このコラムの前編では、洋画や海外ドラマの配給会社による近年の宣伝手法の問題点やジレンマについて触れてきた。

但し!
日頃アメリカの業界から出演作を世に送り出すことに取り組んでいる立場の僕(俳優)は、配給会社や宣伝会社の広報やPRの担当の方々を応援するために今回のこのコラムを執筆している。

そこで後編では、これから書くアイデアがどれほどお役に立つかは未知数だが、(たとえそれが浅はかな素人考えであっても)一つの宣伝戦略を提案したいと思っている。

近年、配給会社にとって、外国作品のPR(情報の普及)が、徐々に難しくなってきている事実がある。
特に、地上波のテレビにおいて、その難しさが増しているのだが、読者の皆さんはお気づきだろうか?

どういうことなのか、説明しよう。

インターネット勢力の台頭以来、テレビ業界はCM広告費の減少に苦慮している。これまでCM枠の売り上げで番組製作を続けてきた各局は、その不足を補填するかのようにイベント事業や映画製作事業やなどに力を注いできた。

テレビ局の映画製作事業とは〈自社が放送するテレビドラマの映画化〉が主となるビジネスだ。

自局で作ったドラマが土台なので、権利問題が複雑でなく、すでによく知られたコンテンツなので観客を動員し易い。
キャラクターなどのコンセプト(性格、背景となるストーリー、衣装デザイン)を"0" から生み出さないで済むので、時間と予算の節約にもなる。
配役のキャスティングも、ほとんどドラマのままで進められる。元々のスタッフがいるので、撮影のための人材確保も、通常の映画製作に比べれば速やかに進むだろう。
そしてもちろん、自局主導で製作するのだから、興行収入は自社を含む製作チームや製作委員会を潤すことになる。

非常に手堅く効率の良い "邦画ビジネス" 収入モデルを、テレビ局は生み出したと言える。

さて、一つの問題は、
このテレビ局発の "邦画ビジネス" の躍進によって、洋画や海外ドラマの〈輸入買い付けや配給ビジネス〉が、情報発信の壁に直面している点だ。

テレビ局は、自社製作の映画(=商品)を売るため、社運を賭けた宣伝戦略を大きく展開するようになった。

◆ 自局の情報番組で、その話題を頻繁に取り上げる。
◆ バラエティー番組やスポーツ番組、時には報道系の番組にも、自社映画の出演キャストをゲストとして登場させる。
◆ その映画のためだけに特番さえ編成することが可能。
◆ CM枠でも、自社映画の予告スポットを頻繁に流すことができる。

一方で、
洋画や海外ドラマの配給会社は、テレビにCM広告を流すためには、たとえば人気のゴールデンタイムであれば(番組によって上下するが)、15秒のCM枠を100万円単位の値段で買わなければならない。
何度もCMを流し、一般観客層に作品を認知させるためには、相当な宣伝予算をかけなければならないのが実状だ。

以前は、テレビの情報番組などで洋画の宣伝コーナーに多くの時間が割かれたり、映画賞を受賞した優れた作品であれば様々な番組で積極的に紹介もされていた。しかしここ10年間ほどは、その"積極性"は、自社製映画の宣伝に向くようになったため、海外作品の話題が割り込む隙は減っている。

コラムの前編にも書いたが、人間には、日頃からよく目にし、耳にするものに対し、より親近感を抱き、好意を寄せ易くなる性質がある。人は、見知らぬ商品よりも、よく見知った商品に安心感を抱き、手にする傾向が強いということだ。

テレビ局主導の映画が商業的成功を収める一方で、日本の独立系映画や、洋画、海外ドラマの情報が一般視聴者たちに向け容易に行き渡らないのは、上記のような時代&ビジネス事情の背景がある。

さて、本題の《提案》に話を移そう。

日本では「海外ドラマブーム!」と言われ、次から次へと作品が放送されたり、販売されたりするようになった。日本人が注目しているハリウッドや他国のドラマの数は、史上空前の多さだと言っていいだろう。

しかし、これだけのブーム、熱気、需要があるにも関わらず、地上波のテレビで、本格的な"海外ドラマ専門の情報番組"が生まれないのはなぜだろう?

海外ドラマだけではない、目立った洋画専門の情報番組も今は無い。僕が日本にいた頃にいつも見ていた『ショウビズ・カウントダウン』は放送を残念ながら終了した。それと似た系統の番組『シネマ通信』も同様だ。

テレビには歌専門の紹介番組があり、スポーツ専門のニュース番組があり、料理専門の番組があり、旅番組があり、政治討論番組があり、お笑い専門の番組がある。

ならば、

日本のお茶の間に、映画&海外ドラマ専門の、文化的な番組が一つや二つあってもいいのではないだろうか?
存在しないことが不思議なくらいだ。

ニーズは確かにある!!

映画やテレビドラマのハリウッド作品は、アメリカの市場に次いで、日本が最も多く売り上げている。だとすれば、その層に属するファンは、情報や最新映像に餓えているはず。

企業スポンサーが付き難いのか?それともテレビ局そのものが、欧米製作の映画やドラマに対し、関心を失ってしまったのだろうか?

しかし、ファンの注目度は高いはずなのだ。

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ならば、(ここからが提案!!)

洋画と海外ドラマの専門番組を、新たに作ってしまえばいいのではないか!?

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◆いったい、誰が作るのか?

洋画/海外ドラマ配給会社および、販売会社、有料の映画ドラマチャンネルのテレビ局の各社が協力してプロデュース。そして第三者的な制作会社を起用し、制作する。

◆予算は?

上記の各社が、これまでの宣伝手法と費用の使い方を再考し、共同出資する。
たとえば「1時間」の情報番組のうち、出資額の割合によって、出資した会社で放送時間を分配する。
特定の映画やドラマの"特集"を組んで流す場合は、毎週のように"特集枠"を各社が持ち回りで担当する。

◆ 内容は?

映画やドラマの新着ニュース
最新予告編
メイキング
興行成績の全米ランキング
ジャパンプレミアや海外現地のプレミアの模様、等々。

※ 番組の『売り』は、来日したスターや、海外の現地で撮影したスターのインタビューを(一般のテレビで見られるエンタメニュースなどで流れる数分間の短さでなく)15分、20分と大幅に、極力"ノーカットに近い形"で公開する。

◆ CMは?

基本的に、共同各社の作品の宣伝や予告編のみを流す。視聴者は、洋画やドラマのファンなので、CMも含めて楽しみにできる利点がある(※録画しても、CMを飛ばさずに見てくれる)。
場合によっては、一般優良企業のCMを数社だけ挟み込めば、さらなる予算も生まれる。

◆ 放送時間は?

深夜帯か早朝帯。
テレフォンショッピングなどを放送している枠なら、ゴールデンタイムと比べても遥かに安価なはずだ。
映画ファンやドラマファンは、リアルタイムで放送を見るより、むしろ「録画率が高い層」である!! ならば、放送時間がいつでも問題はない。
クオリティーの高い情報番組を作れば、口コミでファンは注目し、録画して見るようになる。
深夜や早朝でも視聴率が上がることがもしあれば、さらに条件の良い放送時間に番組を移行する。

◆ 司会(ナビゲーター)やコメンテーターは?

基本的に、著名人やタレントを起用せず、海外ドラマや映画の専門家や批評家の解説を軸にする。
上記で触れた『ショウビズ・カウントダウン』のようにナレーションだけで番組が進行させる形も可能。

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こういう番組が生まれないものだろうか?

「尾崎くん、簡単に言うけどね、そりゃ難しいよ...」

とお叱りを受けてしまいそうだが、映像ソフトの配給&販売会社の多くが協力することができれば、相当密度の濃い情報番組が提供できるのではないかと、想像は大きく膨らんでいく。

新番組を提供できれば、広告収入を必要としているTV局にとっても新規の利益となり、"Win-Win"の関係となる。

仮に(様々な事情で)、この番組を地上波のテレビで放送することができないことがあっても、衛星放送や地デジ各局で放送したり、CSや有料チャンネルなどの垣根を越えて各社が揃って自局のネットワークでも放送すれば、他社が抱える既存のファンや顧客を将来の見込み客として誘引することが可能なのではないか?
これまで眼に触れることがなかった作品のDVDやブルーレイを購入するきっかけにも、きっとなるはずである。

そのほうが、"旬の"タレントを雇って、プロモーションや会見イベントを実施し、報道陣を集めて、数分間の芸能ニュースを見るであろう不特定多数の視聴者に対し、効果の測定し辛いPRを続けるより、宣伝のターゲットを直接狙えると思うのだが、皆さんはどうお感じになるだろうか?

もちろんこれは、"配給や、宣伝やPR業界に関して素人"である人間の一案に過ぎない。
なので、実際に商品を見て、購入するファンの皆さんにも是非、積極的に考えて頂きたいと思う。

どのような場を通じて、
どれほどの深みの、
誰が発信する、
情報を望んでいるか?

ということを、ファンの皆で、「声」として届けてみてはどうだろうか。

それは長い目で見れば、きっと海外ドラマや洋画を日本国内に普及させようとして奮闘している方達への、
応援の「声」に必ずなるはずなのだから。