まだ『ブレイキング・バッド』に手が出せていないあなたに贈る! デーブ・スペクター流『ブレイキング・バッド』を最高に楽しむ方法!

2013年9月にファイナル・シーズンの放送が終了し、本年度のエミー賞を総なめにしたドラマ『ブレイキング・バッド』。名実ともに大ヒットの本作だが、海ドラファンの中には、「メス(メタンフェタミン:覚せい剤の一種)の精製」という重いテーマや、暴力的なシーンがあるせいで、「面白いとは聞いているけど、なかなか手が出せない」という方もいるのではないだろうか...。しかし、この歴史的名作を観ずにいるのはもったいなさすぎる!!というわけで、今回はそんな方に向けて、自他ともに認める『ブレイキング・バッド』大ファンのデーブ・スペクターさんに、"デーブ流『ブレイキング・バッド』の楽しみ方"を語ってもらった。

 

1.何ものにも代えがたい。新しいレベルに達した最高のドラマ

――まずは、デーブさんからみた『ブレイキング・バッド』の素晴らしさ、魅力を教えていただけますか?

『ブレイキング・バッド』は、新しいレベルに達した作品ですね。〇〇に似ているね、っていうのがないのです。型破りで、他の作品と比較のしようがない。どんなドラマですかと聞かれても、「とにかく観てください」としか言えない。
例えば、『ゲーム・オブ・スローンズ』は『ロード・オブ・ザ・リング』のような、『ボードウォーク・エンパイア』は、『ザ・ソプラノズ』のような、と説明ができますよね。ところが、本作には比較するものがまったくないの。刑事ものでもないし、恋愛ものでもないし...。とにかく最高なのですよ!

2.『ブレイキング・バッド』のここが最高!

①アルバカーキを舞台にし、ボンティアックをマイカーにした芸の細かさ!

まず、ニューメキシコ州アルバカーキという死ぬほどつまらないところをロケ地に選んだところ。これがロスだと話が別ですね。何の変哲もないニューメキシコが、イケてない主人公ウォルターに似合っていて本当によかった。

 

――寂れ具合がウォルターとマッチしていますよね。

そうそう。あと彼の車も最高なの!ボンティアック・アズテックというダサい車で、ドアを開けるとキーキーいうあの寂れた感じ!本作は、芸の細かさが何ともいえない。ウォルターの家のインテリアは、お土産でもらったようなものを精一杯飾ったりしているけど、イケてないのですよ。家のじゅうたんの趣味の悪さったら...。ウォルターは平凡な化学教師という設定なのですが、彼を取り巻く環境描写があまりにもリアル。彼が着ている服も、よくてせいぜいL.L.Beanとか。GAPでもちょっと緊張するぐらい。笑。

――中流以下の家庭の様子を小道具でうまく演出していますよね。

そう。最高の美術、小道具チームですね。エミー賞をあげるなら、主演のブライアン・クランストンじゃなくて、美術・小道具担当ですよ。笑。

 

②抜群のBGMと編集技術

あと、BGMもいい。シーンにあわせて適切なものをチョイスしていてね。冒頭の音楽や、途中に出てくるラテン系の音楽とか。メジャーミュージックではない、大人向けの音楽を使っています。そう、本作は大人向けのドラマでもありますね。映像編集も素晴らしいです。フラッシュバックとフォワードフラッシュを上手に使っていますよね。下手にやるととても邪魔なのだけど、本作はとても上手に編集している。編集のテクニックと脚本の展開が最高なのですよ。

③主演から脇役まで。すべてがナイスキャスティング!

次に、キャスティングがすばらしい。アメリカの作品は見事なキャスティングをする作品が多いのだけど、この作品は特にナイスキャスティング。息子のJr役だって、実際に筋肉麻痺で足が不自由な俳優をキャスティングしている。そこまでリアル。そしてなんといっても、主役ウォルターを演じるブライアン・クランストンの演技力の高さでしょう。最新の映画『ゴジラ』が記憶に新しい人も多いと思うのですが、『ブレイキング・バッド』をがんばった本当の理由は、『ゴジラ』に出たかったからかなぁ。笑。まぁ、彼の演技はナチュラルすぎて、日本の役者さんにも観てほしいぐらい。

 

――日本にもウォルターのようなおじさんいますよね。ちょっと冴えなくて、この人にこれ以上不幸なことが起きないで・・・って思うような・・・。

ウォルターと共に、メス精製&ビジネスのパートナーになるジェシーもイケメンじゃなくて、「だめなヤツ」だからよかった。あと、主人公ウォルターの義理の弟ハンクもね、何の変哲もない普通の麻薬捜査官なのですよ。職場では周りがひいちゃうようなダジャレを連発しちゃって。

――いいヤツで、作品のアクセントになっていますよね。

そう。いいヤツなの。とにかく、舞台となった場所から家、脇役キャストまで、すべてリアルで、細かいところまで全部楽しめる。

――様々なナイスキャストが登場しますが、ズバリ、デーブさんの選ぶベスト出演者賞は?

車だね。(即答)笑。ジェシーもシボレー・モンテカルロという車に乗っていて、いかにも彼が乗りそうな車なんです。

 

④リアリティとウィットに富んだ脚本

本作には、わざとらしいシーンが1つもない。物語が始まったばかりのとき、誰もジェシーが道徳の規準を作る中心になるなんて想像できなかった。でもね、だからといって、無理にハッピーな展開にもっていこうとしないのが本作。例えば、ジェシーと両親の関係がよくなるシーンなんてない。ジェシーとウォルターの関係は、日本でいえばいわば師弟関係なのだけど、最後まで微妙な一線をたどる。最後までどこまでが真実で、どこまでが本当の友情と愛情かわからない。ちょっとした誤解で関係が悪化したりするし。でもだからこそリアリティがある。また、ここが笑うところですよ、というわざとらしさもない。むしろ情けないところで笑ったりする。非常にウィットに富んだレベルの高い作品です。

<$MTPageSeparator$>

3.デーブ流『ブレイキング・バッド』のオススメな観方

――デーブさんにここまで力説されると、読者の皆さんもそろそろ観たくなってきたのでは?『ブレイキング・バッド』を、より楽しむためのコツはありますか?

①友人と同じペースで観る!

オススメは、友達と一緒にみること。僕もアメリカ人の友人と必ず同じペースで観ていました。そして、終わったらメールで一緒に分析していました。

――衝撃を受けすぎて、思わず誰かと話したくなりますよね。

そうそう。一人で処理しきれなくて、人と話したくなる。興奮状態で夢にも出てくるし、観終わった後の、はぁぁぁぁぁぁっていう...ね。暴力シーンも妙にリアルすぎて、でも気持ち悪くはないのですよね。

 

――でも死体を溶かすとか、女子だと目を背けたくなるようなシーンもあるじゃないですか...。

それは、キレイ好きだと思えば?几帳面な人なのねって思えばOK!笑。

②1話ずつ大切に観る!

デーブ:僕は、わざと週に1話しか観ないようにしていました。曜日も決めてね。次がとても気になるのだけど、続けて観るのがもったいなくて。この作品はそれぐらいクオリティの高い作品。日本だとDVDもすべて出ているし、一気に観ることももちろんできるので、1話1話を無駄にしないように、自分にあったペースで観ればよいと思います。

③出演キャストの素性を調べない!

出演役者がどの作品に出ているとか、作品のトリビアみたいなところを、今回は一切調べなかった。なぜかというと、夢が崩れちゃうし、このワールド以外の彼らを知りたくないから。NGとかメイキングとか、DVDの特典映像も最終話まで観終わってからすべて観た。すごく面白かったのだけど、最中は絶対に観たくないですね。

 

――なるほど!一切何も裏事情を知りたくない、知らなくていい、そのくらい、どっぷりとはまっていけるドラマなのだということですね。

4.これから観始める方々へ:「今までのドラマを卒業して、次のステージに進んでみませんか?」

イギリスドラマからアメリカドラマまで、海外ドラマって非常に幅広いです。また、ブルーレイ、オンデマンド含め、今は映像の黄金時代です。高画質で様々な作品が観られます。でも逆に言うと、選ぶのも大変なのです。なので、たまたまつまらない作品を選んでしまうと、「しばらくいいや」って思っちゃいますよね。だから僕のように紹介する方はとても慎重になります。今回も、「またアメリカの刑事ものか~?」などと思われる人もいるかもしれないけど、冗談じゃない。これは別格なのです。初めは、主役がイケてないし、なんだこのドラマ?って思うんだよね。でも3話目までは観て欲しいです。だまされたと思って。

――どのぐらいから「これはスゴイ...」と思い始めましたか?

2話目からだね。真面目な化学教師が覚せい剤を作るっていう設定が面白すぎてね。誰も考えつかないでしょう。もともと彼は化学者として成功するはずだったのに、アイデアを盗まれて、冴えない高校教師が関の山という設定も面白くて仕方がない。

――実は、私はヘビーなドラマがあまり得意ではありません。女性の中には私のような方は多いと思うのですが、そのような女子たちはどのようにして本作を楽しめばいいですか?

 

この作品の良さは、一言ではなかなか説明できない。だからまずは観たほうが早いです。3話目までは。とにかく。"女子向けにはこのドラマ"なんて決まりはないのですよ。よく女性向けということで恋愛模様を描いたドラマが多く取り上げられますが、真にいいドラマというのは男女関係なく楽しめるものだと思います。 だから、男女関係なく、まだ『ブレイキング・バッド』を観ていないという人には、「今までのドラマを卒業して、次のステージに進んでみませんか?」と勧めたいですね。本作はまさに次のステージのドラマ。長いアメリカドラマの歴史に残る伝説的作品です。まだ観ていない人には今までのドラマを卒業して、ぜひ次のステージに進んで欲しいですね。

――ありがとうございました。では、もしもこのドラマに悪いところが一つだけあるとしたら...。

本当に最高の作品なのですが、悪いところが1つあるとしたら...それは「終わったってこと」。だけど、よかった。納得のいくエンディング。ただ、ファンとしては、あと1、2年やってほしいなっていう思いはありますね。今ハリウッドではみんなが言っていますよ。『ブレイキング・バッド』のような作品を作れないかって。でもあんなエッジーな作品はそうそう無理ですからね。そんな人工的に作れるものじゃないです。才能とウィットから生まれるものですので、マネはできても同じクオリティは難しい。10年に一度出るか出ないか、そういう作品なんです。

 

約1時間強に及ぶインタビューで、たっぷり『ブレイキング・バッド』への愛と見どころを語ってくれたデーブさん。本作が、うん百作品の海外ドラマを観てきたプロをうならせる、次のステージのドラマであることがこれでもかというほど伝わってきた。

まだ『ブレイキング・バッド』に手が出せていない皆さん、本当にいいドラマは、観る人を選ばない。男性だろうが、女性だろうが、ヒューマンにとっては必ず響く内容なのです。

「今までのドラマを卒業して、次のステージに進んでみませんか?」


Photo:デーブ・スペクター氏 インタビュー
『ブレイキング・バッド』
(c)2008-2013 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.