スティーヴン・キング作品はなぜヒットする? 最新の話題作『アンダー・ザ・ドーム』で共通項を検証

映画『キャリー』『シャイニング』などはもとより、TVドラマでも『ザ・スタンド』『IT』など、数多くが映像化されているスティーヴン・キングの小説。海ドラファンのみなさんも、これらの作品を一度でもご覧になったことがあるのではないだろうか。アメリカでこの夏、4大ネットワークにて放送された番組のなかで最高視聴率をたたき出し、話題を集めたドラマ『アンダー・ザ・ドーム』も、キングの小説が原作となっている。早くも日本上陸が決まった本作について、キング作品の多くに共通して見られる特徴とヒットの要因を、ざっと検証してみることにしよう。

1)平凡な田舎町が舞台である

『IT』『トミーノッカーズ』『ミスト』などを見てもわかるように、キングの作品は、アメリカの田舎町が舞台になることが多い。そうした町は広大な国土のなかで孤立しがちな環境であり、市民の年収・教育レベルは決して高いとはいえない。そして科学・情報技術が進んだ現代においても、宗教の影響が色濃い小世界となっている。同時に、多くのアメリカ人にとっては身近で、とっつきやすい舞台でもあるのだ。

『アンダー・ザ・ドーム』の舞台となるチェスターズ・ミルは、キング自身が住むアメリカの最東北部メイン州に位置する架空の町で、やはり、平凡な田舎町として設定されている。保安官や、ダイナーを切り盛りするおかみさん、ラジオのDJ、隠居生活をおくるおばあさんなどが、顔見知りとなっているこの町に、ある日突然、異変が訪れる。そのとき、町の人々はどう反応するのか。人間関係はどのように変貌してしまうのか―?視聴者に他人事とは思わせないお話の舞台として、"平凡な田舎町"はうってつけの設定だ。

 

2)奇抜だけど分かりやすい設定

キング作品には、超能力(『キャリー』)、亡霊(『シャイニング』)、宇宙人(『トミーノッカーズ』)など、B級SF・ホラーテイストなアイデアが盛り込まれる。通俗的な題材ではあるのだけれど、キングの手にかかると、読者の好奇心をかきたててやまない、まぎれもないキングの世界ができあがってしまうのだから不思議だ。

"町がすっぽりドームに覆われてしまったら?"という『アンダー・ザ・ドーム』のアイデアは、B級テイストの最たるものといえるだろう。奇抜だけど誰でもイメージしやすいシンプルなアイデアは、ミステリーやドラマの源泉でもあり、たくさんの思考が自然にわいてくる――「ドームを設置したのは誰か?」「その目的は?」「ドームに閉じ込められたらどんなことが起きる?」「どうやって生き延びたらいい?」といったように。本作ではそれらの問いに対する手がかりが次々と提供され、視聴者の関心をとらえてやまない。

 

3)ヤバイ人が物語のカギを握る

キングのデビュー作『キャリー』で、もし少女キャリーの母親が狂信的でなかったら、そして、壮絶で異様な親子関係がなかったら、あんなに恐ろしい悲劇が起きることはなかっただろう。飛行中の機内から大勢の乗客が忽然と消え去った『ランゴリアーズ』で、異変の本質を早くから無意識に察知していたのは、生き残りの乗客のなかでトラブルメーカーの烙印を押されていたクレイグ・トゥーミーだった。『ミスト』で本当に恐ろしかったのは、スーパーマーケットの外に徘徊する怪物ではなく、店内で生存者たちを狂信的な行動に駆り立てるミセス・カーモディだった。

キング作品の登場人物は大きなトラウマや秘密を抱えている。とりわけスポットライトを浴びるのは、上に挙げたような人たちだ。現実には決してお近づきになりたくない類の人物で、一体何をしでかすのかと、ハラハラさせられる。早く物語から退場してほしいのだけど、そういう人に限って、作品のテーマにも関わる重要な位置を占めていることが多い。

『アンダー・ザ・ドーム』でそんな危険人物としてまず浮上するのは、ジェイムズ・レニー(通称ジュニア)という若者だ。ウェイトレスのアンジーと性的な関係をもったジュニアは、思考の歯車がどこか狂っていて、アンジーはその気がないのに、真剣な恋仲にあると信じ切っている。そして、ストーカー的な行為をしたあげく、突如出現したドームがアンジーの性格を変えてしまったと思い込み、彼女を地下室に閉じ込めてしまう。正直、ドームに閉じ込められた環境では一番、一緒にいたくない人物なのだが、同時にこの若者は、ドームの秘密を解き明かすカギを握っているようなのだ。

 

危険人物はジュニアだけにとどまらない。その父親で、チェスターズ・ミルの議員を務めるジェイムズ・レニー(通称ビッグ・ジム)も、ヤバい匂いがぷんぷんする。異変に見舞われた町に秩序を取り戻すリーダーを自認しているが、この町で秘密裏に貯蔵されたプロパンの秘密にも関わっており、底知れぬダークな気配を感じさせる。演じるのは『ブレイキング・バッド』でのハンク役の演技が記憶に残るディーン・ノリスということもあいまって、要注意のキャラクターだ。

 

――さて、このように、キング作品の"お約束"ともいえる要素を盛り込んだ『アンダー・ザ・ドーム』だが、キングの小説を原作とする従来のTV映像作品とは大きく違う点があることも指摘しておこう。

それは、シリーズ作品であること。

『ザ・スタンド』『トミーノッカーズ』『IT』『ランゴリアーズ』などを見てもわかるように、キング作品を映像化したこれまでのTV作品は、話数をしぼったミニシリーズとして作られることが多かった(もちろん、『デッド・ゾーン』や『ヘイヴン -謎の潜む町-』といったシリーズも存在するが、それらは小説の設定にインスパイアされた独自の作品といった感が強い)。キングの小説を映像化するにあたっては、始まりと終わりが明確なミニシリーズが最適だったのだ。

実は、『アンダー・ザ・ドーム』についてもアメリカでは、「今回の題材はやっぱりミニシリーズ向きなのでは?」という声があがっていた。にもかかわらず、長期スパンを意識したシリーズ作品にした理由はよくわからないが、製作サイドによれば、原作小説は一週間の出来事をつづっていたのに対し、TVシリーズではさらにコンセプトを押し広げて、何年にもわたる物語を描いていく構想があるとのこと。それにともない原作のストーリーにさまざまな変更が加えられており、キング自身もこの構想を歓迎しているようだ。

とはいえ、シーズン1の内容は、シリーズ物にありがちな緩急を意識したリズムではなく、ドーム内で進展する出来事を、回を追って丹念に描いていくミニシリーズ的な展開となっている。登場人物は毎回のように命を落としていくため、シーズン2では主要な登場人物で生き残っている人はいるのだろうかと、今から心配になってしまうくらいだ。

あえてシリーズの道を選んだ『アンダー・ザ・ドーム』は、キング作品の定番を踏まえたうえで、新境地に足を踏み入れようとしているかのようにも見える。製作者たちが具体的にどのような展望をもっているのか、今後の物語の展開によって明かされていくことを期待したい。

 

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『アンダー・ザ・ドーム』
Dlife<ディーライフ>
10月18日(金)23:00からスタート。※初回のみ2話連続放送。
公式サイトはこちら≫

Photo:『アンダー・ザ・ドーム』(c) 2013 CBS Studios Inc.(c)Dlife