【インタビュー】『ブレイキング・バッド』アンナ・ガン、シリーズが終わってしまい、恋しく思うこととは?
Ben Leuner/AMC

本年度第66回エミー賞授賞式で、見事有終の美を飾った『ブレイキング・バッド』。ドラマシリーズ部門作品賞をはじめ、合計6部門で受賞し、世界中から称賛されている本作。助演女優賞獲得のスカイラー役アンナ・ガンがシリーズ終了後のインタビューで明かした『ブレイキング・バッド』が終わって恋しく思うこととは? さっそくインタビューをご覧いただこう。

アンナ・ガンがインタビューで明かした最終話の撮影

――製作のヴィンス・ギリガンは最終話を書きながら泣いたそうですが、あなたや他の出演者は最終話を読んでどう感じましたか?

残り3分の1くらいのエピソードでみんなが泣き始めたわ。このシーズンはゆっくり始まらない。ヴィンスは盛り上げるのに時間をかけないの。すごくいいことだと私は思う。ロケットの打ち上げみたいな始まり方なので、視聴者も一気に盛り上がると思うわ。利口なやり方よね。でも最後の3分の1くらいのエピソードで、私たちもすごく動揺するような事が起き始めるの。その辺りで大変なことが起きるのよ。出演者が気持ちを伝えるためにグループメールを出し始めたのはその頃ね。

ヴィンスにとっても最後のエピソードはすごく思い入れがあったと思う。この物語や登場人物とずっと生活してきたのだもの。俳優たちは、その後もセットで物語を伝え続ける必要があったわ。でも、ヴィンスにとって最後の脚本はすごく大きなものだったのよ。出演者は最後までその気持ちを持ち続けていたけど、最終的には手放すことができた。このキャラクターとしてみんなと一緒に仕事をするのは最後なんだと、ふと感じて、共演者たちと顔を見合わせる不思議な瞬間があったわ。演じている最中に感じることもあった。その感情がシーンの内容とシンクロすることもあったの。不思議だったわ。

――『ブレイキング・バッド』を終えて、これから一番恋しく感じるのは何だと思いますか?

あのすばらしい脚本ね。俳優にとっては最高の贈り物よ。関係者のことも恋しく思うはず。最高のクルーだったもの。全員が自分の仕事をすごく大切にしていた。タイムカードを押すためだけに仕事に来る人なんて一人もいなかったわ。

――ブライアン・クランストンと一緒に仕事をすること、また、プライベートでの彼との関係がどのように変化していったかを教えてください。

スカイラー・ホワイト役のオーディションの時には他に3人の候補がいたの。でも、テストの前にヴィンスとブライアンがいる部屋に一人ずつ入れたのでよかったわ。彼らへのあいさつも済ませて、慣れてからシーンを演じることができたから。あの悪名高き、手でイカせるシーンをやらなければならなかったの。ブライアンと私は部屋に入ると、そのシーンでどういうアプローチをするかを話し合った。二人とも、ただやっているフリをするだけなんてバカみたいだと思っていたので、ブライアンの提案でイスを使ってやることにしたの。空中でやる代わりにね。ヴィンスは私たちの様子をただ座って眺めている感じだった。だから一番最初から、ブライアンと私の間にはそういう冗談を言い合うような関係ができて、それが6年間ずっと続いたの。ドラマチックで重いシーンばかりで、ほとんどが暗かったから、脇腹を突つき合ってふざけるような息抜きが必要だったのよ。

ブライアンはいつも私を笑わせようとしていた。彼は下着姿も多かったから、下着の中に何か入れたりするの。私のシーンでカメラが回っている時に下着を脱いだりもしたのよ。でも私は絶対に動じなかったから、ブライアンは信じられないといった顔で私を見つめていたわ。舞台をずっとやっていたので、平静を保つことに慣れているの。あとは、いろんなイタズラ用の小道具があるはずのない場所に隠してあったりしたわね。小道具のトラックの中には変なものがたくさんあって、それを私に見つけさせようと思ってわざと隠しておくのよ。ベッドサイドのテーブルとかカバーの下とか枕の下とかにね。ブライアンはいつも私を笑わせようとしていたけど、成功したのは一度きり。スカイラーがウォルターの部屋の引き出しの中を探るシーンよ。その時は、やられたわね。

――ファンがラストシーズンでスカイラーにどうなってほしいと思っているかについて、何か聞きましたか?

ファンは、彼女がもっとウォルターに立ち向かっていくのかどうかを見たいのではないかと思うの。彼を警察に突き出すのか?彼女は感情を乱さずにいられるのか?彼女はかなり絶望的な場所にどんどん追い詰められていっている。ああいう立場に立たされた人間は危ないわ。ウォルターとスカイラーの違いは、ウォルターが自分の行動をすべて正当化し続けていることだと思う。一方、スカイラーは心の奥底では自分が本当に間違ったことをやっているのを自覚している。その自覚があるから、彼女はとんでもない苦痛と絶望を感じているの。彼女がそれまでやってきたことは、すべて家族をトラブルから救い出すため。でもそれがすべて裏目に出てしまうのよ。スカイラーの決断の一つ一つが、どんどん家族を追い詰めていくの。彼女は正しいことをやろうとする。でもウォルターは、自分が家族のためなら何でもやる王様だと信じて疑わないのよ。スカイラーは、それは上辺だけだと分かっている。

ブレイキング・バッド

――あなたはスカイラーをモラルのある人間だと思いますか?

今は違うわ。ずいぶん前に彼女はそういう気持ちを失ってしまった。スカイラー自身もそれに気づいているの。以前はモラルの基準がしっかりしていたけど、ウォルターを警察に突き出さないと決心してから変わっていったのよ。子供を連れて逃げることを止め、ウォルターの手助けをすることを決心した時もそれが続いていた。スカイラーはモラルの羅針盤を失ってしまったの。彼女もそれを強く自覚している。今の彼女はひどく傷ついた暗い心を抱えながら生きているわ。

――スカイラーはまだ自分がいい母親だと思っているのでしょうか?

いいえ。いい母親だとは思っていないと思う。根本的な部分では、子供を守るためならば何でもする母親であることに変わりはないわ。まだ子供を愛する心は失っていないの。でも、彼女は自分が子供を裏切ったと感じている。彼女は昔へ戻って、すべてなかったことにしたいと思っているけど、それは不可能だと分かっている。今、彼女にできることは子供たちを守ることだけ。めちゃくちゃな状況の中で彼らを守るための選択をすることだけなの。

ブレイキング・バッド

――スカイラーが視聴者にどう受け止められているかについて触れられましたが、みんなの彼女に対する考え方は変わったと思いますか?これまでのシーズンよりも、視聴者は彼女を理解し、評価しているのでしょうか?

そう思う。はっきりと変化を感じるわ。一時はウォルターの邪魔をするスカイラーという受け止められ方だった。本当に彼の邪魔をしていたのは、ガス・フリングよりも他の敵でもなく、彼女だったのよ。そんなことをして捕まらないわけがないとウォルターに言い続けたのはスカイラーなの。視聴者の中にはそんな彼女に怒りを感じてイライラした人もいたと思う。でも、ウォルターはどんどん深みにはまって、ハイゼンベルグの面が強く出てくるという新しい段階に突入する。この頃から、視聴者はスカイラーにより共感できるようになったと思う。ウォルターが彼女をどういう立場に立たせているかを視聴者は理解できたの。彼は本当に彼女を閉じ込めて、どんどん追い詰めていく。脚本がすばらしいから、私たちはみんな登場人物のことを自分のことのように考えることができるのよ。自分がその立場だったらどうしよう、とね。

――もしご自分がその立場だったらどうしますか?

あの男とは結婚していないわ!彼を警察に突き出していたでしょうね。逃げる自分は想像できない。スカイラーが警察に電話をかけ、「どうかしましたか」と尋ねられるシーンがあるの。彼女はウォルターの目を見つめる。彼女にはチャンスがあった。でも、彼女のいい母親の部分が、息子の心を傷つけたくないと思うの。でも、本当にいい母親だったら、ウォルターを警察に突き出しているはずよ。息子の心を傷つけたくないと思ったことと、自分に有利なように動けると思ったことが、その時のスカイラーの失敗だったの。ウォルターもスカイラーもそれがいけなかった。自分が他の人よりも利口だと思っていることがね。そういう尊大なところが彼らの共通点よ。

ブレイキング・バッド

――女優として、話が進むにつれてこのドラマが暗くなっていっていると感じましたか?

当然、ユーモアは消えていったわね。ざらざらした、暗い話になりすぎていた。あまりにも深刻で、それまでのシーズンだったら笑えたようなことも笑えなくなってしまった。最後の8話は、私にとっては、この世の終わりみたいな感じがしたわ。この世界やこの環境がただ崩壊していくようだった。ウォルターが始めたことがすべてに波及していく。彼がほのめかしたことや、彼の選択すべてが、本当に最悪の結果へと続いていくの。

――『ブレイキング・バッド』では、スカイラーらしくないと思うシーンについては意見を言ったりしたのですか?

めったになかったけど、何回かはあったわ。子供が関係する場面が多かったわね。ヴィンスには子供がいないので、私の意見に耳を傾けてくれた。それから、私だったらどうするか聞いてきて、二人で少し変えたりしたのよ。

――これから何をしますか?

『ブレイキング・バッド』は、私たちの人生の扉をたくさん開いてくれたの。他のドラマでスカイラーとは正反対の役で楽しかった。スカイラーはがんじがらめにされているので、たまに彼女を演じるのがつらかったこともある。プライベートでも彼女は常に感情を押し殺しているから。でも私が演じたこの新しいキャラクターはすごく素朴でのびのびした人なの。いつも本当のことしか言わないし、ワイルドで感情的よ。映画の話もたくさん来ているわ。サンダンスに行ってディレクターズ・ラボに参加して、ウォルター・ホワイトの女版みたいな面白い役を演じたのよ。普通の主婦だった女性が堕胎クリニックを爆破して、医師を銃撃するの。この脚本を書いた人たちは、ヴィンス・ギリガンみたいな、すごく面白いアプローチをしていた。この女性に対して批判的じゃないの。そういう状況におかれたら人間はどうなるのか、ということを彼らは知りたいだけだった。舞台ももっとやりたいと思っているわ。

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