【ネタばれ】『ゲーム・オブ・スローンズ』ジャンケットレポート

2月27日(水)、英・ロンドンで開かれた、スター・チャンネルで放送中の大ヒットドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』"シーズン2 インターナショナル・プレス・ジャンケット"という取材イベントに参加した。

米HBO製作、世界140の国・地域で放送され、DVDの売上もドラマ部門で2012年全米トップと、世界が熱狂している本シリーズ。それを証明するかのような出会いが、早くも成田へ向かう京成線であったことにまず触れたい。東京に観光で訪れ、これからオランダへ帰るという20代半ばとみられるカップルとたまたま会話を交わしたところ、偶然にも男性の方が『ゲーム・オブ・スローンズ』の大ファンだという。彼は原作は読んだことがなく、TVシリーズだけ楽しんでいるそうで、さらにレギュラー放送で次回まで1週間待つのが苦痛だからと、DVDが発売されるまで我慢して、BOXセットを購入して一気に見るのだそうだ。人それぞれ楽しみ方があって、なかなか面白いと思った。幼少から英語を学んでいるヨーロッパの国だけあって、オランダでは字幕・吹替えなしのオリジナル言語版で放送されているという。それでも本国アメリカと、数日遅れでスタートするイギリスより若干遅れて放送されるという大陸側ヨーロッパの国々では、一刻も早く番組を見ようと、不正ダウンロードが後を絶たないという話も聞いた。

ロンドン到着後、駅前の書店に立ち寄ってみると、すでにペーパーバックになった原作5巻がヒット作の棚に陳列されている。若者に人気のエリア、コベント・ガーデンにあるキャラクター・ショップでは、マニアにはたまらない『スター・ウォーズ』グッズや人気アメコミ・キャラクター商品と肩を並べて『ゲーム・オブ・スローンズ』のコーナーが幅を利かせ、ロンドンっ子の間でも番組の人気が浸透していることを実感した。DVDショップでは、3月4日のシーズン2 BOXセットの発売を控え、シーズン1のDVDはどこも売り切れの状態だ。

そして、いよいよジャンケット当日。人気観光スポット"ロンドン・アイ"のテムズ河を挟んだ対岸にある高級ホテルが会場だ。受付を済ませプレス控室に入ると、すでに多国籍の記者たちの熱気で部屋が息苦しいほど。HBO担当者によると、ヨーロッパ、南米からの記者を中心に約50人が、シーズン2の取材のために各国から集まっているという。英語のほかフランス語やスペイン語などが飛び交い、原作をすべて読んだと話すオタク風の男性から、静かに新聞を読みふけっている白髪のベテラン記者、丸太のような太い腕に大柄のタトゥーを施したヘビメタ系の男性など、エンタメ記者は本当に風貌も多様で見ていて面白い。今回はもともと紙媒体向けの取材機会だったため、控室にいた記者の大半が3つのグループに分かれ、同じく3つのグループに分かれたキャスト陣のグループ取材に向かうため別室へ誘導されて行った。

筆者を含む、残りの10人ほどがTV取材目的の記者たちだ。それぞれ単独で6人のキャストにインタビューすることになっている。別室に用意されたインタビュー用セットに、キャストの用意が整うと順次名前を呼ばれ、一人5分という非常に短い時間を与えられる仕組みで進められた。

(次から、シーズン1,2のネタばれが含まれます。ご注意ください)

筆者がまずインタビューしたのは本作イチのイケメン、ジェイミー・ラニスター役を演じるニコライ・コスター=ワルドー。黒い長袖シャツにトレードマークの金髪を無造作にセットしたカジュアルな出で立ちで、とても気さくに会話を運んでくれた。クロアチアでキングス・ランディングのシーンを撮影するクルーや、アイスランドで撮影するナイツ・ウォッチのクルーなど、いくつかのクルーに分かれて別々のロケーションで撮影が進行する本作。シーズン1終盤でスターク家の捕虜となったジェイミーは、北アイルランドのベルファストでシーズン2を撮影したそう。各クルーが全く別の場所で撮影したものが、ポスト・プロダクションなどを経て一つの完成品になる。「僕たちが撮影したそれぞれの映像に完璧なCGIが加えられてこれだけのスケールの世界が描かれているのを初めて目にする時は毎回息をのむほど感動する」という。また、名優チャールズ・ダンス演じる父タイウィン・ラニスターを中心とする、ラニスター家の複雑な父子関係、姉弟関係が「この物語を非常に興味深いものにしている要素の一つで、それを演じるのを役者としてとても楽しんでいる」と話してくれた。

二人目はキャトリン・スターク役のミシェル・フェアリーだ。シーズン1終盤で夫ネッドを亡くし未亡人となったキャトリンは、挙兵した長男ロブを援護する重要な役回り。芯の強い女性という点でキャトリンと共通したイメージのミシェルは、彼女が演じ分けるジョン・スノウに対する強い憎しみについて「本作に登場する女性キャラクターはみんな強い女性ですが、それぞれに欠点や短所も描かれている。キャトリンの場合は、本来なら不貞を働いた夫に向けるべき憎しみを罪のないジョンに向けてしまっている。彼女はそれが間違いだと自覚しているが変えられず、常に自分の中で葛藤している」とコメント。シーズンが進み、もしウェスタロスに更にエキゾチックな場面が出てくるとしたら、日本でのロケもあり得るかともちかけると、「素晴らしいアイデアね!コスチューム・デザイナーが様々な国の文化を参考にして融合させているから、日本の文化も取り入れていく可能性は十分あると思うわ」と陽気に答えてくれた。

三人目は、ナイツ・ウォッチのおデブさんといえば分かるだろうか、ジョン・スノウの親友的存在サム・ターリーを演じるジョン・ブラッドリーだ。まだまだ無名の彼だが、マンチェスターの演劇学校在籍中にオーディションを受けサム役を獲得したという。ジョン・スノウ役のキット・ハリントンとは、お互いサッカー好きで趣味も合い、実生活でもバディ的な仲だという。壁の向こうに出た彼らの身にシーズン2で何が起こるのか、ぜひ注目して欲しい。

シーズン1から続投組、最後のインタビューは、サンサ・スタークを演じるソフィー・ターナーだ。シーズン1では婚約者によって目の前で父が処刑され、その冷酷な王子から逃れられない哀れで純な少女を演じた彼女も今や17歳。素顔のソフィーはとても明るく陽気なティーネージャーだった。作品の中ではやりたい放題のドラ息子ジョフリー役を演じているジャック・グリーソンとの共演について聞くと「みんな信じられないって言うけど、キャストの中で一番と言っていいくらい良い人なのよ」と笑う。権力に固執するジョフリーの母サーセイ役のレナ・ヘディについては「とても面白い人で、いつも笑わせてくれる。お芝居の経験の浅い私を導いてくれるし、彼女からたくさん学んでいる」と舞台裏を明かしてくれた。

次は、シーズン2から出演するキャスト2名を紹介する。

シーズン2から登場する新しいキャラクター"ブリアン"を演じるグウェンドリン・クリスティー。191㎝もあるという長身の彼女は、オーディションでブリアン役に要求された、長身で屈強な女性剣士の素質に「完璧だ」と評価され役を獲得したそう。兄亡きあと玉座を狙うレンリー・バラシオンの女護衛としてシーズン2で強烈なインパクトを残している。ぜひ注目して欲しい。

そして、同じくスター・チャンネル放送作品で欧米で大人気の英国ドラマ『ダウントン・アビー』シーズン1でメイドのグウェン役を演じたローズ・レスリー。彼女も『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン2から加わる新顔だ。ジョン・スノウらナイツ・ウォッチが守る"壁"の向こう側に住む"ワイルドリング"と呼ばれる野人の一人、イグリット役を演じている。『ダウントン・アビー』から『ゲーム・オブ・スローンズ』と、いま最も注目されている二つのTVシリーズの両方に出演した感想を聞いてみると、「こんなことになるとは全く思っていなかった。ラッキーとしか言いようがないです」と謙虚な彼女。控えめのグウェンとは正反対の破天荒で挑発的な女性イグリットを演じるにあたり、「役をゲットしてすぐに原作を読んで準備した」そう。素顔のローズはどちらかというとグウェンに近く、とてもチャーミングな女性だった。ナイツ・ウォッチに入る際に女性との関わりを絶つ誓いをしたジョン・スノウを極寒のアイスランドの雪景色の中でイグリットが挑発する二人のシーンは必見。

製作総指揮のデヴィッド・ベニオフとD・B・ワイスが現場で随時脚本に手を加え、原作にある一説を省いたり逆に原作にはない部分を加えたりすることも多いという。そのため、どのキャストも役作りや準備目的で原作を読んではいるものの、あまり先の巻まで読むことは敢えてせず、あくまで脚本が命、原作本はストーリーや役柄の背景を知るために引用する"バイブル"的なものになっているそうだ。原作を読んでいない人も読んだ人も本作を楽しめる理由はそういったところにもあるのかもしれない。

大人向けダークファンタジー・ドラマと呼ばれる本作がここまで世界中でヒットしている理由についてソフィー・ターナーは「常に魔法が飛び交うようないかにものファンタジーではなく、複雑に入り組んだ人間ドラマが核にありその周りにマジックが添えられているのが本作の魅力」と見る。非常にリアルで現実の世界にもあてはめられるような人と人の駆け引きや感情が中心に描かれているうえに、ファンタジー要素で一時の現実逃避もできるから、これだけ多くの人を惹きつけているのではないだろうか。また、「絶対誰も作れないだろう」とジョージ・R・R・マーティンが原作で思い描いた世界をこれほどまで忠実に、あるいは想像以上のものをTV用に作り上げ、壮大なスケールでディテールにまでこだわった製作。そしてそれを実現させるだけ出資することにコミットしたHBOの功績によるものと言えるだろう。

前述の製作総指揮の二人は「第8シーズンまでやりたい」と明言している。製作・脚本にも参加している原作者のジョージ・R・R・マーティンも「エンディングは決まっているが、そこにどうたどり着くかは分からない」と発言するなど、本作の製作に関わり過ぎて続編の執筆が遅れていることが報じられているほどだ。一体誰がどのように玉座を手に入れるのか、当分目が離せそうにない。

取材終了時にお土産にもらった"バイブル"5冊、帰りの機内で読んでみようと思う。

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