海外ドラマファンのみなさま、こんにちは。
ニューヨーク在住ライターのパエリア・サングリアでごわす。

こちらでは先週、摂氏25度以上あった気温がいきなり10度まで急降下、ああ、もう夏が行ってしまう、もっとビーチに行っときゃよかった、あ、冷凍庫のアイス食べなくちゃ、これからどんどん寒くなるし、って冷たっ、そして寒っっ、てな感じでお腹をこわしがちなNYの初秋、日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。 

秋といえば、新しいドラマが怒濤の勢いで萌え出づる季節。本格的なラッシュはエミー賞の後ですが、既にちょこちょこフライング気味に始まっている新ドラがあるので、いくつかパイロット版を観た感想をばご紹介させていただきもす。

■9月14日(水)NBC『Up All Night』
冒頭、アラフォーらしき夫婦がバスルームで妊娠検査薬を見つめながら、ヒソヒソ声で話している。

妻「ねえねえねえねえ、この2本線は何?」
夫「2本線は赤ちゃんが(お腹の)中にいるっていうことだよ」
妻「じゃあ、この笑顔のマークは?」
夫「わかんないけど、笑顔ってことは、赤ちゃんが中にいるってことじゃない?」
妻「『中にいる』なんていわないでよ。まるで赤ちゃんがナイフでも持って、クローゼットか何かに隠れてるみたいじゃない」
夫「なんでヒソヒソ声なんだ?」
妻「わっかんないわよ。あーどうしよう、中に赤ちゃんいるんだ」

その後バスルームにしゃがみこみ、呆然とする二人。

妻「たぶん、赤ちゃん(ができたの)はいいことなのよ」
夫「そう?」
妻「そうよ。だっていつかあなたは死ぬでしょう。そしたら私はひとりきりで、10年、20年、30年...」
夫「ちょっと待って。俺、死ぬの?」
妻「あなたは死んで、私はひとりぼっちになるの。そしたら私はまたきっとタバコを吸い始めて、(中略)近所の人たちに『彼女には家族がない。彼女が知ってる人はみんな死んじゃった』って噂されて」
夫「つまり、君はすでに隠居してて、俺は死んでるわけだ?」
妻「そう。でも、私たちには赤ちゃんがいる」
夫「ああ」(微笑み合うふたり)

こんな調子で始まる『Up All Night』は、産休後に職場復帰したアラフォーの妻と、仕事を辞めて子育てに専念する夫が、社会生活と子育ての狭間で悪戦苦闘するさまを笑うコメディ。ただし赤ちゃんはあくまでダシで、夫婦をとりまく人間関係から笑いを紡ぎだしているのがミソだ。

妻のレーガンを演じるのは、『サマンサ Who?』のクリスティナ・アップルゲイト 。お産前に履いていたキツキツのタイトスカートを、ベッドの上で七転八倒しながら身につけるシーンなどのリアル感が半端ない。綺麗に見せようとせず、キャラに徹しているところが素晴らしい。夫クリス役のウィル・アーネット(『アレステッド・ディベロプメント』)との息もピッタリで、どっちが夜中に起きて赤ん坊の世話をしたかで口論する場面などはまさに夫婦さながら。

その他にも、二日酔いで死にそうになりながらおむつを替えるシーン等々、赤ちゃんのあるあるネタが満載で、子育ての経験者やこれから子作りしたい人には共感しやすいドラマ。でもそれだけでは早晩ネタも尽きるだろうから、レーガンの職場のボスで、オプラのようなトークショー・ホストであるエヴァ(マーヤ・ルドルフ『サタデーナイト・ライブ』)のわがままっぷりが鍵になりそうだ。

このパイロット版では、夫婦が赤ちゃんの前で「シット」や「ファック」など「子どもの前では控えるべき言葉」を言うと、その部分がピー音でかき消されるのみならず、口元の映像までボカされるというように、新しい笑いの表現も試しているので、今後の展開が楽しみ。

■9月15日(木)CW『The Secret Circle』
なんだろう、これ。魔女たちの青春ドラマとでも呼べばよいのだろうか。

昔は「奥さま」が魔女だったのだが、何事も若年化が進む昨今のこと、魔女も高校生なのだ。しかも何人もいて、魔男までいる。それも皆さん美形で目に優しく、今後、恋愛がらみの痴話ゲンカに発展するのは必至で、その痴話ゲンカで魔法の掛け合いになることは想像に難くない。念力で皿を飛ばして割ったり。

ただし、パイロット版を観る限りでは、ここでいう魔法は気合いだけで火をつけたり嵐を呼んだりして、魔法の杖や鏡(テクマクマヤコン)などの道具を一切使わず、呪文も唱えないので、むしろ超能力に近いかも。そーゆー意味では、『HEROES /ヒーローズ 』と『ドーソンズ・クリーク』を足して2で割ったようなドラマとも言える。もっとも、このドラマをクリエイトしたのが『ドーソンズ・クリーク』と『The Vampire Diaries』の仕掛人であるケビン・ウィリアムソンであることを考えれば、それも無理からぬことか。

ネタが吸血鬼から魔法(とゆーか超能力)に変わっただけで、サスペンスの手法に特に新しい点は見当たらない。むしろ都合よく魔法が使える分だけ、「どーせ、いざとなったら使うんでしょ?」と観ているこちらが思ってしまうので、緊張感が保てない。あとは主演のブリット・ロバートソン(『Life Unexpected』)を筆頭とする若い俳優陣の魅力で、いかにティーンの気を引けるかが、このドラマの成否の分れ目になるとみた。

■9月16日(金)CW『Ringer』
サラ・ミシェル・ゲラー、久々のテレビドラマ復帰作ということで話題のドラマ。しかし哀しいかな、ゲラーに『バフィー』の頃の輝きはない。双子の主人公を一人二役で演じているが、同一人物が髪型を変えているようにしかみえない。物語はサスペンス仕立てのメロドラマで、冒頭から話が転がり続けるので退屈はしないが、突っ込みどころも満載でリアリティはなく、キャラクターに深みが一切感じられない。しかしこれはまだパイロット版なので、第2話以降はじっくりキャラで魅せてくれるかもしれない、という好意的な解釈もできないわけではないが、キホン構成も演出もソープオペラの枠を出ていないので、昼メロ好きな方におすすめのドラマ

てな具合で、まだまだ序の口、本番はこれからといった状況のNYドラマ事情、今はただ秋の深まりが待ち遠しいばかりの9月の半ばなのでありました。