【第二弾 "世界観―ヴィジョンを買われる"監督たち~その挑戦は『CSI:科学捜査班』から始まった】
今年は、映画界のトップ監督たちによるパイロット版ラッシュだ。先日も映画「ソーシャル・ネットワーク」のデヴィッド・フィンチャー監督が、俳優ケヴィン・スペイシーと組んだ新たなスリラードラマ『House of Cards』の製作を発表したばかり。フィンチャーは、製作総指揮として初めてテレビドラマに参戦し、パイロット版を務める予定だ。だが、パイロット版に有名な映画監督を起用するのは今に始まったことではなく、第1次ピークは2007年だと言われている。テレビと映画の境界線はいかにして近づいていったのか、その経緯を振り返ってみよう。
■始まりは『CSI:科学捜査班』。
ドラマの"世界観―ヴィション"を変えた画期的シリーズ
映画監督がパイロットを監督する傾向は、2000年代の初頭に始まった。そのきっかけになったのが、CBSの『CSI:科学捜査班』だ。製作陣は"映画のようなドラマ"を打ち出し、映画界からパイロット版の監督を引き抜いた。それが鬼才デヴィッド・リンチに絶賛された新進気鋭の若手監督ダニー・キャノンだった。当時、キャノンは映画「ラストサマー2」や「ジャッジ・ドレッド」などで注目を浴び始めていた、いわゆる"これからの監督"だった。この若き才能は、これからだという映画界から経験のないテレビ界へ転身。『CSI』のパイロット版を監督し、その後、同シリーズの主要メンバーとして活躍する。彼は製作総指揮の一人として『CSI:マイアミ』や『CSI:ニューヨーク』などにも参加。ちなみに現在は、『NIKITA/ニキータ』も手がけ、すっかりテレビ界に落ち着いている。
スタイリッシュな演出と派手な特殊効果で、他のシリーズとは一線を画する世界観を打ち出した『CSI』。そのため10年たった今でも"映画に負けないドラマ"として高い人気を誇っている。同シリーズが成功した理由の一つに、映画並みにこだわった"世界観―ヴィジョン"がある。この成功をきっかけにドラマ界では個性的な"ヴィション"を持つ映画監督たちにアプローチするようになる。
■テレビ、映画の境界線を超えたクリエーターの台頭
また2000年と言えば『CSI:科学捜査班』だけでなく、テレビ界を変えた大型シリーズが登場している――『24-TWENTY FOUR-』とジェームズ・キャメロンが製作総指揮を務めた『ダーク・エンジェル』だ。これらのシリーズは、製作陣にも大きな変化をもたらした。かつてテレビドラマは基本的にアメリカ国内での放送を基準にしていた。しかし、この2つのシリーズが世界的に評価されたことにより、映画以上のビジネスになることに製作陣が気づき始めたのだ。映画監督は世界観だけでなく、知名度も"売り"になる。そのため視聴率獲得のためだけでなく世界的に知られる監督を求めるようになっていく。とはいえ、やはり映画とテレビの敷居は存在し、はじめからオスカーを受賞したような大物監督を起用するのは難しかった。
そこで新たなクリエーターたちにチャンスが広がる。監督ではないが、映画「アルマゲドン」など映画界で脚本家として活躍していたJ・J・エイブラムスも、この時期、テレビ界に新たな活路を見出した一人だ。
そしてテレビ界で成功を収めた映画監督といえば、映画「ユージュアル・サスペクツ」、「X-メン」のブライアン・シンガーだろう。2004年、彼は『Dr.HOUSE-ドクター・ハウス-』のパイロットを監督。見事、ヒットシリーズを生み、7年たった現在も製作総指揮としてドラマに関わっている。
またマックG(「チャーリーズ・エンジェル」)、ピーター・バーグ(「ハンコック」)、ショーン・レヴィ(「ナイトミュージアム」)など映画監督として活躍するだけでなく、テレビ製作プロダクションを設立して、人気シリーズを世に送り出すクリエーターが台頭。映画とテレビで活躍する新しいタイプの監督が頭角を現し始めた。
■パイロット版の映画監督起用は2007年をピーク!
パイロット版とは別にドラマの"売り"として映画監督を特別起用したのが『CSI:科学捜査班』だ。2005年、『CSI:5』のゲスト監督としてクエンティン・タランティーノが特別エピソードを監督。さらに2007年『CSI:8』にて映画「エクソシスト」、「フレンチ・コネクション」の名匠ウィリアム・フリードキン(2009年『CSI:9』でも監督)が特別エピソードのメガホンをとり話題となった。このあたりから、若手だけでなく大物監督までもがテレビ界に参入するようになる。
一方、パイロット版では2005年に、ブレット・ラトナー(「ダイヤモンド・イン・パラダイス」)が監督を手がけた『プリズン・ブレイク』がヒットを飛ばす。
そして2007年までが、パイロット版の映画監督起用のピークとなる。この年、CBSのドラマ製作部門の最高責任者クリスティナ・デイヴィスが「テレビが新しい"映画"になると、何度も繰り返し言われてきた」と語った通り、パイロット版には映画界で成功を収めている監督たちが次々と起用された。ラッセ・ハルストレム(「ショコラ」)、スパイク・リー(「セントアンナの奇跡」)、ガイ・リッチー(「シャーロック・ホームズ」)、ダグ・リーマン(「Mr.& Mrs. スミス」)、バリー・ソネンフェルド(「メン・イン・ブラック」)、ガブリエレ・ムッチーノ(「7つの贈り物」)、ゲイリー・ウィニック(「シャーロットのおくりもの」)、P.J.ホーガン(「ベスト・フレンズ・ウェディング」)、ペイトン・リード(「恋は邪魔者」)、ケヴィン・スミス(「ダイ・ハード4.0」)など、"世界観"と"知名度"を買われた映画監督たちがパイロット版を監督。特にバリー・ソネンフェルドが監督した『プッシング・デイジー ~恋するパイメーカー~』のパイロット版は、今まで製作されたテレビドラマの中で最もビジュアル的に衝撃を与えた1本であると称され、エミー賞まで受賞している。
その後、映画監督を獲得する風潮は続くも、映画監督によるパイロット版でのヒット作は生まれず、ここ2、3年は下火になっていた。
その流れをもう一度、呼び戻したのが昨年、フランク・ダラボンとマーティン・スコセッシというわけだ。今年、もし映画監督たちが手がけるパイロット版からヒットシリーズが生まれれば、映画とドラマのボーダレス化はますます進むかもしれない。かつてドラマよりも映画に出演することが、俳優のステータスとして上だと思われており、監督においてはさらにその意識が高かった。ドラマでは"監督の一人"だからだ。しかし時代は変わるもの。現在ではオスカー俳優までもがドラマに出演している。そして今度は映画監督がドラマの監督になる時代になるのだろうか。実際、映画とドラマ、2つの世界で活躍する監督が増えている。『CSI』から始まった"映画のようなドラマ"の流れが、これからのテレビドラマをどのように変えていくのか、その動向に注目したい。
■『CSI:科学捜査班 シーズン10』
WOWOWにて4月9日(土)スタート! ※第1話無料放送
【吹替版】毎週土曜よる10:00~
【字幕版】毎週日曜午前9:00~
(C) 2009/10 CBS STUDIOS INTERNATIONAL