ドラマ界の熾烈なサバイバル競争、生き残ったのはどんなドラマか!?~2011年、LAスクリーニングに登場した新作ドラマのサバイバル術を検証

アメリカでは、9月よりいよいよ新シーズンが始まる。今年のLAスクリーニングで登場した新作ドラマのなかにも、秋から放送が始まるタイトルもあり、緊張感が高まっている。

はたしてドラマ界の熾烈なサバイバル・バトルに生き残るドラマはどんなドラマなのか。
昨年のLAスクリーニングに登場した全38タイトルを振り返ってみよう。

昨年のLAスクリーニングでは、テレビ界のヒットメーカーJ・J・エイブラムスの『ALCATRAZ/アルカトラズ』、エイブラムスが『ダークナイト』の脚本家ジョナサン・ローランとタッグを組んだ『パーソン・オブ・インタレスト 犯罪予知ユニット』、そしてスティーブン・スピルバーグの『Terra Nova(テラノバ) ~未来創世記』、オスカー監督ジョナサン・デミによるパイロットや名優ロバート・デ・ニーロ製作のシリーズなど、とにかく話題作のオンパレードで大豊作だった。

しかし、そんなハズレ、ほとんどなしと言われた昨年でさえ、今年めでたくシーズン2に更新できたのは38タイトル中、19作品。サバイバル率は50%だ。

生死を分けた境目には何があったのか、生き残った作品と脱落した作品のサバイバル術を検証してみよう。

POINT1:リーダーの存在感
物語を引っ張るのは誰か?

<生き残り組>
20120914_c01.jpg■主人公が明確で、しかも魅力的!
映画俳優・女優の存在感を上手に活かし、この俳優以外は考えられないという、唯一無二のリーダーを作り上げている。
・クレア・デインズ主演のサスペンス『HOMELAND/ホームランド』
・ズーイー・デシャネル主演のコメディ『New Girl ~ダサかわ女子と三銃士』
・ジム・カヴィーゼル主演のサスペンス・アクション『パーソン・オブ・インタレスト 犯罪予知ユニット』

<脱落組>
■チームワークで勝負したのもの......。

アンサンブル・キャストの利点は、物語の幅を広げること。
サイドストーリーを同時に走らせれば、長く続いてもネタが尽きることがないという利点がある。同じく映画女優クリスティーナ・リッチが出演する『PAN AM/パンナム』は、華やかな女性キャストたちによるアンサンブル。超大作『Terra Nova(テラノバ) ~未来創世記』も主人公を立てるというよりも、様々なキャラクターがそれぞれにストーリーを持っている。しかも恐竜という"裏"の主役あり(いや、存在感から言ったらむしろ"表"の主人公!?)で、にぎやかだったのだが...。

POINT2:闘う武器
ドラマの"武器"とは、つまり"物語の設定/主人公の設定"。
魅力的なほど、強力な武器となる。数多くのドラマが世の中に出回っているが、それでも新しい"武器"開発していくのがアメリカドラマ界のすごいところだ。

<生き残り組>
20120914_c02.jpg■"武器"を操るのは主人公!
犯罪捜査モノは毎年登場する人気ジャンル。かなり多彩な"武器"が出揃っている。
・『パーソン・オブ・インタレスト 犯罪予知ユニット』:犯罪を予知して犯人を成敗していく必殺仕事人。
・『アンフォゲッタブル 完全記憶捜査』:見たものをすべて記憶するという驚異的な記憶力を持つ主人公が事件に挑む。
・『GRIMM/グリム』:グリム童話をモチーフにグリム兄弟の末裔である刑事が、不可思議な事件を解決していく。
・『Perception』:エリック・マコーマック(『ふたりは友達? ウィル&グレイス』)が主演。神経科学の権威としてたぐいまれな人間心理の知識と洞察力を買われFBIのアドバイザーとなる。『THE MENTELIST メンタリストの捜査ファイル』とかぶりそうでかぶらないのは、主人公が統合失調症を抱えており、他の人には見えない幻覚にさいなまれながら事件を解決していくという設定があるからこそ。

主人公が特殊な能力という"武器"を持ち、敵(事件・犯人)に挑んでいくというのが共通している。犯罪ドラマ以外にも、高評価を得たドラマに『Necessary Roughness』がある。こちらはセレブ専門の心理カウンセラーが主人公。実在するカウンセラーをモデルにしたシリーズで、セレブたちの意外な悩みなどを引き出していくのが面白い。このシリーズは、放送開始後すぐにシーズン2の更新が決定。現在、シーズン2が放送されているが、相変わらずの好調ぶりだ。

<脱落組>
■設定勝負で挑んではみたが...
『MAD MEN マッドメン』に続けとばかりに、時代モノで挑んだ『PLAYBOY CLUB』。スキャンダラスな世界が展開すると思いきや、凝ったのは衣装とセット...。しかもこのタイトルの割にはあまりにもエロくない...ということで昨年、ダントツの速さで打ち切られてしまった。その他、『チャーリーズ・エンジェル』のリメイク版もやっぱりエンジェルなのに華やかさがイマイチということで終了。

シーズン1で終了してしまったものの『アウェイク ~引き裂かれた現実』は非常によくできた作品。夢と現実、二つの世界で展開する事件が相互に絡み合い...という設定は面白いが、その設定に主人公が振りまわされていくという、いわば丸腰状態。彼の悩みが解決すれば物語が終わってしまうのでやはりシーズン2への更新は厳しかったのだろう。反対にこのような作品はシーズン1だけでも満足して楽しめるかもれない。

また設定という意味では、『ALCATRAZ/アルカトラズ』が昨年ダントツの注目度だった。アルカトラズ島というドラマティックな設定は飛びぬけて魅力的だ。とはいえ、やはりこちらも主人公が、謎に振りまわされていく受け身キャラ。同じJ・J・の作品ながら、能動的な主人公の『パーソン・オブ・インタレスト』とは対照的な結果となってしまった。

POINT3:ミッション達成への期待
『LOST』の最終回、そして『フラッシュフォワード』の傷跡はまだ癒えていないようだ。最近のドラマシリーズでは「どう終わらせてくれるんだ」というミッション・コンプリートに対する期待値が高くなっている。以前なら仕掛けをちりばめておくのは、「これからどうなるんだろう」という期待感を高めたが、最近では「これ、散らかしっぱなしで終わりそう...」と思われる傾向がある。

<生き残り組>
■「1シーズンで、一つのミッションを解決します」宣言
最近、成功しているのが1シーズン完結とするドラマ。それで成功したのが、ミュージカル青春ドラマ『SMASH』とファンタジー・ミステリー『Once Upon A Time』だ。『SMASH』は一つの舞台を1シーズンで作りあげ、『Once Upon A Time』は一つの大きな謎を1シーズンで解決する。そして次のシーズンにはキャラクターをそのままに、新たな舞台、新たな謎へとつなげてく。続きものなのでハマりつつ、同時にシーズン1の最後にはちゃんと終わってくれるという保証もあるので、安心して観ることができる。
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<脱落した作品>
■謎が壮大すぎちゃいました。仕掛けを欲張りすぎちゃいました。
前述したとおり、今は『LOST』『フラッシュフォワード』の後遺症が癒し切れていない時期...。あまりにも多すぎる仕掛けは、視聴者をゲンナリさせてしまう。「ああ、また。そうやって思わせぶりな態度をとっておいて、あとで何でもなかったりするんでしょ」と。思わせぶりは通用しないのだ。後々のためにととりあえずの仕掛けが多すぎると、ドラマ自体の無計画性がバレてしまい、視聴者が離れていく傾向にあるようだ。

以上、3つのポイントから生き残り組と脱落組を分類してみたが、ドラマの生き残り合戦は、まさにオリンピック選手レベルの競いあい。評価が高いのに打ち切りになる場合もあるので、打ち切り=駄作というわけでは決してない。

最近では、女性主人公モノが強いと言われているが、確かに女性主人公ドラマの生存率は約6割。それに対し、男性主人公ドラマの生存率3割程度。つまり約7割が脱落した。これは、男性を主人公にした場合、アクションやSFミステリーなど大作になることが多いのでより厳しい数字を求められるということだろう。

その傾向は今年のスクリーニングにも現れており、昨年のような大掛かりなドラマは少なくなる一方で、各スタジオから魅力的なニューヒロインが登場している。はたして今年、生き残るのはどのドラマなのだろうか? そして、日本に上陸するドラマは? ドラマのサバイバル競争という、もう一つの"リアリティ・ドラマ"も、ぜひ楽しんでほしい。

Photo:『HOMELAND』
(c)2011 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
『Person of Interest』
(c)Warner Bros. Entertainment Inc.
『SMASH』
(c)2012 Universal Studios. All Rights Reserved.