「CWとはどんなテレビ局?」若い視聴者がターゲットのCW局を深堀り!

アメリカでは現在、5つの主要なテレビネットワーク局が存在します。ABC、CBS、NBCのアメリカ3大ネットワークは有名ですが、90年代以降ブレイクしているFOXを加えて「4大ネットワーク」、そして、新興のCWテレビジョン・ネットワーク(以下、CW)を合わせて「5大ネットワーク」と呼んでいます。今回は、このネットワークビッグ5の末っ子に当たるCWについて紹介します。

―ちょっぴり複雑な過去を持つネットワーク

2006年5月生まれで、人間で言えば8才のCW。長年の歴史と貫禄を誇る4大ネットワークと比較すると、まだまだ若造といった印象がありますが、実は当ネットワークの始まりは90年代初頭にさかのぼるのです。

1993年、ワーナーブラザースとChris-Craft Industriesとが共同で、ネットワーク局「プライムタイムエンターテイメントネットワーク(PTEN)」を開設。CGIを先駆けて使用した大スケールSFドラマ『バビロン5』がヒットし、PTENは4大ネットワークに続く5番手のネットワークとして期待されていました。しかし、ワーナーブラザーズ内部での意見対立が起こり、PTENの運営は次第に難しくなっていきました。一方でパートナーのChris-Craft Industriesは、先行き不透明な当局から手を引くことを決め、同時にパラマウントと提携して「ユナイテッドパラマウントネッワーク(UPN)」を1995年に開局。さらに、ワーナーブラザースも別に「WBテレビジョン・ネットワーク(The WB)」を開局し、PTENはその存在意義を失い、1997年にわずか4年で放送を終了しました。

その後、UPNは、『スタートレック:ヴォイジャー』がシーズン7まで続くなど大ヒットした他、先日映画化が決定した、コアなファンを持つ『ヴェロニカ・マーズ』や、美女たちがトップモデルの座を競って火花を散らすリアリティショー『America"s Next Top Model』といったヒット作品を打ち出しました。しかし、それ以外の作品は長続きせず、視聴者を得るのに悪戦苦闘する状況が続きました。資本企業もころころと変わり、最終的にはCBSコーポレーション傘下の局となりました。

PTENのもうひとつの枝分かれThe WBは、万人に向けてのコメディ作りからティーン・ヤングアダルト向け作品を追求する路線に変更し、日本でも多くの若い海外ドラマファンの心をつかんだ『バフィー〜恋する十字架』、『ドーソンズ・クリーク』、『フェリシティの青春』『チャームド』などのヒットを生み出しました。また、子ども向け番組にも強く、テレビ東京から『ポケットモンスター』の英語版権を買い取って放映し、全米のポケモンブームに火を付け、派生して日本のアニメ文化やサブカルチャー分野のファンを増やすことに貢献したのでした。

しかし、それでも名実共に遥か先を行く4大ネットワークには追いつけず、ケーブルテレビ局との競争も激しくなるばかり。財政困難を極めたThe WBの資本主ワーナーブラザースは、同じ悩みを抱えたUPNを所有するCBSコーポレーションと話し合い、生き別れの兄弟のような関係にあったUPNとThe BWを合併して新たなネットワーク築くことに合意するのでした。

こうして2006年に、UPNとThe BWで放映中のヒット作品(『America"s Next Top Model』『ギルモア・ガールズ』『ヴェロニカ・マーズ』『SUPERNATURAL スーパーナチュラル』など)を引き継ぐ形で、5番手のネットワークとなるCWが開局したのでした。ちなみに、CWはCBSの頭文字Cとワーナーブラザースの頭文字Wを組み合わせてネーミングされました。当然ですが、「WC」とならなくてよかったです。

―視聴者ターゲットはイマドキ女子

紆余曲折を経て誕生したCWには、従来のビッグ4の方針とは異なる点がいくつかあります。まず、全国ネットのニュース番組とスポーツ中継番組がありません。また、週に20時間の放映のうち、プライムタイムのスケジュールは、月曜日から金曜日の20時から22時までの2時間のみと他局に比べて短時間となっています。

そして最も特徴的なのが、ターゲットとなる視聴者の年齢層です。他ネットワークが18才〜49才を最も重要視しているのに対して、CWでは18才〜34才と低い年齢層の視聴者を対象としています。UPNとThe WB時代にティーンやヤングアダルト向け作品で成功したことを踏まえ、低年齢層に受けるドラマやリアリティショーを基本として番組が構成されています。特に、若い女性視聴者を狙った作品によるものが多く、18才〜34才の女性向けチャンネルだと明言しています。

CWの女子向け作品の代表が、NYのアッパーイーストサイドを舞台に、ファッショナブルでゴージャスなお嬢さま&おぼっちゃまのライフスタイルを描いた『ゴシップガール』です。ドロドロした人間関係や恋愛模様の続きを見たくなるだけではなく、主演のブレイク・ライブリーやレイトン・ミースターのハイセンスな衣装にも注目が集まり、社会現象ともなった流行のファッションを次々と生み出した作品です。

90年代に米国のみならず世界的に一世を風靡した『ビバヒル』こと『ビバリーヒルズ高校白書』および『ビバリーヒルズ青春白書』は、FOXで放映されていましたが、その続編『新ビバリーヒルズ青春白書(こちらは略して『新ビバヒル』)』は、CWにてシーズン5に渡り放送されました。オリジナルに比べれば現代らしく少々エッジが効いていますが、年齢を問わず女子が憧れる世界観を表現している点では変わらないソープドラマ。親になったビバヒル世代にも懐かしく、ティーンエイジャーの娘と共に親子で鑑賞する家庭もあったそうです。

『セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)』は日本でもおなじみですが、主人公キャリーの高校生時代の物語『The Carrie Diaries』も今年初めに同局で放映開始されました。オリジナルの『SATC』ファンからは80年代のキャリーに違和感を感じるという声もちらほら聞こえますが、現代の女子中高生たちは「80年代のファッションがダサカワでオシャレ!」と同作品を支持しています。すでに今秋からはシーズン2がスタートの予定です。

―ファンタジーやアクション作品にも強い

TV好き女子を虜にしてきたCWですが、最近では男子ファンの拡大にも力を入れ、アクションものやファンタジー作品を増やして、さらなる視聴者の獲得に努めているのです。その成功例のひとつが、2012年にシーズン1が始まったアクション&スーパーヒーロードラマ『ARROW/アロー』。初回放送では、18才〜34才の男性視聴者が同年代女性視聴者数を上回って、総計視聴者数400万人を越える快挙を遂げました。

DCコミックの「グリーンアロー」が原作の同作品は、ハイソで煌びやかな上流階級のプレイボーイが、孤島で鍛え抜いた肉体と弓矢を操って、裏社会の悪を懲らしめる世直しヒーローとして戦うというストーリー。まさに、アメコミファンならずともヒーロー好きな男子にはたまらず、10月からのシーズン2の開始が待たれています。また、出演する俳優陣がスティーヴン・アメル、ケイティ・キャシディ、ウィラ・ホランドといった美男美女ばかりで、上級社会の暮らしぶりやファッションも垣間みられ、イマドキ女子にも興味津々な作品です。

The WB時代の2006年から現在まで続く人気作品『SUPERNATURAL』も、男子視聴者獲得に一役買っている作品で、不思議なパワーを持つ兄弟が悪霊や妖怪といったオカルト的悪者を退治するというファンタジーアドベンチャー。カルト的に根強いファンのついたこの作品は、今秋にはシーズン9が始まる長寿シリーズです。

また男女を問わずティーンから絶大な人気を誇る、ヴァンパイアの住む町が舞台となる『ヴァンパイア・ダイアリーズ』は、ピープルズ・チョイス・アワードやティーン・チョイス・アワードで数々の賞を獲得しています。この秋からはシーズン5が開始されると共に、オリジナル・ヴァンパイアを中心としたスピンオフ『The Originals』もスタートします。

悲劇の女王として知られている、16世紀のスコットランド女王メアリー・ステュワートの若き日々を綴る時代物『Reign』や、イギリスの同名SFドラマを基にした、スーパーパワーを持つ主人公たちが活躍する『The Tomorrow People』なども、これから始まる新シリーズとして注目されています。飽きっぽい若い視聴者の心をつかんで離さないためにも、ストーリーや舞台の幅を広げて、より新しいジャンルの作品を提供することに余念がありません。

ドラマ以外では、UPN時代から数えると10年も続いている、新たなモデルを発掘するオーディション型リアリティショー『America"s Next Top Model』がCWの看板番組。女子が夢見るモデルの世界への登竜門として、海外でも多くの国がリメイク版を作っています。

とにかくどの作品においても、若者が羨望を抱くような美男美女が登場し、現実とはちょっぴりかけ離れたおとぎ話のようなストーリーが際立つCW。イマドキの青少年から、大人になりたくない、あるいは、大人になりきれない大人まで、薄汚れた現実を忘れて、キラキラした夢のような世界に没頭できるような作品が盛りだくさんのネットワークなのです。

Photo:『ARROW』
『SUPERNATURAL』
『ゴシップガール』
(c)2013 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
『ヴェロニカ・マーズ』
『ギルモア・ガールズ』
(c) Dorothy Parker Drank Here Productions, Hofflund/Polone in association with Warner Bros. Television