【お先見!海外ドラマ日記】日本上陸。スピルバーグの冠に恥じない『フォーリング スカイズ』の魅力とは!?

20120729_o01.jpgこれまで、僕のお先見!海外ドラマ日記を読んで下さっている方々は、スティーブン・スピルバーグ氏が、僕が憧れる映画作家の一人であるということはもうご存知だろう。小学生の時、劇場スクリーンで『ジョーズ』という事件のような映画を目撃したその日から、俳優の道に進んだ後も、畏敬の念は膨らむばかりだった。

もちろん、彼が監督した作品群、プロデュースした作品群、それらのすべてが「大好き」というわけではない。しかし、彼が類い稀で、歴史的なインパクトを世界中の人々に与えてきた映像作家であることは言うまでもないだろう。

そんな僕に、この春、ある一つの依頼が届いた。

「この夏に発売になる、スピルバーグ製作総指揮の『フォーリング スカイズ』ブルーレイ&DVDのメディアに向けたプレスリリースを、米国業界に拠点を置く俳優の目線から書いてみませんか?」

と。しかも10回のシリーズで。

なぜこの依頼が僕に舞い込んだかと言うと、2009年に『FRINGE/フリンジ』の日本向けプロモーションが展開された際、J・J・エイブラムス氏の囲み取材のインタビューをさせて頂いた時の記事を広報担当の方々が評価して下さったことがきっかけだ。
その時のインタビューは、ハリウッドのトップクリエイターとして躍り出たJ・J・に直接会って質問できることは、自分にとって大きな刺激になると考え、「是非に!」とお引き受けした。

そして今回も、敬意を抱くスピルバーグ氏の関わる作品について、自分自身がまず詳しく知ることは、深い学びになるに違いない、と確信したのだ。

『フォーリング スカイズ』のケースは、配給会社の商品"宣伝" により直接関わらせて頂くわけなので、責任はより重い。しかし『フォーリング スカイズ』というスピルバーグ製作の"宇宙にまつわるSFモノ"の仕上がりは、いったいどんなものなのだろう... と、数年前から注目していたので、思いきって執筆に挑んでみた。

加えて、僕は個人的に"俳優"としても、2006年の映画『硫黄島からの手紙』でプロデューサーだったスピルバーグ氏(たった1度だが、撮影現場でお会いした)にはイーストウッド監督とともに「日本人目線の作品」を生んでくれたという恩がある。その恩に少しでもお返しができるなら、という思いもある。

なので『フォーリング スカイズ』の日本市場への紹介の一翼を担うということは、非常に光栄で、嬉しいことだった。

『フォーリング スカイズ』は、ドラマ作りに定評のあるTNTネットワークが、スピルバーグ氏率いるドリームワークスのテレビ製作チームと手を組んだ作品だ。全米の初放送では、視聴世帯数591万世帯を記録し、2011年のケーブル局のドラマでは堂々トップとなった。
日本では早々と、BSのハイビジョン映画専門局であるスター・チャンネルが今春放送を開始。そしてワーナー・ホーム・ビデオからブルーレイ&DVDがこの夏に発売され、レンタルも同時にスタートした。
米国ではシーズン2が現在放送の真っ直中で、シーズン1以上にその評価が高まっている。すでに"シーズン3"の製作決定もニュースとして発表された。

なぜ、『フォーリング スカイズ』は人気を維持できているのか?

「スピルバーグ作品」とひとことに言っても、その作風はタイトルによって非常に異なる。皆さんは、"スピルバーグ"と聞いて、どの作品を思い浮かべるだろう?
『ジュラシック・パーク』?『インディ・ジョーンズ』?『宇宙戦争』?
それらの、サマームービー的なジェットコースター映画を連想する人は、『フォーリング スカイズ』を見て、面食らうかもしれない。
また、『ET』や『A.I.』や『戦火の馬』のような、美しい要素の強い、映像作品を待ち望んでいる人は、その期待を裏切られることもあるかもしれない。

このシリーズは、パニック作品とも、アクション作品とも、ファンタジー作品とも違うのだ。

前述した通り、このシリーズは「ドラマのTNT」が作っている。描かれているのは人間ドラマだ。危機に直面した人間たちや、目標に突き進む人間たちの、関わり合いに力点が置かれている。
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スピルバーグは、娯楽作品の王様である一方で、こだわりの強いリアリストでもある。『シンドラーのリスト』『ミュンヘン』『太陽の帝国』といった作品群を思い浮かべて頂ければ、彼のもう一つの持ち味がよくわかるだろう。

実は、『フォーリング スカイズ』のトップクリエーターは、アカデミー賞受賞作『プライベートライアン』の脚本を手がけたロバート・ロダットだ。今回のシリーズのオリジナルの脚本も、彼の手によるものだ。
そのことを踏まえれば、『フォーリング~』で彼らが描きたいものは、たとえ宇宙人を扱ったSF作品であっても、"宇宙人"そのものや痛快アクションではないであろうことがよくわかる。

裏切りや喪失は突然に起こるが、愛や友情が芽生える様子にはゆっくりと触れ、日々の戦闘に気持ちを奪われる人々の心象やキャラクターの成長の過程を、長いシリーズであるからこそ、丁寧に表現している。
そして、地球を支配したエイリアンたちの側に、侵略意図、個々の感情、性格的特徴、といった面を与えるという、「宇宙戦争」などのような2時間前後のSFパニック映画では不可能だったアプローチにも、本シリーズは挑戦した。

もうひとつ特筆すべき点は、人間ドラマを重視しながらも、敵対するエイリアンたち(宇宙生物)の造形の制作に関して、決して手を抜かなかったことだ。
CGを駆使した高度の映像技術と、人的に操作するマペット技術の巧みな融合で、『ジュラシック・パーク』で僕らが恐怖におののいたような迫力とグロテスクさをファンに提供し、喜ばせている。
同じスピルバーグ製作総指揮の『テラノバ』も巨費を投じた力作であったが、『テラノバ』に登場した恐竜たちの量感や動きと比べれば、『フォーリング スカイズ』のエイリアンたちの臭い立つようなおぞましさやリアルなスピード感や重みに、軍配が上がる。

「物語」というものは、"敵"や"ライバル"が、強烈に、魅力的に描かれているほうが、面白くなるものだ。その点でも、『フォーリング スカイズ』は成功したと言っていい。20120729_o03.jpg

つまりこの作品は、いわゆる"宇宙侵略モノ"と言っても、大人の鑑賞眼に堪える作りで制作されているのだ。1シーズンが全10話で、短く構成されているので、撮影後の編集/音響/VFXなどのポストプロダクションに割かれる時間も長い。それだけ、プロデューサーや監督らのこだわりを貫ける環境が整っているということだ。

その他の《成功要因》は、僕がこれまで執筆したプレスリリースにテーマ毎にまとめられているので、どうかネット検索して読んで、ドラマを楽しむための一助にして頂きたい。

本シリーズの第1シーズンは、壮大なストーリーの序盤である。
しかし、贅沢に凝った「序盤」であり、驚きの結末も用意されている。
第2 シーズン、そしてその次へと、さらに進化し続けるこのドラマに「SFや宇宙モノは普段あまり見ない」という海外ドラマファンの皆さんも、どうか注目してみて欲しい。

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