んでいるところがかわいくもあり、痛々しくもある。でも、まじナイスバディ。
で、未婚のおまけ1人はイーディ。こちらもセクシー担当。というか、ヒトのもの(ヒト?)を横取りしたがるくせがあるフェロモン満々なある意味こわーい存在。うーん。サバービアンのライフスタイルっていったい......。
で、こんなおっそろしーい女性たちがメインをはっているんだから、やることも一筋縄じゃあいきません。覗きOK、家宅侵入OK、放火OK、クルマで体当たりOK、そして殺人......ああ、すべてががけっぷち、いいえ犯罪ですけどね。そう、女性たちがいざ、"やる"となったらこわいんです。もちろん、このドラマの最大の見どころは、彼女たちの"がけっぷち度ぶり"。なので、それぞれがいろーんなパターンのがけっぷちを体験してくれます。さらに彼女たちのこわいところは、がけっぷちを体験するたんびに"がけっぷち"への耐性度がミョーに強くなっていくということ。
プラス、脇を固める男性陣もひとくせもふたくせもあるヤツばかり。
スーザンの元だんなで色男の弁護士カールに"自称"配管工のマイク。ちょっといっちゃってる薬剤師アルバートに妻殺しの疑いがかけられている歯科医のオーソン。次々と登場してくれて、いやあ、うれいですね。これだけ役者がそろえば、何が起こってもいいです。どんどんやっちゃってください。
アメリカのサバービアン、ほんと楽しそうです。
参加したいですか?
わたしは遠慮します。
メアリーみたいに傍観者でいたいです。
このドラマがユニークなのは、冒頭と〆をナレーションできっちり落としてくれるところ。
そのがけっぷちストーリーのナレーター担当は、自殺したあのメアリー。その死によってある意味がけっぷちを乗り越えた彼女は、死後ウィステリア通りを客観的にそして冷静に解説する辛口案内人に変身。故人である彼女のナレーションが生き残り組のがけっぷちぶりをさらに引き立てるという演出が心憎い。
メアリーのナレーションとともに印象的なのが、テーマ音楽。手がけるのは、元オインゴ・ボインゴのダニー・エルフマン。
ダニー・エルフマンといえば、ティム・バートンとよくコンビを組んでいることで知られている映画音楽家だけど、80"sにはオインゴ・ボインゴなんつうニューウェーブバンドをやってたおヒト。そして、ある意味サバービアンなムービー『シザー・ハンズ』の音楽を手がけたのも彼。サバービアンムービーといえば、もうひとり、ジョン・ウォータース(あえてズにしない)という奇才も忘れちゃいけない。そう、デスパレートは、バートン×ウォータースな味付けのサバービアンミステリドラマ。
ちなみにバートンやウォータース、デスパレートで描かれるサバービアって、日本でいえば都市近郊にある新興住宅地のようなところ。
日本でも東京書籍から『サバービアの憂鬱』という本がでているので、ご参考までに(入手困難だけど)。で、これまでにも"とある都市の郊外にあるとある町"みたいな設定のドラマは数多くあったけれど、ウィステリア通りのようなサバービアな設定でしかもサバービアンな人たちが主人公なドラマってあったっけ(映画はいっぱい思いつく)? しかも恐怖の人妻集団。パワーありそう。
驚きなのは、ウィステリア通りのサバービアンたちの結束が固いこと。
これって一般のサバービアンもそうなんだろうか。もしかすると、最先端の大都市部からほんの少しはなれちゃっているからこそ、生活レベルや様式が似通った住民たちが結束してしまうのかもしれない。それがアメリカのサバービアンとしての悲劇なのかも。ジョン・ウォータースの描く『シリアル・ママ』もまるっきりノンフィクションには思えないところがこわい。そして、デスパレートのほうが思いっきり身近でしかも小さな恐怖の積み上がりだったりする。
サバービアンのどんぐりの背比べ。
サバービアンも大変です。
さて、アメリカではシーズン7まで続くといわれている『デスパレートな妻たち』。
日本では3月からLaLa TVで第1シーズンの放送がスタート、そしてNHK BS2では現在第3シーズンを放送中。この先もデスパレートな世界を堪能できると思いきや、この前の脚本化組合のストライキのおかげで『デスパレートな妻たち』の未来も人妻たち同様、がけっぷち!らしい!
続行を希望するのみであります。
©Touchstone Television