『マスケティアーズ/三銃士』  英国ドラマ界が再開拓する、名作「三銃士」の世界!

「三銃士」と言えば、まず思い浮かべるのは、やはり、あの名文句ではないだろうか。

"One for all, all for one." 「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」

三銃士のスローガンだ。当然、名作「三銃士」のドラマ化となれば、多くの人がこの名文句を期待するだろう。
しかし、『マスケティアーズ/三銃士』は、仲間の絆の象徴とも言える、この言葉を"あえて"言わせない。

にもかかわらず、しっかり名作「三銃士」の魅力が満載のドラマなのだ。
英国BBCが新解釈で挑む本シリーズの魅力を探ってみよう。

 

■再現するのは、原作に宿る美学

本シリーズのクリエイター、エイドリアン・ホッジスは、現代に恐竜がよみがえるSFアクション『プライミーバル』で知られている冒険活劇の旗手。そのホッジスが、アレクサンドル・デュマ・ペールの冒険小説をどのようによみがえらせるのか。
ただ原作をなぞった脚色では、すでにやり尽くされた感じは否めない、有名すぎる物語。ホッジスは、原作の脚色はまったく考えていなかったという。その代わり、彼が原作から抽出したのは、原作が持つ美学だ。
そう、"One for all, all for one."の美学。
これを言葉にせずにシリーズ全体を通して表現していくのだ。
あえて"One for all, all for one."を言わないからこそ、アトス、ポルトス、アラミス、そしてダルタニアンたちの行動から目が離せない。
男はいつだって、説明する前に走り出してしまう生き物なのだ。
それが、ホッジスが原作から見出した銃士たちの姿だ。
もちろん原作のエピソードがまったく使われてないわけではない。原作のエピソードを下敷きにして、さらに膨らませているのだ。
原作小説が"新聞"だとすると、ホッジスたちは誰も目にとめかった小さな事件を発見してエピソードに仕上げた感じ。その事件の裏側にあったことや新聞では書かなかった背景の隙間を埋めていくような作りなので、原作小説とは違っても、その延長線は外れていない。だから原作ファンも楽しめる。
なんだか、ダルタニアンたちが小説から飛び出して、勝手に冒険している感じがワクワクするのだ。

■1話完結の17世紀、事件捜査ドラマ
swashbuckling(スワッシュバックリング)=向こう見ずな冒険活劇、というジャンルがある。ただのアクションではなく、剣やマスケット銃などを使った活劇で、銃士モノ、海賊モノがその代表例だ。時代は17世紀前後、大航海時代と海賊の時代で、時代が大きく新しい世界へと向いていく混沌と興奮が交錯する時代だ。「三銃士」はまさにこのスワッシュバックリングの王道中の王道ネタ。このジャンルの楽しさは、アトラクション遊園地にいるようなワクワク感だが、それだけでは大人は楽しんでもらえない。本シリーズのクリエイターであるホッジスが目指したのは、ワクワク・ドキドキしながらも、ちょっと考えるようなドラマ。毎回、心にちょっとしたお土産を残すようなテーマを盛り込むのがミソ。舞台は17世紀のパリ、まだ法による秩序が確立されていない時代だ。政治、権力、宗教戦争、階級社会などなど、陰謀、欲望、野心が渦巻く中で起こる事件の数々を三銃士とダルタニアンたちが最強のチームとなって解決していく。
世界史への好奇心をくすずるエピソードがちょこちょことさりげなく盛り込まれているのもニクいところ。

 

■シブメンから目が離せない!魅力的なキャラクター
確かにイケメンというのはドラマの引きになる。そしてアメリカドラマの派手さに比べて、英国ドラマの俳優は職人堅気すぎて地味......と言われることもある。
しかし、あえて言いたい!
わかりやすいイケメンも大事だが、割れた腹筋も、厚い胸板も魅力的だろうが、
地味だと思っていた男子が、突然、「あ、なんか、ステキかも...」と思えるような、恋していることに気がついてしまうような、そんな瞬間も大切ではなかろうか。
英国ドラマでは、そんなジワジワくる、キャラクターたちの魅力を楽しんでいただきたいのだ。I love you と連発しなくても愛を感じる男たちが、本シリーズの魅力だ。
もちろん、往年のイケメン・キャラクターであるダルタニアンが美男子であることははずせない。それを演じるルーク・パスカリーノは、どんな角度から見ても間違いなく最強のイケメン。彫刻のような端正な顔立ちで、しかもシャツを脱ぐシーンも他のキャラクターより多い。若い、まだ半人前の銃士ということなので、思わず応援したくなる。
しかし、回を重ねるごとに、ヒゲ面で一見ムサ苦しい、アトス、ポルトス、アラミスとい三者三様のシブメンたちから次第に目が離せなくはず。そうなってきたら、それは本作にハマってきた証拠だ。

ヤサ男のアラミス(よく見ると超イケメン)、頼れるリーダーだけど影ありまくりのアトス、そしてワイルドなポルトス。ダルタニアンからポルトスまでと興味がレベルアップしたら、もう立派な『マスケティアーズ』ファンだ。
さらに新ドクター・フーで大注目シブメン、ピーター・カパルディが演じるリシュリュー枢機卿が好きとなったら、立派なマニア!
このリシュリュー枢機卿は、今までもずっと悪役として描かれており、本シリーズでも立派な悪役なのだが、ピーターが演じるスリシュリュー枢機卿は単純悪ではない。彼は元々、国家のことを王よりも考え、フランスを発展に導いた立役者でもある。まだ幼すぎて、ちょっとおバカな王を辛抱強く支え、ある意味、フランスのために献身的に尽くしている政治家だ。きれいごとを言っていては生き残れない時代で、がんばっているシブメンなのだ。たとえ誰にも褒められなくても。悪いヤツなんだけど、極悪には思えないリシュリュー枢機卿にも注目だ。悪役がいいドラマはやはりそれだけ深くなる。

■どこなの!?思わず聞きたくなる豪華ロケ
最後に、このドラマの魅力を語る上で、外せないのは、ロケ撮影の豪華さだ。
王宮ドーン、豪華絢爛な広間ドーン、駆け抜ける森ドーン...と一気に17世紀の世界に引き込む映像世界がすごい。広間のシーンの調度品や天井画などはもはや美術館かと思うほどの美しさ。実はチェコ共和国で本物の城や屋敷で撮影したということだ。この本物が持つ迫力が、ドラマの奥行きを深めてくれる。

 

「英国ドラマは地味だ」なんてもう言わせない。気合いの入った新しい三銃士の世界をぜひ!17世紀のパリを騒がす、三銃士たちの事件簿を楽しんでほしい。

『マスケティアーズ/三銃士』は現在Huluで大好評配信中(毎週金曜日に1話ずつ配信)、本作を視聴できるのはHuluだけ!お見逃しなく。

Photo:『マスケティアーズ/三銃士』
Steven Neaves (C) 2013 BBC Larry Horricks (C) 2013 BBC