ケヴィン・ベーコンが、TVドラマで主演をする――これは、結構すごいニュースだったりする。
確かに最近、映画俳優が新たなフィールドを求めて、テレビドラマに出演する機会が増えている。しかし映画スターたちが出演したがるのは、HBOのミニシリーズがメイン。
それ以外でドラマにレギュラー出演するのは映画で重要な役が回ってこなくなった俳優が比較的多い。そしてドラマから映画に進出すると"出世"のイメージだが、映画からドラマにとなると"都落ち"といった雰囲気がそこはかとなく漂う。
しかし、ケヴィンは映画界においても、決して仕事がないわけではなく、毎年2~3本のペースでコンスタントに出演している。しかも、内容に絡む重要な役回りが多い。
そんな現役感たっぷりなケヴィンが主演するというのは、単に"映画俳優が進出したドラマ"とは、意味合いが違ってくる。
安全志向の米ネットワーク局にとって過激な描写を含むサイコスリラーはかなり挑戦的。局の幹部も「ケヴィン・ベーコンが出演してくれたことで、本格ドラマであることはわかる」と『ザ・フォロイング』の成功にはケヴィンが欠かせなかったと語っている。メジャー作品で引っ張りだこの現役の映画俳優が、主演するというだけで「映画のような質感」を期待できるのだ。
映画界で独特の存在感を放つ個性派俳優ケヴィンの魅力を探ってみよう。
■クセ者俳優への軌跡 ~セコくてイタい悪役の新世界!
80年代青春映画ブームの波の中、ケヴィンも青春スターを狙ってブロードウェイから、映画界へ進出し、『フットルース』でブレイクした。
しかし、当時はアイドルスターの全盛期。ちょっと繊細な坊っちゃん系を演じれば、ロバート・ダウニー・Jr、エリック・ストルツなどがライバルとなり、不良少年はフランシス・フォード・コッポラ監督の『アウトサイダー』組やキーファー・サザーランド、さらに若き天才リヴァー・フェニックスなど、人気スターがゴロゴロといた時代だ。
特にリヴァーとは、その容姿がどことなくかぶり「リヴァーをちょっと意地悪くした感じの俳優」なんて比べられ方もした...年齢が10歳以上違うのに...。
しかし、この「ちょっと意地悪くした感じ」が、実はケヴィンの最大の個性になっていく。
いいヤツでもないし、かといってものすごく悪いヤツでもない。
屈折した人間のグレーゾーンを演じる道を開拓していくのだ。
『フットルース』の後、青春映画やラブコメに主演し、それなりに活躍。そのまま若手スター軍団の一人として主演にこだわっていたら、おそらく消えていただろう。
ジュリア・ロバーツ、キーファー・サザーランドたちと共演した『フットライナーズ』に出演した後は、『JFK』『ア・フュー・グッドメン』など社会派作品に意識的にシフトチェンジしていく。
そして『激流』と『告発』――この2本が、彼のその後の道を決定づける。
『激流』では、悪役キャラで強烈な個性を発揮。新たな世界を開拓する。
演技の幅を広げるために、実力派俳優が悪役に挑むのはよくある。
ロバート・デ・ニーロもデンゼル・ワシントンも悪役に挑み、"極悪ぶり"で観る者を震え上がらせた。
しかし!ケヴィンはそういう"極悪"じゃないのだ。
彼が演じるのは、どことなくセコさが漂う人間的な悪役。
心底むかつくし、怖いところもあるが、"ちょっと勝てそう"という隙ありまくりの悪人が絶妙なのだ。
『激流』も絶対メリル・ストリープが最後には勝てそうな安心感がある。
だけど、なかなか勝てない。
この"勝てそうで、なかなか勝てない"ハラハラ感と、
"こいつ自滅しそうだな"という隙を絶妙なバランスでブレンドしているのが、ケヴィンの悪役の魅力なのだ。
愛おしくなるほどセコい。
彼が演じる悪役には、観客に憎まれながらも、どこか親近感を覚えさせる不思議な魅力がある。
ちょっと意地悪そうな個性が、まさかこんな形で活かされるとは!
この先、『ワイルドシング』に『インビジブル』など、さまざまな悪役を演じていくことになるが、作品を重ねるたびに悪役に人間味を加えていく技が磨かれていく。
特にすごいのが鬼才ポール・ヴァーホーヴェン監督作品『インビジブル』。
透明人間になってしまうため、映画にその姿が登場するのが、最初の数十分だけ。
顔も出ないし、悪役だし、そんな役、まともな俳優だったら正直、受けないだろう。
しかも、国家予算を投じ、命がけで透明人間になったら、
のぞき行為や痴漢行為をしまくって(セコい!)、
挙句自分の姿が見えなくなってスネて(なんだそれ!)
周りに危害を加えていくという究極の逆ギレキャラ(イタい!)。
人間臭すぎるセコいの極みとも言える悪役だ。
映画そのものよりも、ケヴィンの顔を見せないが、顔が見えるような、いやらしさ匂い立つ演技が話題になった。
姿は見えなくても、ケヴィンが演じる屈折した主人公の歪んだ表情が想像できるのだ。
セコい上に、イタい悪役をモノにできる俳優はそうはいない。
この作品で、ケヴィンは怪優の称号を手に入れる。
続いて『告発』。
これはアルカトラズ刑務所で行われていた虐待事件を描いた実話モノだ。
虐待の事実が発覚し、刑務所を閉鎖するきっかけになった事件を描いている。
この作品でケヴィンが演じるのは、囚人仲間を殺した罪に問われている男。
そんなに悪い男ではなかったのに、ちょっとしたきっかけで不幸に転げ落ちていった男の哀しみを見事に演じている。
人間の影と痛みを引きずった感じは、後の『ミスティック・リバー』の名演技に通じる。
セコさ(人間臭さ)とイタさ(哀愁)は、最も人間的な部分だ。
誰もが完ぺきではなく、中途半端な自分に悩み苦しみ、どうしようもないことをしてしまう。
そういう愚かさをしっかり役に反映し、味を出していく。
それがケヴィンの俳優としてのすごさ。
彼の悪役には常に揺れがある。
もしかしていいヤツなんじゃないか。
本当はそんな悪いヤツなんじゃないか。
何かどんでん返しがあるんじゃないか。
そう観客に期待させる悪役を演じることができる俳優はそうはいない。
確かな演技力に裏付けされた悪役だからこそ、ケヴィンはいまだに活躍し続けるのだ。
■なぜ、『ザ・フォロイング』だったのか?~妻キーラ・セジウィックの影響!?
ケヴィンは、89年『レモン色の空』で共演したキーラ・セジウィックと結婚。
以来、おしどり夫婦として有名だ。
同世代のスターたちが、なかなか身を固めず、スキャンダルに翻弄されていた中で、しっかり地に足をつけた生活をしていたというのもケヴィンの魅力の1つだ。
夫婦は『告発』でも共演し、お互いを最高のパートナーと称えあっているが、
キーラが活躍するドラマ界にはなかなか一緒に...ということにはならなかった。
そこはやはり映画俳優としてのこだわりがあったらしく、
キーラが主演する『クローザー』でも監督をするのにとどまっている。
とはいえ、ドラマに興味を持ち始めたのも、『クローザー』がきっかけだったという。
ただし、俳優として自分のキャリアを築き上げてきただけに、
遊び半分でゲスト出演などは職人気質のケヴィンらしくない。
自分が納得のいく役があるまでは......と決めていたらしい。
そして2009年、HBOのテレビ映画『Taking Chance』(イラクで戦死した兵士を故郷に運び、弔った中佐の感動の実話)が高い評価を受けると、
ますますケヴィンへの期待は高まり、実際、各局からのオファーは何度もあったという。
ただケヴィンの中では、『24』のジャック・バウワーの二番煎じのような役だけは、絶対にナシだったようだ。
自分はヒーロータイプではない。
だが、映画では悪役が多いので、せっかくテレビに出演するならば、
悪役ではない役がやりたい。
それがケヴィンの望んだ役だった。
そして、ようやく納得したのが『ザ・フォロイング』の元FBI捜査官ライアン・ハーディというわけだ。
完ぺきな正義の味方ではなく、迷い、傷を抱えながら、それでも犯人を追っていくライアン。
哀愁と人間臭さ――まさにケヴィンが得意としているところだ。
しかも、今回は悪役ではない。
青春スターから、個性派俳優へと歩み続けてきたケヴィンが、
今度はテレビという新たなフィールドで、映画とは違ったクセ者ヒーローを演じる。
再起でも、復活でもなく、現役バリバリの映画俳優があえて決めた出演だからこそ、結構すごいニュースだったりするのだ。
個性派俳優のトップ、ケヴィン・ベーコンという存在が選んだドラマ――
それはまさに"映画クオリティ"の最高の保証書。
彼が映画界で培ってきた恐怖、痛み、怒り、哀愁を『ザ・フォロイング』で堪能してほしい。
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『ザ・フォロイング』WOWOWプライムにて
7月9日(火)スタート(全15話)★第1話無料放送★
二カ国語版:毎週火曜 23:00~
字幕版:毎週水曜 深夜0:10~
◆WOWOWでは『ザ・フォロイング』放送記念!ケヴィン・ベーコン特集と題し、『フットルース』『ミスティック・リバー』など、ケヴィンがこれまでに出演した作品を放送します。
Photo:『フットルース』 TM & Copyright (c) 2013 By Paramount Pictures. All Rights Reserved. 『ミスティック・リバー』 (c) Warner Bros. Entertainment Inc. 『ザ・フォロイング』 (c)Warner Bros. Entertainment Inc. (c)Akira Shimada/www.HollywoodNewsWire.net (c)Ima Kuroda/www.HollywoodNewsWire.net (c)Thomas Lau / www.HollywoodNewsWire.net