テレビを変えた"革命児"~有料ケーブル局「HBO」が視聴者を魅了し続けるワケ

「HBOのドラマ」というだけで、観る前から面白そうな気がするから不思議だ。
で、たいていの場合、その予感は当たる。

全米初の有料(プレミアム)ケーブル局として、テレビ界で圧倒的な存在感を放つHBO。
開局以来、劇場公開直後の新作映画やスポーツ中継のほかオリジナル番組の製作にも力を注ぎ、上質かつ革新的な作品を生み出してきた。

ここ数年だけでも、映画超えのスケールで世界をあっと言わせたダークファンタジー『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011-)や、庶民的かつシニカルな『Sex and the City』といった趣で、業界にもファンが多い『GIRLS/ガールズ』(2012-)、85年のブロードウェイ作品をライアン・マーフィーがテレビムービー化し、今年のエミー賞を席巻した『ノーマル・ハート』(2014)など、クオリティの高い作品を次々と送り出している。

 

●「自宅を映画館に」

ニューヨーク市内のホテル向けケーブルサービスを運営していたチャールズ・ドーラン氏が1965年に設立した《スターリング・マンハッタン・ケーブル》は、立ち並ぶ高層ビルに遮られてテレビの電波が届きにくかったマンハッタンエリアに快適な視聴環境を提供するために作られた。
《The Green Channel》の放送を開始したスターリング社は、1972年、タイム・ライフ社の支援を得て新たなスタートを切る。これが《HBO》のはじまり。

HBO=《Home Box Office Inc.》の社名には、「映画館のボックスオフィスでチケットを買うようにテレビ局に視聴料を払い、自宅のテレビで映画を観る」という【新しい視聴スタイル】を広めたいとの思いが込められている。
それを反映し、開局日(1972年11月8日)の夜に放送されたのは、ポール・ニューマン監督・主演の映画『オレゴン大森林/わが緑の大地』(1970)。レンタルビデオもなかった時代、劇場公開して2年も経たない作品がテレビで放映されるのは、当時としては異例の速さだった。

ところが、開局にあたってテレビ初放送の映画やNHL中継など目玉番組を取りそろえたものの、わずか3ヵ月で巨額の赤字を出してしまう。そのため、早くも翌年、経営権はスターリング社からタイム・ライフ社へ...。

出だしからさっそくつまずいた感もあったが、ここからが巻き返し。
"新生"HBOは、1975年に通信衛星を利用した放送をスタートさせ、フィリピンで行われたモハメド・アリ対ジョー・フレージャーのボクシングマッチを中継した。開局して日の浅い独立局(しかもペイチャンネル)が、後世に残るビッグマッチを放送したことで一気に注目が集まる。
その後は契約者数もうなぎのぼり。1973年に8000未満だった契約者数が、10年後にはなんと1300万に!

●オリジナル番組で多チャンネル時代をリード

80年代のアメリカテレビ界は、ケーブルテレビの普及で専門チャンネルが乱立。
乱立しすぎてコンテンツが追い付かず、ネットワークの番組の再放送ばかりのケーブル局も多かった。それに対し、あくまでオリジナル作品にこだわってきたHBOの姿勢が90年代に実を結ぶ。

1990年、姉妹局:Cinemax(映画専門チャンネル)とともにタイム・ワーナー社の傘下に入ったのち、「HBO初の1時間ドラマシリーズ」として放送したのが『OZ/オズ』(1997-2003)。

重犯罪者用の刑務所が舞台、過激なセリフとストーリー、暴力的・性的な描写や差別表現も満載で、ネットワークでは決してOKが出ない内容。さらに、ネットワークで通常22~24話のところ、(シーズン4を除いて)1シーズン8エピソードしか作られなかったことも変則的。話数を絞り込むことでエピソードごとの内容を濃くし、脚本の質を維持したままシーズンを終える。型破りだが妥協を許さない製作スタイルで生み出されたHBOドラマは「ハイクオリティで斬新」と認知されるようになっていく。

テレビ界のタブーをあれこれ破ったHBOは、オリジナルテレビシリーズでヒットを連発。
Sex and the City』(1998-2004)は【ケーブルテレビ局初のコメディシリーズ部門作品賞】をはじめ、7つのエミー賞を獲得。世界200カ国以上でオンエアされ、現在も多くの地で再放送されている。

第56回エミー賞では『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』(1999-2007)が【ケーブル局で初めてのドラマシリーズ部門作品賞】に輝き、ミニシリーズ『エンジェルス・イン・アメリカ』は11部門受賞で当時の最多記録を更新。いずれもエミー賞の歴史を塗り替える快挙だった。

HBOの躍進は他のケーブル局にも影響を与え、こぞって「ネットワークにはできない番組」を製作するように。今でこそ、ショッキングな内容やビッグバジェット&スケールが売りのドラマは少なくないが、それらの先駆けこそHBOといえる。

もちろん、ただ「斬新」なだけがHBO作品の魅力ではない。

例えば『SATC』は、大胆なセックス描写やあけすけなガールズトークを「過激」「革新的」と評価する人も多かったが、なにも「女性の特別な生き方」を示したわけではない。描くところは【自分に素直に生きるオンナたちの友情】であり【奔放に見えて実は、運命の恋を探し求めるフツーの女性の姿】だった。
ザ・ソプラノズ』も同様、予想を裏切る展開で(最後まで)視聴者を驚かせ続けたドラマだったが、登場人物たちはぞっとするような冷酷さや暴力性を見せながらも【弱さや家族愛といった人間的な面】があった。

単なる過激さだけではなく、共感・感情移入のしやすさも持ち合わせている点や、それを組み込んだ緻密な脚本と優れた演出もHBOの作品が世界中で支持される理由だろう。

●「有料」だからできること

都会的で新しいモノ好きな、目の肥えた視聴者をメインターゲットにしたHBO。
開局した頃の「映画は映画館で観るもの」という決めつけや、「自宅でテレビを観るのに、余計にお金を払う人がどれほどいるのか」という疑問の声を跳ね返し、全米初のペイ(有料)チャンネルとして成功を収めた。

HBOを観るために契約者が追加で払うのは(契約しているケーブル回線会社によって違うが)、だいたい毎月17~18ドル。スポンサーの広告料ではなく、この「視聴料」がHBOの大事な収入源になっている。
番組終了後に流す自局のプロモーション以外にコマーシャルはないから、イイところで必ずCM(しかも長いやつ)に邪魔されることもないし、作品の中にスポンサーや親会社の意向といった「大人の事情」が見え隠れする違和感もない。

ただ、こうしたビジネスモデルで成功するには「魅力的なコンテンツをどれだけそろえられるか」が勝負だ。
おカネを費やしてくれる契約者を増やし、減らさないために、レベルが高くて惹きのある番組をラインナップし続けなければならない。そのためには、有能なクリエイターを確保する必要がある。

●HBOには優れた人材と企画が集まってくる!

ネットワークをはじめ、自局でヒットを飛ばしてくれた製作陣をその後も使い続ける局は多いが、HBOは実績の有無よりも作品自体の企画や内容を重視。
かつて、デヴィッド・チェイスは複数のネットワークに『ザ・ソプラノズ』の脚本を持ち込んだが断られ、デヴィッド・サイモンはスポンサーや局の意向に左右されずに番組を作りたいと『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の企画をHBOに持ち込んだ。

また、他局で活躍したクリエイターにそれまでとは違うタイプの番組を作らせるのも、HBOの得意ワザ。

『ビバリーヒルズ高校白書』(FOX)のダーレン・スターは『Sex and the City』を、映画『アメリカン・ビューティー』のアラン・ボールは『シックス・フィート・アンダー』(2001-2005)や『トゥルーブラッド』(2008-2014)を手がけ、『ザ・ホワイトハウス』(NBC)をヒットさせたアーロン・ソーキンは『ニュースルーム』(2012-)で久々にテレビ界に復帰。
今夏は、『LOST』『ワンス・アポン・ア・タイム』(ABC)のデイモン・リンデロフが新作ミステリー『LEFTOVERS/残された世界』(2014-)を製作し、話題になっている。

HBOで番組を作りたがる映画界のビッグネームも少なくない。

過去には、トム・ハンクススティーブン・スピルバーグがミニシリーズを製作。
スティーブン・ソダーバーグが監督し、マイケル・ダグラスマット・デイモンがW主演したテレビムービー『恋するリベラーチェ』(2013)も記憶に新しい。
マーク・ウォールバーグはハリウッドのウラ側を描いたコメディ『アントラージュ★オレたちのハリウッド』(2004-2011)を製作、マーティン・スコセッシは『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』(2010-2014)でテレビシリーズ初プロデュースを果たし、今まさに旬なオスカー俳優:マシュー・マコノヒーは『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』(2014-)の製作・主演で話題をさらった。

 

HBOには、才能豊かな人々が「放送コードや予算に縛られず、自分の作りたいものを作れる環境」がある。それが、ネットワークの枠にはまらない(もしくは、はまるのを嫌う)個性的な作り手・演じ手をも惹きつけているに違いない。

「他にないもの」「視聴料を払って観る価値のあるもの」でなければ放送する意味がない――そう考えるHBOだからこそ、常に刺激的で視聴者を魅了してやまない作品が生まれる。

放送開始は未定だが、J・J・エイブラムス製作&アンソニー・ホプキンス主演のSFミステリーや、英国スリラーのリメイク版、ティム・ロビンス主演のブラック・コメディなど、製作にGOを出した新作がいくつも控えている。進行中のプロジェクトもめじろ押しで、これからもHBOからますます目が離せそうにない。

『ゲーム・オブ・スローンズ 第三章:戦乱の嵐-前編-』
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『GIRLS/ガールズ』
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『ノーマル・ハート』
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『SEX AND THE CITY』
(C)2014 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and all related programs are the property of Home Box Office,Inc.
『LEFTOVERS/残された世界』
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『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』
(C)2014 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.