『GRIMM/グリム』日本上陸記念!童話ベースのファンタジードラマが今注目のワケ

アメリカエンタメ界はファンタジー全盛期を迎えている。もともとファンタジーはアニメのお家芸だが、現在は、実在の俳優による演技とCGを組み合わせた《ライブアクション・アニメ》が中心。『ハリー・ポッター』『ロード・オブ・リング』など、2000年代のファンタジー映画は軒並みシリーズ化。

一方、TV界のファンタジー熱は『トゥルーブラッド』『トワイライト』シリーズに始まる「第4次ヴァンパイアブーム」の影響でゼロ年代後半に加速。『ヴァンパイア・ダイアリーズ』『ビーイング・ヒューマン』リメイク版に続き、今秋にはジョナサン・リース=マイヤーズ主演の『Dracula』、『ヴァンパイア・ダイアリーズ』のスピンオフ『オリジナルズ』も放送予定で、ブームはまだまだ継続中だ。

いまやファンタジー要素を盛り込んだテレビシリーズはヴァンパイアものに限らない。最近のメインストリームは、ターゲットを若年層に絞らない「大人の鑑賞に堪えるダークファンタジー」。『ゲーム・オブ・スローンズ』のようにその多くが原作モノで、なかでも注目すべきは《児童文学》や《童話》ベースの作品。

その代表格が、5月に待望の日本初放送が決まった『GRIMM/グリム』。【童話の世界は実際に起こった事件で、グリム童話はグリム兄弟の魔物たちとの戦いの記録だった】という設定のもと、兄弟の末裔で刑事の主人公(ニック)が、今も現代人間社会に潜む魔物に立ち向かうサスペンスファンタジー。
『GRIMM/グリム』放送開始の翌年、2012年は「グリム童話」第1巻の初版発行200年というメモリアルイヤー。それもあって映画界では『スノーホワイト』『赤ずきん』『白雪姫と鏡の女王』など、グリム童話原作の映画が相次いだ。さらに今年3月には、イギリス童話「ジャックと豆の木」が原作の『ジャックと天空の巨人』やボームの児童小説「オズの魔法使い」を下敷きにした『オズ はじまりの戦い』が公開。『GRIMM/グリム』と同時期に全米で放送スタートしたTVシリーズ『ワンス・アポン・ア・タイム』も、「白雪姫」「ピノッキオ」「不思議の国のアリス」などの有名なおとぎ話をモチーフに人気を博していて、《童話原作モノ》のムーブメントは今後さらに拡大しそう。

●《童話》=TVドラマに最適な素材!?

振り返ってみると『バフィー ~恋する十字架~』や『チャームド ~魔女3姉妹~』など、グリム童話モチーフのエピソードを持つドラマは多い。アイデア自体はそれほど目新しくないのに、さまざまな手法で作り続けられるのは、童話がクリエイターにとってそれだけ挑戦しがいのある題材だからといえそうだ。

200年も読み継がれているグリム童話は世界的ベストセラー。みんなが知ってる元ネタをどう料理するか、作る側にしてみればチャレンジングであると同時に腕の見せどころ。舞台を現代に置き換えたり、新解釈を加えたり、最新CGを駆使したり。観る側にとっては元ネタ探しだけでなく、製作陣が仕掛けるトリックに挑み、演出意図を深掘りする楽しみも。加えて、グリム童話は出版されたものだけで200話以上、70歳で没したアンデルセンも160話以上と多作。しかも一篇一篇が比較的短い。つまり童話には「一話完結ドラマの原作のストックが豊富にある」ということ。毎週新エピソードを作らねばならないTVにはもってこい。

また、「古典童話のオリジナルは、かなりエログロで子ども向けとはいえない内容」というのはよく知られた話。大人になって読み返して初めて意味がわかるストーリーも少なくない。その点からみても古典童話、特に「ホントは残酷」ともっぱら評判のグリム作品は、TV界のトレンドである"大人も楽しめるダークファンタジー"にぴったりのテーマといえる。

●なぜ今《ファンタジー》《童話》が大人ウケするのか

本来、子ども向けとされる童話だが、不条理な話も珍しくない。たいていの場合、欲張りや怠け者・嘘つきはひどい目に遭い、勤勉な正直者は報われる。イヤな奴には生ぬるいお仕置きじゃなく、鳩に目をえぐり取られる・焼けた鉄の靴で死ぬまで踊らされるなどの悲惨すぎる罰が待っている。勧善懲悪というより因果応報。なんかスッキリ。マジメに生きるだけではどうやら幸せになれそうもないこの世の中で、もやっと感じる不公平感。それを和らげてくれそうな気がするのも、童話原作モノが大人に支持される理由の一つかもしれない。

主人公が突如「自分が何者であるか」を知らされ、物語(冒険)が始まる・・・というのはファンタジーの定石。実は「代々続く魔女の家系」だったとか「世界を救う使命を負っていた」とか「生まれながらに特殊能力がある」とか。まさに『GRIMM/グリム』のニックはこのケース。ある日、人間のフリをした魔物の正体を見抜く力に目覚め、その矢先に「自分がグリムの末裔で、モンスターと闘う運命にある」と知らされる。・・・実は、このファンタジードラマ鉄板の設定にも、オトナを惹きつける要素が!?

若い頃はみんな、自分を「特別」だと信じたいもの。だが、いつしか凡庸でありふれた存在であると自覚する。――でも、そんな自分が「選ばれし者だ」と知らされたら? 平凡な日常やつまらない常識から解き放たれ、未知の世界に放り込まれたら? 闇の力に屈しそうになりながらも使命を全うしようとする主人公。その姿に自分を重ね、夢には見たが実現しなかった「ドラマティックな別の人生」を妄想する。
ファンタジードラマは、一日の終わりに飲むとっておきのワインのようなもの。ストレスフルな毎日をリフレッシュし、妄想パワーをチャージしてくれる。とはいえ、飲みすぎには注意。ファンタジードラマがもたらす甘い現実逃避から抜け出せなくなるかも!?

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