【お先見】連続猟奇殺人犯ハンニバル・レクター博士の正体はいつFBI捜査官に見破られるのか!? 背筋が凍るサイコ・スリラー『Hannibal』

作家トーマス・ハリス原作の小説シリーズに登場する精神科・心療内科医でありながら連続猟奇殺人犯でもあるハンニバル・レクター博士。映画『羊たちの沈黙』『ハンニバル』『レッド・ドラゴン』でレクター博士を演じたアンソニー・ホプキンスは、あまりにも印象が強烈過ぎて今でも私の頭の中で数々のシーンがよみがえる。特に『羊たちの沈黙』のレクター博士の不気味さと言ったら、夢に出てきて脅かされたくらいだ。恐いものみたさで映画を何回も観続けた末、ジョディ・フォスターが演じたFBI訓練生のクラリス・スターリングになった私の耳元で「クラリ~ス!」と鉄格子の中から呼びかけるレクター博士の声で眼が覚める...なんて変な夢も以前に見たな~。

米NBCの話題の新ドラマ『Hannibal』は、原作シリーズをTVドラマ用にアレンジして脚本化したサイコ・スリラーである。

まずストーリーの中心となる3人の出演者について少し述べると、今回ハンニバル・レクター博士役を演じるのはデンマーク出身のマッツ・ミケルセン。いろいろな映画に出演しているが悪役を演じて印象に残っているのは『007 カジノ・ロワイヤル』のル・シッフル役、『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』のロシュフォール隊長役だろうか。しかしあれらの役柄は冷酷であっても正統派の悪役であり、「人喰いハンニバル」のようなサイコパス・シリアル・キラーではない。その違いをどのように彼が演じるか興味がある。「ハンニバル・レクターと言えば、アンソニー・ホプキンス!」のイメージに対して、どれだけ違った印象を視聴者に持たせるかもポイントだ。そして『レッド・ドラゴン』でエドワード・ノートンが演じたFBI特別捜査官ウィル・グレアムを今回演じるのはヒュー・ダンシー。私生活では妻クレア・デインズとの間に息子が誕生したばかりで、幸せいっぱいの様子がインタビューなどでもうかがえるが、今のところ『HOMELAND』のキャリー役で大活躍中のクレアのほうが俳優としては彼よりも何歩も前進している。今回のウィル役で、クレアに匹敵するような演技をどう見せてくれるか楽しみだ。

さらに『CSI:科学捜査班』シーズン11でレイモンド・ラングストン役を降板してから初めてドラマにレギュラー出演するローレンス・フィッシュバーンが、FBI行動科学課主任ジャック・クロフォードとして登場するのも注目だ。

少しだけエピソードを紹介したいと思う。ヴァージニア州クァンティコのFBIアカデミーで訓練生に教鞭をとるウィルのもとへ、ジャックが「ミネソタ州の8つの大学で8人の女子大生が誘拐され行方不明」という難解事件解決のために知恵を貸して欲しいと訪問してくる。ウィルは想像力豊かだが情緒不安定で社交性に欠け、少々変わり者。人付き合いが苦手なアスペルガーで自閉症と自らも認めている。眼を閉じ殺害シーンを思い浮かべ、あたかも自分が犯人になったように頭の中で行動して、そのシーンを再現して犯人像に近付くウィル。

そして心療内科医として個人セッションで患者の悩みに耳を傾けているレクター博士のもとへも「親しい医者からのあなたのことを紹介された。精神学、心理学的見地から犯人をプロファイルして欲しい」とジャックが訪れる。

ウィル、ジャック、レクター博士で難解事件の犯人像をプロファイルしているときに、初対面にもかかわらず、レクター博士は一緒に数分いただけで「ジ~ッと人の目を見て話すことができない君の性格は...」とウィルの性格をバッチリ分析する。自分が精神分析されたことに対して怒り部屋を出るウィル。後日、犯人を追い詰めた現場にてウィルがとった「ある異常な行動」について疑問が残るジャックは、今後レクター博士にウィルを精神鑑定させることにする。 そこからウィルとレクター博士の個人セッションが始まり、それぞれ彼らの内面が暴かれていく。

この時点ではレクター博士がサイコパス・シリアル・キラーだと分かっている者は誰もいない。

マッツ演じるレクター博士は、表の顔は...いつも三つ揃いスーツとオシャレなネクタイでバッチリ決めて、ダンディで洗練され、知的で物腰もエレガントで料理好き、潔癖過ぎるほどキレイ好き。そして裏の顔は...ハイ! 連続猟奇殺人犯です。でもまだ現時点ではナゾに包まれているその正体。絵を描くことを趣味とするレクター博士が鉛筆を鋭いナイフで削るシーンが画面にアップされたときには、"ヒェ~ッ!"と言う感じ。

他に"恐っ!"と思ったシーンも少しだけ紹介。例えば、被害者の死体をチェックしている検死官が「一度身体から肝臓が抜き取られて再び戻されて裁縫してある。なぜ?」と問うと、ウィルは「"肉"として何か変だったから...」「被害者は肝臓ガンに冒されていた」と発見する検死官。「そう(肝臓ガンでなければ)犯人が食べている...」と再びウィル。そこでシーンは変わり、半分に割られた果物のザクロが映って、レクター博士が半生レバー・ステーキを美味しそうに食べるディナー・シーンが...!思わずゾ~ッと背筋が凍るシーンでTVコマーシャルヘ(笑)。ちなみにこのドラマ、レクター博士が自ら肉を調理して食事するシーンが多い。エピソードのタイトルも、第1話Apéritif(食前酒)、第2話Amuse-Bouche(食前の一口サイズおつまみ)、第3話Potage(ポタージュ・スープ)と、すべてフランス料理から命名されている。

さて米国には、①誰もが無料で視聴できる5大ネットワークTV局 ②契約料を払って視聴するケーブルTV局 ③さらに高い契約料を払うプレミアム・ケーブルTV局がある。

①で放送されるドラマは放送禁止用語、ヌード・シーン、ドラッグ使用シーン、暴力的、残虐的シーンなどに厳しい規制がある。(例えば『クリミナル・マインド FBI行動分析課』
②のドラマは①より制限がゆるい。(例えば『ブレイキング・バッド』
③のドラマはハッキリ言って無制限。禁止Fワード、全裸シーン、殺戮シーン何でもOKだ。(例えばデクスター ~警察官は殺人鬼』)

今回このドラマが放送されるNBCは①に該当するTV局なので、開始前はどれだけビジュアル的にショッキングなシーンを放送できるか私には疑問だったが、毎回開始前に観賞注意! と警告が入るくらい放送コードぎりぎり描写が多く、血ドバ~ッの不気味でグロテスクな殺害現場シーンはもちろん、沢山のキノコが茂る森の中から手がニョキ~ッと何本も出てくる異様な死体発見現場シーンなどもしっかり盛り込まれている。

今この記事を書いている段階では、まだ13回放送予定中で3回しか放送していない『ハンニバル』。レクター博士を診断する精神科医にジリアン・アンダーソン(『Xファイル』)も今後登場する。果たしてどのように「シリアル・キラーでありながら人を魅了するカリスマ性を持つ」レクター博士の正体が見破られていくのか!? 興味は尽きない。