アメリカの新ドラマはどうなってる!? 2009春のTVスクリーニングから秋の新TVシーズン・プレミアへ

 

海外ドラマNAVIの特集企画で毎年レポートしている春の「LAスクリーニング」。各スタジオ/ネットワークが、この秋そして来年初頭から放送する期待の新ドラマ・パイロット版を、全米でのオンエアに先駆けて見ることができた(関係者の皆様、心からサンクスです)。
ほとんどの新ドラマは、このパイロット版から微調整程度でオンエアに送り出すのだが、中には撮り直し、大幅に変更があったドラマもチラホラ。そんなドラマはやがて共通の行方をたどることに?

【ブラッカイマーの新作『The Forgotten』 懸命の再キャスティングもこのまま"忘れ去られて"しまいそう】

春のパイロット版から、大部分で撮り直しが行われたドラマの1つ『The Forgotten』。主役のルパート・ペンリー・ジョーンズ(『バーン・アップ 石油利権の闇』)がクリスチャン・スレイター(映画『薔薇の名前』『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』)に、レイコ・エイルスワース(『24‐TWENTY FOUR‐』)がヘザー・スティーブンス(『ベイ・ウォッチ』)にそれぞれ再キャスト。春のパイロット版とオンエアされた第1回目を見比べると、まるで違うドラマのようだった。
被害者の身元が不明なまま、迷宮入りになりそうな殺人事件を、クリスチャン率いるボランティアの市民グループが解決に導くというストーリーなのだが、『コールドケース』や『WITHOUT A TRACE~FBI失踪者を追え!』となんとなく似てるでしょ。お察しのとおり、ジェリー・ブラッカイマーがプロデュースしているのだ。
ブラッカイマー好みの強いリード(主役=クリスチャン)のおかげで、ドラマチックな緊迫感は増したが、その分、市民グループが片手間にやってるみたいな素人っぽさが消えてしまった。そこが新鮮で、魅力だったのじゃないのかい?

【『Three Rivers』キャサリン・メーニッヒが臓器移植外科医を熱演もドラマのハートは??】

この秋の新ドラマでもっとも"大手術"が行われた『Three Rivers』。準主役の外科部長役がジュリア・オーモンド(映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』)からアルフレ・ウッダード(『デスパレートな妻たち』)に入れ替わり、パイロット版のストーリーも一部変更した。もちろんパイロット版は撮り直しとなったのだが、このドラマ、実はパイロット版を1回目に放送していない。第1話(通常はパイロット版)と第2話を入れ替えて放送したのだ。だから最初の2話は時間が前後しており、放送1回目から移植病棟で仕事をしていたはずの移植コーディネーターのライアン君が、2回目の放送で新入りとして登場。ライアン君の自己紹介&他のキャラ紹介も2回目の放送で行っており、全くちぐはぐな展開であった。『LOST』もびっくりのフラッシュバックである。
キャスティングに話を戻すと、キャサリン・メーニッヒ(『Lの世界』)が外科医役という大胆な配役については称えておこう。黒人女優のアルフレの加入で、アフリカ系、アジア系、ヒスパニック系、そしてゲイ層にファンベースを持つキャサリンと、かなり人種と性に配慮したキャスティングとなった。ところが、なぜかキャサリンには毛先を巻いた長い髪のカツラをかぶらせている。女性らしくさせたいのなら、髪型よりも外股歩きの方を注意すべきだったのでは? 番組の"鼓動"は放送されるたびに弱くなっているようだ。

【子役差し替えも、問題は大人にあった? シットコム『Hank』】

Hank』もパイロット版撮り直し組。春のパイロット版では主人公のハンク(ケルシー・グラマー(『そりゃないぜ!?フレイジャー』))の人物設定がわかりにくかったが、オンエアでは冒頭に説明シーンを導入、状況説明をしたのは正解。すんなり番組に入れたと思う。さらにキャスティング面では子役の2人を差し替えている。ワガママ娘、オトボケ息子のキャラをより明確にさせたかったのかもしれないが、このシットコム、不調の原因が子役にあるとしたのなら、クビにされた子役たちがかわいそうだ。問題はむしろ大人にあったろう。正直、ケルシーは、古きよき時代のコメディアンである気がしてならない。

パイロット変更がいい結果になりそうなドラマも!

LAスクリーニングではプレビューしか見ることができなかったが、映画『パックマン家の人々』のTVリメイクで、期待の新ドラマの1つ『Parenthood』もパイロット版撮り直しとなるそうだ。これはパイロット版のできがイマイチだったからという上記の3ドラマとは違い、主演の1人、モーラ・ティアニー(『ER 緊急救命室』)に乳がんが発覚、降板となったため。放送開始も今秋からオリンピック後に延期された。代役にはローレン・グレアム(『ギルモア・ガールズ』)という願ってもないキャスティングが発表されている(夫役ピーター・クラウス(『シックス・フィート・アンダー』)の妻としてはモーラの方がお似合いかも)。ただし、モーラとローレンはどう考えても個性が違うので、脚本の手直しが行われている可能性も高い。出演者の多いアンサンブル・ドラマだけに、微妙なバランスが崩れないことを願いたい。

この秋の新ドラマ最高の話題と視聴率となった『』にも触れておこう。全米ナンバーワン人気『NCIS』の裏番組ながら、大方の予想を良い意味で裏切り、18~49歳層の視聴率で『NCIS』を打破という最高のスタートを切った。こちらはキャストの入れ替えはなく撮り直しもなかったようだが、パイロット版はより展開が早まり、シャープになった感じだ。さらに冒頭で"ケネディ暗殺""911"というアメリカ最大の悲劇に触れ、このドラマで描く宇宙人の到来が、いかに歴史的に重大な一件となりうるか前フリを加えている。こうした演出上の工夫も功を奏したらしく、放送時間のうち最初の30分よりも後半の30分の方が視聴率を上げるという、ドラマのヒットを裏付ける結果を得ている。

すでに打ち切りドラマも登場!

最後に、打ち切りのドラマについて書いておこう。ミーシャ・バートン主演の『The Beautiful Life : TBL』は、たった2話を放送しただけで打ち切り。もう1本、正式に打ち切りが決まっているのが『Trauma』。ごたごたが続いた『TBL』は始めから結果が見えていたのかもしれないが、『Trauma』は決して悪いできではないだけに残念だ。最近の視聴者は、ハラハラ・アクション系より、キャラ同士の人間ドラマを見る方が好きなのかも。主演のクリフ・カーティス(映画『ダイ・ハード4.0』)を見るだけでも価値あるドラマだと思ったのだが...。
そして、映画『イーストウィックの魔女たち』のTV版だった『Eastwick』も、11月半ば、突如放送が終了してしまった。マイッタナー、これから熟(老?)女が活躍するところだったのに。この3本に加え、上記に紹介した3本『The Forgotten』『Three Rivers』『Hank』も打ち切りほぼ確実か(特に後者2本)。パイロット版を撮り直ししたドラマ全部が、視聴者獲得に苦戦していることになる。放送の2、3ヶ月前にパイロット版を撮り直すこと自体、無理な話なのかも。
対照的に、この秋、もっとも評判のよいパイロット版の1つ『White Collar』は、10月下旬の初回放送分を見比べて、ほとんど変更していないようだった。
成功するドラマというのは、土台から固まっているということだろう。

『V』
製作スタジオ:ワーナー・ブラザース
放送:ABC

TM & (c)Warner Bros. Entertainment Inc.

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