人類はエイリアンと共存できるか? 新ドラマ『DEFIANCE/ディファイアンス』を観て考える

言葉も文化も習慣も違う人たちがあなたの生活空間に入ってきたら、あなたは彼らとうまくやっていけるだろうか? これまで多くのSF映画やTVドラマに、宇宙からの来訪者が登場した。『インデペンデンス・デイ』『宇宙戦争』『フォーリング スカイズ』のように、圧倒的な力を行使して地球を我が物にしようとする"征服者"もいれば、『ヒドゥン』『ゼイリブ』『Xファイル』のように、人間社会にこっそり忍び込み、正体をなかなか見せない"侵入者"もいた。しかし、近年では新たなタイプのエイリアンも現れているようだ。

このエイリアンは公然と、大挙して私たちの前に現れる。だが、攻撃をしかけてくるわけではない。故郷を逃れ、新たな棲みかを必要としているだけなのだ。彼らは地球に居住することを許される。それでも、外見や言葉、文化、習慣の違いから、人間との間に摩擦や対立が生じてしまう――そんな彼らはまさしく、"移民"や"難民"にほかならない。

この新種のエイリアンを取り上げた最近の作品で、とくに有名なのは、2009年にアメリカで公開された『第9地区』だろう。

★『第9地区』

南アフリカ共和国のブエノスアイレス上空に、巨大な宇宙船が出現した。その偉容とは裏腹に内部は真っ暗で荒れ果てており、巨大なエビのような外見をしたエイリアンたちが、衰弱してたむろしていた。彼らは第9地区と呼ばれる居住区に収容されるが、28年の間に居住区はすっかりスラム化してしまい、地域住民とのトラブルが多発する。そのため、政府は新しい居住区への強制移住を決定する...。

アパルトヘイト政策が実施された南アフリカ共和国を舞台にしていることからもわかるように、この映画は、マイノリティに対する体制の抑圧や差別を取り上げた作品だ。社会的なテーマを扱いつつ、娯楽性たっぷりのアクション巨編として仕上げた本作は、日本でもかなり評判になった。

主人公ヴィカスは、エイリアン強制移住の現場指揮をまかされた小役人タイプの男性。物語の序盤では、体制の側について立ち退きの指揮を喜々として行っている。そんな彼にもある出来事がきっかけで変化が訪れるのだが、映画を観ていると、人類とエイリアンの共存は永遠に不可能なのではないかと、悲観的な気持ちになってくるのは避けられない。

しかし、エイリアンを移民や難民として描くSF作品は、『第9地区』が初めてではもちろんなかった。80年代後半にはすでに、エイリアンを「新移民(Newcomer)」と呼ぶ作品が存在した。

★『エイリアン・ネイション』

米カリフォルニアのモハベ砂漠に、宇宙船が不時着した。乗っていたのは、奴隷として重労働を強いられていた30万人のエイリアン。毛髪はなく、肥大化したまだら模様の頭部をもつといった違いはあれど、外見は人間に近い彼らは「新移民」として受け入れられ、居住区を与えられる。

それから3年後のロサンゼルスで、エイリアンによる強盗殺人事件が発生した。相棒を射殺された人間の刑事マシュー・サイクスは、エイリアンの"ジョージ"とコンビを組み、類似事件の捜査にとりかかることに。二人は互いの偏見を乗り越え、事件の背後にひそむ麻薬ルートに迫っていく...。

地球人とエイリアンの刑事コンビによる"異色のバディ物"として作られたこの映画は、アメリカで1988年に公開され、そのあと89~90年にTVシリーズが放送された。TVシリーズはわずか1シーズンと短命に終わったが評価は高く、その後TVムービーが5本も作られている。

『第9地区』とは対照的に、『エイリアン・ネイション』に登場する刑事コンビの活躍はわりと明るい未来を予感させる。これからもいろいろな衝突はあるだろうが、同じ人間同士で人種の壁を乗り越えてきたように、人類はエイリアンともうまくやっていけるんじゃないかと。

このオリジナル映画版で脚本を担当したのは、ロックニ・S・オバノンという人物。90年代に『FARSCAPE ファースケイプ』『シークエスト』といったSFドラマを立ち上げ、ヒットに結びつけた。その彼が、米Syfy局で新たに手がけたプロジェクトが『DEFIANCE/ディファイアンス』だ。

 

『DEFIANCE』は、難民エイリアンとの戦争によって荒廃した未来の地球を舞台にしており、『第9地区』や『エイリアン・ネイション』の世界を、大きく未来に押し進めたような設定となっている。難民エイリアンとの関係がこじれにこじれたら、その先には何が待っているのか? 『DEFIANCE』の指し示す未来は、希望か、それとも絶望か?

★『DEFIANCE/ディファイアンス』

2013年、地球に「ヴォータン」と呼ばれるエイリアン集団が到来した。「箱舟(アーク)」という宇宙船で死にゆく恒星系から脱出したヴォータンは、地球に人類が住んでいることを知らずにやってきたのだ。ブラジルに一部の居住を許された彼らだが、人類との緊張はしだいに高まり、ついには「ペール大戦」と呼ばれる全面戦争に発展してしまう。

戦争はようやく終わりを告げたが、戦時中に暴走したテラフォーミング技術により、地球の環境は激変した。地形は大きく変わり、奇怪な生物が荒野や森林を徘徊するようになり、戦争前の文明の姿をとどめているものはごくわずかとなった。地球の軌道上には戦争の名残りである箱舟の残骸が無数に浮かび、ときおり軌道を外れて地表に落ちてくるという、なんとも物騒な世界となってしまった。

そんな2046年の未来、戦争の英雄で元兵士のジョシュア・ノーランは、養女で相棒でもあるエイリアンのイリサとともに「ディファイアンス」という街を訪れるところから、物語の幕は開ける。

 

ディファイアンスは、米ミズーリ州セントルイス市の廃墟の上に建てられた、人口6000人の小さな街。セントルイスの名物だったゲートウェイ・アーチが、新たな街のシンボルとなっている。戦争を生き延びた人類とエイリアンがともに暮らすこの街で、ノーランは法の番人(ローキーパー)に着任し、街の平和のために奔走する...。

本作に登場するヴォータンというエイリアン集団は、面白いことに決して一枚岩ではなく、貴族階級のキャスティサン人、戦士階級のアイラシエント人、頭脳明晰なインドジーン人といった複数の種族で構成され、それぞれの文化はまるで異なる。

複数の種族の存在により、文字通り「人種のるつぼ」となったディファイアンス。そこで繰り広げられる喧噪と人物模様に加え、ディファイアンスの実権をめぐる陰謀や、イリサの生い立ちに隠された秘密、街の外から迫って来る脅威などが物語の縦軸となる。

 

また、種族間の喧噪を描く一方で、種族を超えた絆も大事な要素となっている。戦災孤児だったイリサを、実の娘のように育てているノーランの父親としての悩みが描かれるほか、キャスティサン人のター家と、人間のマコーリー家という対立する二つの家族のもと、それぞれの息子と娘が禁断の恋に落ちる、という、「ロミオとジュリエット」を彷彿とさせるような話も語られる。

この混沌とした街のなかで、主人公のノーランは信念を曲げず、正義のために荒っぽい行動も辞さない男として描かれる。様変わりした未来の地球を舞台にしているがゆえに、ノーランの骨太な生き方がかえって痛快に目に映る。

 

こうしてみると、「人類はエイリアンと共存できるか」というのは、『DEFIANCE』においてはすでに埃をかぶった問いかけのような気がしてくる。ディファイアンスの住人は、共存を前提とした世界で生きるほかに道は残されていない。企画者のオバノンは『エイリアン・ネイション』を手がけた経験を踏まえて、「共存するしかない新しい混沌とした世界で、あなたはどう生きるか」と、さらに一歩踏み込んだ問いかけをしているのだ。

それは、ドラマの枠を超えた問いかけでもある。不確かな世界で、喧噪を乗り越え活路を切り開く『DEFIANCE』の登場人物たちに、私たちは自らの姿を見いだすことができるかもしれない。

 


 

■『DEFIANCE/ディファイアンス』シーズン1
【発売元】NBCユニバーサル・エンターテイメント
【発売日】9月3日(水)
【内容】DVD−BOX(¥6,800+税)
※レンタルも同日スタート予定。

Photo:『DEFIANCE/ディファイアンス』(c)2012 Open 4 Business Productions LLC. ALL RIGHTS RESERVED.